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ゲームの世界ってとんでもなく理不尽だ/選ばなかった冒険

人としての役割は一体どこでつけられてしまうんだろう。
わたしと君の違いはなんだろう。

与えられた役割を全うする。
それでいいのかな。

本当にいいのかな。

***

読み終わった直後から、や、途中から悶々としてくる。

ゲームの世界に飛び込んでしまって、その中で過ごすことになる主人公。

今回読んだ「選ばなかった冒険-光の石の伝説-』(岡田淳:偕成社文庫)の本当に簡単なあらすじはこうだ。

飛び込んでしまった先のゲームのジャンルはRPG。敵もいれば味方もいるし、強さも弱さもばらばらだし、意思を持って会話ができるキャラもいるし、同じ言葉しか繰り返さないキャラもいる。この違いは一体どこで生まれるんだろう。

主人公と接したあと、戦ったあと、負けたあと、彼らは一体どこへいくんだろう。

そんなことをいちいち考えてはいては、とてもゲームになんてやっていけない。だけど、この物語はついそんなことを考えさせられてしまう話なんだ。

【あらすじ】
学とあかりは保健室に行く途中、学校の階段から『光の石の伝説』の世界に入り込んでしまう。眠ることをきっかけに現実世界とゲームの世界を行ったり来たりするようになる。前からこの世界に入っていた勇太や、勇太が仲間にしたバトルやメルと一緒に過ごし、戦術やこの世界での決まりごとなどを教えてもらいながら、光の石を手に入れ、元の生活に戻ろうとするが…。

ゲームなんだから、敵がいるのだから、と戦う術を身につけていくと、”戦うことで物語が進む”という状況にどうしても違和感があるあかり

結局その食い違いは最後まで解けることはなくて、そこにまた読んでいる側ももやもやする。わたしだったらどうする?

もやもやポイントはまだ続く。


仲間になるバトルメルはゲームの中だけの存在。話したり、戦ったり、そこに意思はあるように見えるけど、ゲームで負ければ記憶も消え、出会った場所に戻り、また”主人公”がやってくるのを待つのみだ。

当たり前だけど、レベルアップだなんてわかりやすい指針は存在しない。自分が強くなるには特訓するしかないし、そのためには敵をたくさん殺さなければいけない。

この世界での記憶は一時的なもの。もし殺されてしまっても命がなくなるわけではなく、ただ元の世界に戻るだけだが記憶は一切なくなってしまう。ただし、光の石を手に入れれば記憶は失わない。自分の人生なのに、確かに経験したことなのに一切がなくなってしまうって悲しすぎる。

さらに、いちばんのもやもやポイントは、モンスターはみんな学の学校の生徒だということ。しかも自分が誰だったかもきちんと覚えている。記憶も意思も持って生きているのに、ある日突然「いちばん弱くてみじめな生き物」にされてしまったらどうだろう。しかも自分たちと同じ学校の生徒がそのままの姿で現れていきなり殺しにきたら。


ゲームをただやっているときはそんなこと考えたこともなかったのに、実際に入り込んでしまうと、こんなにも理不尽なことに気づく。物語だけの設定もあるけれど、敵キャラにだってそれぞれ生活があることにはきっと変わりない。それを”ゲーム”だなんて。

自分が必死になって生きている世界をそんなふうに軽く扱われてしまう屈辱たるや。そこにいる人たちにとってはこれが人生なのに。

***

ゲームの世界に入り込んでしまった夜から、学とあかりは毎晩、現実世界で電話をしていた。最後の、全てが解決したあといったい何を話したんだろうか。

とても子供向けとは思えないシリアスな展開が続くこの物語。大人になってもう一度読めてよかったと思える作品だと心から。


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