見出し画像

ネパールのスパイスカレー?幸せのごはん、ダルバート・タルカリ

ネパールを代表する食事、ダルバート・タルカリをご存知でしょうか。
ネパールの人たちが日々食べている食事なのですが、食べると不思議と幸せな気持ちになります。
初めて食べたのはもう20年以上前です。
その頃は写真を撮る目的でインドやネパールに行っていたので、街歩きの中で食べる食事、旅行で当たり前に食べる食事でした。
カルカッタでカレーを食べ、バラナシでも、そしてカトマンズでもカレーを食べましたが、ネパールでのカレーはそれまでとは少し違い、食べると不思議と懐かしさや優しさが感じられ、食べ終わった後にとても幸せな気持ちになるのです。そしてすぐにダルバートがとても好きになりました。

今ではインドにもネパールにも、そのほか日本も含めて様々な国にカレーがあって、それぞれ好きではあるのですが、最初にカレーの、スパイスの美味しさに気付いたのがネパールの「ダルバート・タルカリ」です。
広島市内でお店を始めて、北広島町の畑で野菜を作ったり、山菜などを使ったおかずなどを作る中で、自然と広島の土地と融合したのが「スパイスと酒 山椒魚」のコースメニューの締めのごはん、ダルバート・タルカリです。
今回はそんなネパールの国民食ともいうべき「ダルバート・タルカリ」をご紹介したいと思います。


エベレスト街道の街・ナムチェ

ネパールって意外と南にある?

ネパールという国はチベットとインドに挟まれたところ、エベレストのあるヒマラヤの麓にあたる国です。
緯度は奄美大島と同じくらいになりますが、首都カトマンズをはじめ多くの都市が高地にあるので過ごしやすく、東隣にはインド・ダージリンがあります。人は穏やかで優しい人が多いので、インドからカトマンズに入った人は、その穏やかさに感動するといいます。
東には8000メートルを超えるヒマラヤ、カンチェンジュンガがあって、インド・シッキム州と隔てられています。シッキム州といえば紅茶で有名なダージリンがありますが、ネパールとヒマラヤで隔てられたインド側がダージリン、ネパール側がイラムで、近年ネパール側で栽培される紅茶の質の高さも有名になりつつあります。

カトマンズのダルバート

ネパールの食事、「ダルバート・タルカリ」

そんなネパールで食べられている食事が「ダルバート・タルカリ」ごはんとおかずがセットになった定食のような食べ物です。
ダルバートの「ダル」は豆のスープ、「バート」はごはん。「タルカリ」はおかずくらいの意味になりますので、「ダルバート・タルカリ」を直訳すると、「汁・飯・おかず」くらいでしょうか。
少しカッコつけていうと一汁一菜と言えるかも。
質素でかっこいいですね。
インドとネパールのスパイスの使い方は少し違っています。
インドが様々な種類のスパイスを組み合わせて使うのに対して(もちろんすべてそうであるとは言えませんけど)、ネパールは(特に家庭料理が顕著ですが)数種類の限られたのスパイスを使って料理をします。
ネパール料理の味付けは比較的シンプルなので、素材の味も引き立ち、不思議と懐かしさを覚えます。その辺りがネパール料理の食べやすさみたいなものにつながっているかなと思います。
ちなみにクミンの世界一の消費国はネパールだそうで、少ない種類のスパイスを上手に使っているのではないかと想像します。

普段あまり肉を食べないネパールの一般家庭では、ごはんとダル(豆のスープ)と野菜のタルカリ(おかず)、あと漬物(アチャール)を少しといったシンプルな食事が多いです。ネパールのお米はでんぷん質が少なくさらっとしているのでとても食べやすく、あまりお腹にたまりません。そのためもあってなのかネパールではみなさんご飯を山盛りで食べます。男性はもちろん、若い女性もお皿に山盛りにご飯を盛っているのを見て、たくさん食べるなーと感心したことがありました。日本米でやったら腹パンパンで身動き取れなくなるでしょう。

お米をしっかり食べるカナと呼ばれる食事は1日2回、食事の間に食べる軽食やお米を含まない食事はカジャと呼ばれ、カナの間に食べます。
代表的なカナは「ダルバート・タルカリ」そしてカジャの代表が「モモ」と呼ばれるネパールの蒸し餃子です。

ネパール蒸し餃子「モモ」

ネパールのあいさつで「こんにちは、元気?」くらいの感じで、「カナ食べた?」と言ったりします。僕らの子供時代も「ご飯食べた?」と聞かれた記憶があるのですが、何か懐かしくて温かみのあるあいさつです。

ごはん食べた? photo:山椒魚

ダルバートの中身

そんなカナの代表「ダルバート・タルカリ」ですが、それぞれ見ていきましょう。
まずダルバートの「ダル」。ダールは豆のことで、ここでは豆のスープを指します。豆のスープは挽き割りの豆を煮込んで作ります。
1種類の豆で作ることもあれば、数種類の豆を混ぜて炊くこともあります。
山椒魚のダルは独自にブレンドした豆でダルを作っています。
日本食でいうところの味噌汁のような位置付けで、何はともあれお米と一緒に欠かすことのできないものです。

