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「つぐのわ」開発エピソード チームで思いを紡ぐ(後半編)

コンセントリクス・カタリスト*では最適な体験を実現するためのものづくりの方法として、「体験のデザイン」を「リーン」「アジャイル」と組み合わせています。その実践の現場ではどのような苦悩があったのか、何が成功の鍵なのか。その実例をぜひnoteでご紹介したいと考えていました。この度、2021年10月20日にリリースされたエヌエヌ生命保険株式会社(以下エヌエヌ生命さまとさせていただきます)の「つぐのわ」のサービスに携わったコンセントリクス・カタリストメンバーが、エヌエヌ生命さまのプロダクトオーナーの小橋秀司さんをゲストにお迎えして座談会を開催しました。その後半編をお届けします。

*2022年1月11日からブランド名が「コンセントリクス・タイガースパイク」から、「コンセントリクス・カタリスト」となりました。(以下、CC)今後とも変わらずご贔屓のほどよろしくお願いいたします。

左から、小橋様(エヌエヌ生命保険株式会社)、澤田(Lead UI Designer)、北嶋(Senior UX Designer)、高松(Tech Lead)※撮影の時だけマスクを外しています。

開発中のあれこれを話し尽くしました!

前半では「つぐのわ」がどのような背景から生まれ、どのようにエヌエヌ生命さまとCCのプロジェクトがスタートしたのかに焦点を当ててプロジェクトの振り返りをしました。後半ではいよいよ「リーン」「アジャイル」をどのように進めてきたか、事業会社のプロダクトオーナーとしての在り方からコロナ下でのプロジェクトの進め方などに話が展開していきます。


「つぐのわ」とは
「経営者である夫をもつ妻」に向け、突然の事業継承に対する意識を高めていただくことを目的にした情報提供サイトコミュニティです。

前編はこちら↓



佐藤:制作時のお話を詳しく伺っていきたいと思います。UIデザインを進める上で気にしていたことはありますか?

澤田:どんなストーリーやデザインにしたら、我々だけでなく顧客である皆さんが自分の言葉で、今回つくったものに対しての考え方やストーリーを語れるようになるだろうかと考えていました。実は手を動かしてビジュアライズするよりもそこに時間がかかってしまいます。

高松:後の工程を担当するこちら側としては「ま〜だ、デザインできないねぇ」「どこか先に作れるところあるかなぁ」と話していました(笑)。

一同:(笑)

澤田:いつも高松とのせめぎ合いですね。

小橋:一時期僕も小さなアジャイルチームを持っていたことがあるんです。エンジニア二人とビジネスアナリストが一人いる、ブリッジソリューションのチームでした。本当にクイックなソリューションばかりをやっていた時は、高松さんと同じ立場だったのでお気持ちはよくわかります。まさに「せめぎ合い」ですよね(笑)

高松:そうですね、せめぎ合い。あのタイミングが一番ピリピリするんですよね。デザインがだいたい2週間くらい先行してスタートしていて、「ここから開発するからね」と言っているんだけど、もちろんその通りには進まない。「どこだったら実装できるかなぁ」と考える毎日でした。

「意思決定する力」こそがPOに必要なもの

小橋:「ジャッジすること」これが多分クライアント側の、プロダクトオーナー(以下PO)側の一番の役割だと思うんです。デザイナーの方は「良いもの作りたい」から時間をかけたいし、そこで踏ん張る。でも実装側は「これで、なんとかしよう」と逆の立場で戦っている。そこでぶつかるのが健全だと思います。そこで、こっち(PO)がブレると終わると思うんですよ。

高松:まさにそうで、今回とてもやりやすいなと感じたのは小橋さんの意思決定が「早い」「明確」なところでした。「チョイスとして「これ」と「これ」があってPros(長所)とCons(短所)がこうあります」とお伝えすると、明確に「これです」と決めていただけたので助かりました。それが、POに一番求めているもの。そこで「持ち帰ります」となると、1週間過ぎてしまい「当然、日程通りにいかなくなるよね」となるので。意思決定が「早く」「明確」なのは、本当にやっていてありがたいです。

