すーしー

少し心が軽くなるような 時にはシリアスにドキドキするような そんな小説を目指します 2…

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少し心が軽くなるような 時にはシリアスにドキドキするような そんな小説を目指します 2024年、年内毎日更新します(宣言)

最近の記事

ラストジャンプは、君と

私は今、空中に浮いている。 200メートルの高さから飛び降り、 今まさに地面に向かって落下している最中だ。 風が耳元で唸り、心臓は激しく鼓動を打っている。 そう、これが私の人生最後の瞬間。 バンジージャンプだ。 私の名は西島誠、68歳。 余命3ヶ月の宣告を受けた末期がん患者だ。 そして今、私は「冥土の土産」を持って、この世を去ろうとしている。 3ヶ月前、医師から余命宣告を受けた日のこと。 「西島さん、申し訳ありません。 もう手の施しようがないんです」 その言葉を聞いた時、不

    • オモイ、トケル

      2月13日の放課後。 高校3年生の木村さくらは、 友人の加納奈津美と一緒に下校しながら悩みを打ち明けていた。 「ねえ奈津美、明日のバレンタインどうしよう…」 「え?さくらが悩むなんて珍しいね。何かあったの?」 さくらは歩みを緩めながら答えた。 「実は、今年で最後の義理チョコを渡そうと思ってるんだ。 でも、時間がなくて…」 奈津美は驚いた顔をした。 「最後って…どういうこと?」 「うん…」さくらは少し照れくさそうに言った。 「大学に行ったら、本命の人にだけチョコを渡そうって決

      • 空飛ぶ車、さらに飛ぶ

        2XXX年。 地球温暖化対策の命により、すべての車は電気自動車に置き換えられた。 それにより、電力需要は急増。 新たな社会問題が発生していた。 そんなある日 天才科学者・風間博士が画期的な発明を発表した。 「諸君、我が『風力自動車』を見たまえ」 それは、車体に無数の小さな風車を搭載し、 走行中に発生する風で発電する車だった。 「これで電力問題は解決だ!」 世界中の人々は熱狂した。 「確かにこれで電力問題は解決だ」 風力自動車はまたたく間に普及し、街中を埋め尽くした。 場面

        • 店主は育てる、人と鍋

          東京・新宿の雑踏の中に佇む小さな中華料理店「福満楼」。 ランチタイムの喧騒が落ち着いた午後3時。 店主の李香蘭は厨房で次の仕込みに励んでいた。 店のドアが開いた。 サングラスとマスクで顔を隠した女性だ。 「いらっしゃいま...あれ?まさか…倉田さん?」 李は目を見開いた。 入ってきたのは、国民的人気女優の倉田美月だった。 美月はサングラスを外し、李に向かって深々と頭を下げた。 「李さん、どうしてもお願いがあって来ました」 李は困惑を隠せないまま、美月を奥の個室に案内した。

        ラストジャンプは、君と

          完璧な司会者

          東京都心にそびえ立つ高級ホテル「グランドパレス東京」。 その最上階にある大宴会場で、 日本を代表する大手企業の重役が一堂に会する晩餐会が開かれようとしていた。 会場の片隅で、今回の司会を務める沢田真紀が、 最後の打ち合わせに臨んでいた。 「沢田さん、今夜はよろしくお願いします」 ホテルの支配人、久保田英樹が声をかけてきた。 「はい、任せてください」 沢田は自信に満ちた笑顔で応えた。 沢田は業界でも指折りの司会者だ。 彼女の巧みな話術と機転の利いた進行は、 難しい場面であっ

          完璧な司会者

          したたかな人生計画

          鉄格子越しに差し込む薄明かりが、狭い独房を照らしていた。 壁に掛けられた古びたカレンダーには、 再来週の日付が赤い丸で囲まれていた。 「全国囚人文学コンテスト」の締め切り日だ。 高木誠一郎は、紙とペンを握りしめ、深呼吸をした。 殺人罪で終身刑を言い渡されてから15年。 もう52歳になっていた。 高木にとって、このコンテストこそが唯一の希望だった。 「今年こそは...」 高木は呟きながら、ペンを走らせ始めた。 「高木さん、面会です」 看守の声に、高木は我に返る。 面会室に通

          したたかな人生計画

          月の光に照らされて

          静寂に包まれた山寺の境内に、夏の日差しが降り注ぐ。 住職の佐々木円照は、本堂の縁側に腰を下ろし、遠くを見つめていた。 48歳になる円照は、ここ数年、激しい頭痛と不眠に悩まされていた。 医師からは神経衰弱と診断された。 しかし薬を飲んでも症状は一向に良くならない。 「住職、お茶をお持ちしました」 若い僧侶の声に、円照は我に返る。 振り返ると、20代半ばの新米僧侶、西山隆晃が立っていた。 「ありがとう、隆晃君」 円照は差し出された茶碗を受け取り、一口啜った。 「住職、お加減は

          月の光に照らされて

          二番煎じのおばんざい

          東京の片隅にある小さな広告代理店「クリエイト・ワン」。 薄暗いオフィスの一角で、村上駿斗はため息をついていた。 今日も彼の企画は却下された。 「村上君、君の案はいつも二番煎じだな。 もっとオリジナリティを出してくれないか」 上司の言葉が頭の中でこだまする。 駿斗は28歳。 大学卒業後、この会社に入社して5年目だ。 いまだに目立った成果を出せずにいる。 同僚たちが次々と斬新なアイデアを出す中、駿斗はいつも後手に回る。 彼の企画は常に「どこかで見たような」と言われ、 採用される

