トムは真夜中の庭で

誰だっていつでも子どもに戻れる/トムは真夜中の庭で

『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス:岩波少年文庫)を読んだ。

初めて手に取ったとき、ずっとずっと昔の物語なんだろうと勝手に思っていたけど、日本で初版が出たのは1975年。わたしが生まれるたったの25年前のことだった。

秘密がある庭ってすごくすごく魅力的。

自分だけの庭で、自分だけの秘密基地を作って、自分だけの友達ができて。

これは「時」をテーマにした、とてもきれいなファンタジー。

【あらすじ】
たった一人で叔母の家で過ごすことになったトムはある真夜中、昼間にはなかったはずの庭園を見つける。そこには一人の少女をのぞいて誰一人自分のことが見えないようだった。少女と友達になったトムは毎夜庭に遊びに行くようになるが…。

この物語の何に心惹かれるかというと、まず、真夜中に大時計が13回時を打つことをきっかけに不思議な庭園がある世界に行けること。

そういうちょっと普通だと信じられないようなことがうっかり起きてしまって飛び込んじゃうのいい。

それから飛び込んだ先の庭園がとんでもなく魅力的なところ。初めて庭園を見たトムがやりたいことを矢継ぎ早に思い浮かべるところがすごくいい。

芝生の上を全速力で走って、花壇の上をとびこえてやろう。温室のキラキラ光っているガラスごしになかをのぞいてやろう。それよりも、温室のドアをあけて、なかにはいってやろう。茂みのなかの空地をひとつ残らず訪ね、イチイの木々のあいだをアーチ型に刈り込んである道を歩いてやろう。イチイの木にのぼって、しげりあっている枝づたいに木から木へと移ってやろう。

庭園に対するトムのと興奮と、この庭園がどれだけ素敵ものなのかがここのくだりだけですごくよく伝わってくる。

そういえば、小さい頃にわたしが住んでいたマンションは、周りが小さな芝生に囲まれていて、小さな頃はそこに行きたくて仕方なかったことを思い出しました。

今思えば洗濯物とかが落ちてしまったとき用のスペースなのかなと思うのだけど、あの頃はそんなこと考えもしなかったし、駐輪場の金網の下から行けることを知ったときはこっそりこっそり忍び込んで走ってバレてすごく叱られて記憶があります。

行っちゃいけない秘密のスペースってとんでもなく魅力的だったよなあと思うと、そんな場所が真夜中だけに行けるとあっては魅力も倍増だしそりゃあ行くよなあとトムのことが心底羨ましいし、心底共感できるのです。

そこでトムは自分のことが唯一見える少女・ハティと友達になるのですが、このハティがいることによって時間軸のズレを知ることになるんですね。

どうも、トムとハティは同じ時代には生きていないらしい。じゃあ「あなたは誰?」「どこから来たの?」となるわけです。

しかも、トムにとっては毎夜の出来事なのに、ハティにとってはそうではないらしい。

ここの部分が明かされてくる最後は、その緻密に「へえええ」と唸ってしまうのでした。

最後の最後にトムが階段をがっと駆け上がるシーンにぐっとこない人はいないんじゃないかな。

ファンタジーなのに、夢や不思議に逃げない、きちんと整ったファンタジーが楽しめる一冊。


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