小橋:正直、意思決定が苦手な方も結構多いと思います。僕はキャリア的に運が良かったのかもしれないですが、今までの上司の出身国が10カ国くらいなんです。(転職経験はなく)1社で働いてきたのですけれど(笑)。それは、自分が意思決定をできるようになったことに影響していると思います。あと、1社とはいえ、社内転職は多くしてきたので、様々なビジネスの進め方を経験してきました。その中で「あ、なるほど。これは意思決定が早い方が良い。遅いとロスが大きい」ことに気づいたんです。

「間違いも、間違いじゃないもない」と思うんですよね。右も左も間違いだし、正解だし。結局「決めるだけの話」だと思うんです。日本だと、文化的背景も相まって、なかなか決めるのが苦手というか、あまり得意ではない方が多い。

「体験デザイン」もそうで、「決められない」ってもったいないと思うんです。効率的ではないですしね。なので、意思決定ができる人が(プロジェクトを)引っ張った方が良いと思うんです。どこにも答えはないので。そこが肝だと思います。
なので、プロジェクトミーティングにはなるべく僕が直接出ようとしていました。ほぼ全部出た自分を褒めてあげたいと思います(笑)

一同:拍手

小橋:でも、それが結局一番の仕事なので。「決める」ことが。

高松:ミーティング多いですよね。今回のプロジェクトは、デザイン工程に入ってから1週間1スプリント状態になり、それが9月から11月末までありました。その間ずっとそのペースで進んでいて。1週間に3回ミーティングがありましたもんね。

小橋:そうですね、でも正直「このスケジュールでローンチをさせてくれ」と御社に言った時点で「覚悟」と言いますか、「これはどう考えても自分のせいだ。むしろ、これに付き合ってくれて本当にありがとう」と思っていました(笑)

でも、そこがもしかしたら事業会社さんのタイプによっては「ミーティングが多い」という反応になることもあるかもしれない。「いやいや、でもそれじゃアジャイルは回せないぜ」という感覚を体得するのはなかなか難しいかもしれないですね。

「クリアです!」が聞きたくて...

澤田:1週間に3回刻みだと、毎回「提出する物の量」は少なくなってしまうので、「アップデートして『WOW!』みたいな感覚」は与えられないんですよね。ウォーターフォールに慣れていらっしゃる顧客の方々だと毎回ドキドキしてしまいます。

でも、プロジェクトの最中に数えていたんですけれど、UIデザインの説明をした時に、小橋さんが7割くらいは「クリアです」って言ってくれて。その「クリアです」を聞けると「よっしゃOK!」「今日はうまくいった!」って感じで。そのキーワードを聞くたびに「伝わってる!」って思っていました(笑)

小橋:なるほど!僕、加圧トレーニングに通っているんですけれど、トレーナーの方に「ナイス!」って言われる時があるんですよ(笑)フォームが綺麗な時とかに。言っている側は多分なんとも思わずに言っているんですよ。全く同じことをしているんですね、僕。何も思ってなかったですもん(笑)

澤田:でも本当に部分的な、ちょっとしたアップデートしか持っていけない時とかもあるので、「大丈夫かな...全然作業をやってないと思われるんじゃないか...」というのは最初のうちありましたね。僕らとしては確実にちょっとずつアップデートしているんですけれど。

小橋:見えない部分とかもありますもんね。

澤田:その辺も、プロセスに対して同意していただくという点では、一つのハードルになるんじゃないかと思いました。

佐藤:本当に「信頼関係」があるかどうかですね。

小橋:本当にそうですね。このアプローチは信頼関係が肝かもしれないですね。

最初から最後まで非対面のプロジェクト

佐藤:その「信頼関係」の構築を、最初から非対面で、このコロナ下でするのは難しくなかったですか?