          二番煎じのおばんざい

          春風のメリーゴーラウンド

          春風が頬をなでる4月の午後、東京の下町にある小さな遊園地「夢の国」。 メリーゴーランドのオペレーターとして働く桜木美咲は、 いつもの場所に立っていた。 30歳を目前にした彼女の瞳には、どこか寂しげな影が宿っていた。 華やかな音楽が流れ、色とりどりの馬が回る。 美咲は乗客たちの安全を確認しながら、ふと目を上げた。 そこに一人の男性が立っていた。 黒縁メガネをかけ、少し癖のある茶髪をした30代半ばくらいの男性。 彼は懐かしそうな表情でメリーゴーランドを見つめていた。 「よろし

          春風のメリーゴーラウンド

          おたまの贈りもの

          真夏の蒸し暑い午後、68歳の川代弘子は庭の手入れをしていた。 汗を拭きながら、彼女は池の縁に腰を下ろし、水面を見つめた。 そこには、数匹のおたまじゃくしが元気に泳いでいた。 「まあ、可愛い」と弘子はつぶやいた。 突然、携帯電話が鳴り、弘子は我に返った。 息子の健太からだった。 「母さん、聞いてくれ。俺、会社を辞めることにしたんだ」 弘子は息を呑んだ。 「どうして?」 「もう限界なんだ。毎日残業続きで、家族と過ごす時間もない。 子どもたちの顔も忘れそうだよ」 弘子は黙って聞いて

          おたまの贈りもの

          黄金の契り

          朝日が差し込む高層マンションの一室で、 林田美紀は大きな溜息をついた。 28歳になる彼女は、外資系化粧品会社の 中間管理職として忙しい日々を送っていた。 しかし、そんな彼女の人生にかかわる話題が、 今朝の新聞の一面を飾っていた。 「老舗バナナ輸入商『黄金フルーツ』、後継者不在で廃業の危機」 美紀は記事を読みながら、額に深いしわを刻んだ。 黄金フルーツは、彼女の祖父が創業した会社だった。 しかし、父親の代で経営が傾き、美紀が幼い頃に他界してしまった。 その後、叔父が会社を引

          黄金の契り

          間違い電話のその向こう

          真夏の午後、 不動産会社「誠実ホーム」の事務所に一本の電話が鳴り響いた。 受話器を取ったのは、新入社員の藤井美咲だった。 「はい、誠実ホームでございます」 電話の向こうから、老婆の声が聞こえてきた。 「もしもし、千絵?お母さんよ」 美咲は一瞬戸惑ったが、すぐに仕事モードで返答した。 「申し訳ありません。こちらは不動産会社です。お間違えのようです」 「え?違うの?でも、この番号」 老婆の声は混乱していた。 美咲は優しく説明した。 「はい、番号が似ているのかもしれません。

          間違い電話のその向こう

          自分探しは、もう終えた

          香川県の片田舎で育った真島光平は、高校卒業と同時に上京した。 「カッコいい自分」を見つけるため、 東京での新生活に胸を膨らませていた。 田舎者丸出しの服装と方言まるだしの話し方。 光平は自分の「ダサさ」を痛感していた。 大学の同級生たちは、みんなオシャレで洗練されているように見えた。 「このままじゃダメだ。変わらなきゃ」 光平は必死に周りに合わせようとした。 流行の服を買い、都会風の喋り方を真似し、人気のある店に通った。 でも、どこか空しさが拭えなかった。 ある日、アルバ

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          かつ丼インザストーム

          雨粒が窓を叩く音が、由美の耳に響いた。 彼女は携帯電話の画面を見つめ、ため息をついた。 気象庁から発令された暴風警報が、赤い文字で点滅している。 「またか...」由美は呟いた。 この1ヶ月、週末になるたびに悪天候に見舞われていた。 今日も例外ではない。 由美は窓の外を見やり、激しく揺れる木々を眺めた。 彼女の胃袋が昼食の時間だと告げている。 冷蔵庫を開けると、中身はほぼ空っぽだった。 スーパーに行くのは論外だ。 この天気では外出すらできない。 由美は携帯電話を手に取り、デリ

          かつ丼インザストーム

          人間交差点の向こう側

          東京・渋谷のスクランブル交差点。 人々の群れが行き交う中、一人の若い女性が立ち尽くしていた。 佐々木麻衣、28歳。 スーツ姿で、右手にはスマートフォンを握りしめている。 その表情には不安と決意が入り混じっていた。 信号が青に変わる。 人々が一斉に動き出す中、麻衣はためらいがちに一歩を踏み出した。 彼女のスマートフォンが鳴る。 画面には「園部部長」の文字。 麻衣は一瞬躊躇し、通話ボタンを押した。 「はい、佐々木です」 「どうだ?例の書類は手に入ったか?」 低い声が響く。 麻衣

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          湯けむりバタフライ

          夏の終わり。 都会の喧騒から少し離れた場所にある「極楽蝶々湯」 この少し変わった名前のスーパー銭湯は、 昨年の開業以来、地元の人々に愛され続けてきた。 今日も多くの客で賑わう中、一人の中年男性が受付に立つ。 「いらっしゃいませ」 笑顔で迎えるのは、オーナーの蝶野和夫。 50代半ばながら、まるで蝶のように軽やかな物腰が印象的な男だ。 「あの、ここって本当に...」 訪れた客が、少し躊躇いがちに尋ねる。 「ええ、その通りです」 和夫は穏やかに答えた。 「ここは、蝶と一緒に入浴を

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