ダルバートの「バート」はお米のことを指します。
ネパールは農業国で、稲作栽培しますので主食は基本的にお米です。一部山岳地などではお米の代わりに蕎麦を栽培していて、練った蕎麦がきを食べることもありますが、多くはお米になります。
そのお米ですが、いわゆるインディカ米と呼ばれるものから、日本のお米に近いような短粒種のお米もあり、種類がいくつかあります。
お米の炊き上がりの匂いも違いがあって、山椒魚ではインディカ種のバスマティライスを使っていますが、必ずしもダルバートにはバスマティ米と決まっているわけではありません。
以前はお店も炊飯器でバスマティライスを炊いていましたが、今は鍋に湯を沸かしてお米を煮る方法で炊いています。炊飯器で炊くより不思議としっくりくるので、炊飯器は使わなくなりました。

バスマティライス

そして「タルカリ」はおかずになります。タルカリは野菜もあれば肉も魚もあります。インドやネパールでは基本的にいわゆる「カレー」という食べ物(というか概念って言ってもいいかもしれませんが)はないので、わたしたちがチキンカレーと呼んでいる食べ物は、ネパールでは「ククラ(鶏)コ(の)マス(肉)」と言ったり、「ククラ コ タルカリ(おかず)」と呼んだりします。野菜の中でも青菜の炒めたものを「サーグ」と特に分けています。ネパールではカラシナが多いでしょうか。青菜炒めは地味なのですが、ご飯やダル、カレーなどと一緒に食べると、ほっこりするおかずです。
山椒魚のコース料理や、オンラインショップの「スパイスカレーセット」は「ククラコマス」と「野菜のタルカリとアチャール」、「ダル」そして「バスマティライス」の組み合わせになって、シンプルですがちょっと豪華に一汁三菜になっています。

photo:山椒魚

次に「アチャール」ですが、わかりやすく漬物と説明することが多いです。
実際に塩とスパイスで漬け込むので文字通り漬物なのですが、野菜に限らず、例えば山椒魚では牡蠣を使って「広島牡蠣のアチャール」なども作ります。
漬物がいろいろバリエーションがあるように、アチャールにもいろいろあって、しっかり乳酸発酵まで持っていくアチャールもあれば、浅漬けのようにその場でサッと作る即席アチャールもあります。それぞれ特徴やバランスがあって食べていて飽きません。
お店のコースでは季節の食材を使ってアチャールを作るので、春には「蕗のとう」や「タケノコ」でアチャールをつくります。
ダルバートは通年ご用意しますが、アチャールや野菜のタルカリなどが季節によって変わるので、味わいも変化します。そんな季節のダルバートも味わっていただけたらと思います。

ダルバートの食べ方とは

ここまでダルバート・タルカリをお話ししてきました。
ネパールのみんなが大好きな食事、ごはんと豆のスープ、野菜(と肉など)のおかず、漬物が組み合わさった食事です。
ネパールの方や私たちの食べ方を少し説明しましょう。
ネパールの人たちはほとんど全部混ぜてながら食べます。
ダルバートが乗っているお皿はお盆状のことが多いので、それぞれをご飯にかけて食べるのに向いています。
もちろんダルバートの食べ方もお好みの食べ方で召し上がっていただけたらいいのですが、混ぜて食べてみてくださいとお願いしているのは、混ぜたほうが美味しいからです。ダルバートはご飯と汁とおかずでできた定食のようなものと言いましたが、わたしたちも普段の生活でご飯を食べるときはどうしているでしょうか。

私たちの普段の食事では茶碗を持って箸でご飯を食べ、おかずを摘んで食べています。焼肉なんかでは白ごはんにワンバンさせてから口に入れ、ご飯も食べるとサイコーです。
おかずをつまみ、ご飯を食べ、味噌汁を飲む。漬物を食べてまたご飯をひと口、それぞれを口の中で混ぜ合わせて、複雑な旨味を楽しんでます。最近食育などの話題に出てくる「口腔調味」という食べ方。三角食べですね。
いろんなおかずを混ぜ合わせることで複雑な旨味を楽しむのは、ネパールでも同じです。
わたしたちは箸や茶碗を使って口の中で混ぜ合わせます。ネパールでは箸は使わず右手で食べますので、盆状のお皿で混ぜ合わせたものを口に運ぶという食事形態になったのかもしれません。
方法は違いますが、混ぜて複雑な旨味を引き出すのは同じこと。もしよければ混ぜてみてください。
 私たちも、ダルやタルカリを少し味見程度に食べてみて、それから混ぜて食べています。混ぜることの調和がもたらす旨味が、美味しいと感じる秘密なのかもしれません。

最後に

ネパールの代表的なカナ、「ダルバート・タルカリ」をご紹介しました。
カトマンズの街中から、ヒマラヤの登山道まで食べることのできる、みんな大好き優しさの味「ダルバート・タルカリ」
スプーンではなく右手で食べるとさらに美味しさが増すという話はまた別の機会に。

最後までお読みいただきありがとうございました。
ネパールの国民食「ダルバート・タルカリ」ぜひお店やおうちでお召し上がりください。


ククラコマス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?