小橋:あ〜。それで言うと、CCさんと繋がりがあったことは一助になったと思います。当社内で話を進める際も「この会社さんとなら、間違いありません」と(笑)

北嶋:ありがとうございます。

小橋:そう言い切ってやれるのは、やはり、今までも御社と協業してきたという繋がりがある。そこは影響していると思います。7月に、本番とは関係ないですがPoCさせていただいて、そういう積み重ねですよね。

やっぱりオンラインなので伝わらないことも結構ある中で、汲んでいただいた部分も多かったと思っています。ビジネス側が本来欲しいと思っているものを汲んでいただき、それ以上のものを出していただくと、「これは、行けるぞ」と。弊社のチーム内でも「お〜!そうきてくれたか!そうなんだよ!」という歓声が上がりました。「あの人、すましてるけど凄いよ!」みたいな(笑)

高松:(笑)僕は(オンライン云々に関わらず)「スプリント1をいかに決めるか」をいつも意識しています。スプリント1だけは「確実に終わるし、なんなら見栄えもするようなもの」をチョイスして、「あ、大丈夫だ」って早く思ってもらわないといけないなと。その後やっていても辛くなっていくと思うんです。

小橋:確かに、スプリントの最初の方はとても重要ですよね。多分、お互いそうなんだと思うんですよね。こちらが「ビジネスサイドをしっかりわかっているかどうか」とか「どこまでコミットしているか」は気になると思いますし。我々の案件に、我々がコミットするのは当たり前なんですけれど、そうじゃないケースもあると思うんです。その確認を、最初にすり合わせながらやっていくのはすごく大切だと思いますね。

名刺交換をする高松と小橋さん。この日、澤田も小橋さんと初対面だったため名刺交換を行っていました(北嶋は別プロジェクトで対面済み)


今までで一番「アジャイル」を感じたプロジェクト。

佐藤:今までのCCと「ここは違うな」と感じたところなどはありましたか?

小橋:二つあるんですが、一つ目は、弊社がCCさんにお願いするときは「体験のデザイン」の部分をお願いすることが多かったんですが、今回は体験デザインの部分を自社内で実施していたこと。二つ目は、今までは体験デザインをベースにワイヤーフレームを作成していただくところあたりまでをお願いすることが多かったのに対して、今回はローンチまでお願いするところまでだったというところ。その二点が違いました。多分、一気通貫でお願いしたのが初めてなんです。きっと今回が一番「アジャイルっぽかった」ですね。

今回、すごく綺麗な流れだと感じました。体験デザインから入って、UIデザインがあって、これが(アジャイルプロジェクトの進め方の)「一つの答え、これかも」という感覚がありました。今後はもっと向上の余地はあると思うんですけれど、一つの型になるだろうなという印象はありました。

凄くやりやすかったです。それぞれが理論にも則っているし。でも理論に引っ張られすぎないところのバランスがすごくよかった。

佐藤:今、向上の余地はあるかもしれないとありましたが、具体的にはどのようなあたりでしょうか?

小橋:それは、(少し悩む)そんなにないんですけれど。御社とのプロジェクトで「一気通貫」は初めてだったこともあり、今回お互いにちょっと遠慮をしているところがあったと思いました。手探り感があった。そこがもうちょっと小慣れてくるとすごくいいんだろうなぁと。今後しばらく回してみると、よりスムーズな形になるんじゃないかなと思いました。

高松:私たちも、小橋さんと同じような思いを持っています。あとはチューニングかなと。「自分が入るタイミングがあと1週間早かったら」とか。「UIデザイナーが入るのももうあと1週間早ければ」とか。本当に週単位のレベルでの(内部的に言えば)アサインの話になってくるんですけれど。あとは「アクティビティの決め」ですね。そういうところで、もう少し違ったものにもなったんじゃないかと思うので。基本の型とかやっていたことはよかったと思います。やはり、あとはチューニングかなと。

小橋:そうですね、僕は振り返ってみて一つ苦しい決断だったのは、レジストレーションのところ。ログインの機能を入れられなかったことです。「落とすしかない」となってしまった。そこは元々そこはつけたかったので。でも、技術的制約はどうしてもある。そこに早い段階で気づけなかった。エンジニアがいなくて、アーキテクトもいない、開発体制のない普通の業務部門なので。そこは「どのタイミングで気づけばよかったのかな」と今も思います。でも、そこくらいですかね。

高松:今、手元でキックオフ時のスケジュールをみながら話しているんですけれど、アイデアの具体化とか、フローが組まれていくのが8月後半ですよね。この1週にエンジニアが入るか、入らないかが非常に大きかったと思うんですよね。

