「今日、暑いですね~」の効用
ここ半年ほど、相鉄沿線のお店について、あるサイトで記事を書くようになった。
自分でお店を調べて、取材交渉をして、話を聞いて、記事に書く。あらかじめ、メールで取材の可否を問い合わせることもあるが、SNSやHPを持っていないお店だと、飛び込みで話をさせてもらうこともある。
うまれて初めて、飛び込み営業的なことをやることになり、はじめはかなりとまどった。失敗したし、自己嫌悪になることも多かった。「やっぱりやめればよかったな」と思ったことも数えきれない。
去年の秋、この仕事の募集を見かけたとき、興味はあるけど、どうしようかな~と悩んでいた。
というのも、私は人見知りで初対面の人と話すのが大の苦手。いや、初対面に限らず、人とのコミュニケーション全般が苦手。一日、どころか一週間くらいでも誰とも話さなくても平気だし、できれば1人でほそぼそと生きていきたい。
じゃあどうして応募したかというと、長男が中学受験の勉強を頑張っているから。子供に言うばかりでなく、私自身も新しいこと、苦手なことにチャレンジし続けようと思ったからだ。
既に書いたように、初めの頃は後悔ばかりの連続で、ほんとうにきつかった。当然のことだけど、優しい人もいれば、そっけない人もいる。笑顔でニコニコしてくれる人もいれば、仏頂面の人もいる。自分だって、どちらかといえば、愛想が悪いほうに入るだろう。
しかしそんな中で、試行錯誤しながら半年が過ぎ、いくつか思うことがあった。
そのうちの一つが、「天気の話題ってすごい!」ってことである。
実のところ、天気の話題、たとえば「今日、暑いですね~」「また雨ですね~」「晴れてよかったですね~」という類の会話は、今までまったく必要性を感じなくて好きではなかった。要点だけを手短に話して、できるだけ早くおわりにしたい。そう思ってきた。
しかし、お店の取材では、OKをもらわなければいけないし、できるだけ気持ちよく話をしてもらいたい。そうなると、必要なことだけを話す会話だけでは足りなくなる。そこで、力を発揮するのが、天気の話題というわけだ。
どうしてだろう?
たった一言、「暑いですね」「寒いですね」「雨でいやですね」なんて言葉をかわすだけで、なんだか心がぐっとゆるむ気がする。
天気というものを共有した仲間になるからだろうか?
先日も、おとずれた和菓子屋さんで、緊張する私にお店の方が、「今日はすっかり真夏ような暑さでね~、びっくりですね~」と、ゆったりのんびり話しかけてくれた。
そのとたん、なんだか緊張がほぐれて、ぎこちないながら笑顔も出せたし、たくさん話を聞くことができた。
考えてみると、当たり前の話なのだけど、お店の方のほうが、私の何百倍も接客のプロなのだ。ほんとに魅力的でフレンドリーな人は、人の心を和ませる雰囲気と話術を持っているなと思う。
今までの人生、効率重視で人見知りな自分の性格から、会話から余分なものは排除してきたように思う。
もしかしたら、その余分なものの中に、大切なことがあるのかも。自分が「いらない」と思ってきたものが、実は自分に必要なものだったのかもしれない。
半年以上、お店への取材を続けてきて、最近ぼんやりとそんなことを思うようになった。
中学受験の勉強をがんばる長男のように、私もまだ新しいことを身につけていけるだろうか?
もしそうなら、とってもうれしい。
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