「つぐのわ」プロジェクトのスケジュール表


制約との戦い

小橋:今回、制約が多くて・・・。「デジタルのプロダクトだ」と言ってるのに、我々側の制約が多くて・・・。スケジュールやセキュリティ要件などの事情により、ファーストリリースはコーポレートサイト下に置かざるを得ないという条件もありました。様々な制約や条件の中で、事情を汲んでもらったのはすごく助かりました。

また、ブランディングにも制約があって「あぁ、これ怒っちゃうんだろうな、SawaD(澤田のあだ名)」って思いました(笑)。これ、でも(オランダ本社のブランディングの部門に)制約の緩和を求めたら、「結論に至るまでに1ヶ月以上かかってしまうだろうな」と思いまして。そこの「撤退の判断」とか、早めにできて良かったと思っています。

澤田:当初は、イラストを手描きにしようと思ってたんですよ。文房具屋で筆ペンとか買って(笑)

一同:(笑)

澤田:「このテイストがいいな♪」とか思っていて。そしたら「手描きはNG」だったんです。でも、そこは僕が最初にガイドラインを確認しておけばよかっただけなんですけれど。そういうので少しバタバタしてしまったんですよね。

小橋:そうしたガイドラインがコーポレートの方で決まっていて…弊社の場合は日本では解決できず、オランダ本社とのやりとりになっちゃうと、(北嶋の方を向いて)お分かりになるかと思うんですが、時間的感覚が違うこともあってですね…(笑)

北嶋:なるほど(笑)でも、あの時のSawaD(澤田)の切り替えの早さと、小橋さんの判断の早さが素晴らしかった。結構、世界観に関わってくることなので。最終的には(最終成果物を)「お気に入り」と言っていただけて良かったです。あそこは本当にみんなで「すごい調整を、すごい濃度で」やったなぁと思うんです。

澤田:方向性としては、アウトプットのテイストが違うだけで、目指したところは「(ユーザーの人たちが)自分がいてもいいと思えるような世界観」ということ。いくつか方向性があった中で、自分は「手描きがいいなぁ」と思っていただけなので…(笑)

小橋:僕、実は「手描き派」なんですよ!備品としてペンタブを買う。もう手描きにしようぜ!って話していたくらいで、手描きにしたいんです!本当は...特に日本市場だと「オリジナリティ」が出せるじゃないですか。だから、(個人としては)やりたいんですよ?

一同:(笑)

澤田:事業承継に知識がないというか、分からないであろう人たち向けという時に、僕は左手で描こうと思ってたんですよ。利き腕じゃない方で描く。そうすると、対象とするユーザーの状況と同様、拙い感じが醸成できて、すごくいいんじゃないかなと想像してやっていたんです...という気持ちだけお伝えしておきます(笑)

小橋:いやー。そりゃいいな。慣れない感じね。

澤田:そうそう、完璧な感じよりも、慣れない感じがいいんじゃないかなぁ。って考えていたんですけどね。やっと言えた(笑)

一同:(爆笑)

高松:制作秘話ね。

澤田:こういうところで言っておかないと!

高松:エヌエヌ生命さんの他のページ(コーポレートページとかランディングページなど)に比べて「つぐのわ」はゴリゴリにデザインが入っているじゃないですか。当初(CCのデザイン案を)見た時「こんなの、通らないんじゃないか」って思ってたんですけど。あれは割と強い意志を持って社内で通されて行ったんですか?

小橋:そうですね。最初は、ともかくユーザーの反応が良い=価値が伝わりやすいデザイン案でチャレンジしたいというのはありますよね。結果的にいつも最初は「高い球を投げる」ことになるのですが、、、。

一同:(笑)

小橋:「もう、わかったよ」と「そこまで言うんだったら・・・」と思ってもらう(笑)「なぜこのデザインが必要なのか」や「どのように調整すれば許容範囲に収まるのか」など、裏では社内でディスカッション・相談を重ねています。正攻法のみで行くとかなりキツイですね。

手描きのイラストは実現しなかったものの、やわらかい線と温かい色で構成された優しいページに仕上がった。


事業会社で「新しいこと」をするためには...

佐藤:なるほど。新しいことをしていくには社内で色々な壁があったのですね。今回、新規事業を起こすという意味でも、色々な壁が社内にあったのでしょうか?

小橋:実は私のチームの業務領域は「新規事業」ではなく、昔の言い方で言うと「Horizon123(Three horizons*)」の「Horizon1」に当たります。今回の話も、元々は3象限に分かれている中の「コアビジネス」領域でスタートしました。ただ、徐々に「イノベーション」の方に引っ張られるんですよ。ユーザーフォーカスすればするほど「既存ビジネスからはみ出る領域」に。


*Three horizonsとは
マッキンゼーカンパニーが提唱したフレームワーク企業の持続的かつ破壊的なイノベーションを目的とした3つのプロセス。 ホライズン1では、既存主力事業の拡大を重視。新しいチャネルや顧客を開拓し、市場シェアを高めていくフェーズ。 ホライズン2では、新規事業の構築。今の経営資源を活用しながら、新しい技術やアイデアに投資していくフェーズ。 ホライズン3では、パイロットプロジェクト・スタートアップへの投資など、新しい価値・未来を創出するフェーズ。

https://type.career-agent.jp/middle/business/management-consultant/three-horizons.html

本当は事業開発部があって、その他にイノベーションの部隊がある。うちのチームはもっとベースの部隊なんです。ただ、今回は結果的に「新しいこと」へのチャレンジ。ステークホルダーに対して「(いつもと異なり)これは既存からはみ出る領域の話だ」という認識合わせを意図的に行う必要がありました。「イノベーティブ気味なんだ!」「ポートフォリオでいうところの「ここ」(右上の方をさしながら)なんだ!」と(笑)。最初にここの認識を揃えることができると、プロジェクトゴールやKPI、開発アプローチやスケジュール感、予算(新規投資)やビジネス戦略との繋がりなど、「新しいこと」は進めやすくなる気がいたします。

逆に難しいのは、その先の進め方だと思います。新規事業立ち上げの手法、例えば「リーンローンチ」などは、「数投げ試す」方法論だと思うんですけれど、普通の事業会社のほとんどの方が「10個投げて、1個当たればいい」ではやらせてもらえずに、「投げたら、当てなければいけない」というパターンが多いと思います。「あなたが投げるその一投は、ストライクじゃないといけない」といわれる。でも何となく、「イノベーティブな方法論でやれ」といわれる。そういうギャップを抱えていることは大変多いと思います。本当は「撤退すべきは、撤退すべき」ですし。「絶対に、やらなきゃいけない」「答えを出さなきゃいけない」「でも方法論はなんか新規事業寄り、あるいはイノベーション寄り」という。それだとフィットしないですよね。その辺りは事業会社で悩んでいる方は多いと思います。

澤田:いわゆる「PoC疲れ」ですよね。

小橋:そうそうそう!

澤田:1回やってみて、もちろんストライク出さなきゃいけないけど、出なかった。そしたらもう疲れちゃって...みたいな話はよくありますよね。

佐藤:ちなみに、御社は求められる打率で言うと何割くらい?

小橋:打率で言うと、10割ですかね。うちのチームは(笑)いや、まぁ、練習試合のような案件を含めると打率は1-2割くらいかと思いますが、本番の打席に立ったら10割みたいな。気のせいかもしれません(笑)

理想的な投資割合ということで、コア事業が7割、新規事業が2割、イノベーションが1割といった話を聞くことがあります。ただ実情は、新規事業やイノベーションといった「新しいこと」の領域に3割の力を割ける事業会社さんは多くない印象を個人的には持っておりまして、打率10割が求められる背景は、ここにある気がいたします。会社としては、複数の「新しいこと」にチップを分散させたいものの、チップを分散させることが現状難しい。なんて状況があるのかなと。

私たちのチームもしばらくはまだ、打率10割を求められるとは思いますが、やり方としては「最後まで走り切る」ではなくて「手前で止める」等、工夫する余地もあるかと感じてます。

例えば、今回の「つぐのわ」でも、「価値提供」的には間違いなさそう。機会領域的にもある。ただ、これが「スケールするか、しないか」はわからない。攻めるには、攻める。でもスケールが難しいとなれば、機能追加や大幅改修を行わず、運用コストを抑えながら現状維持(継続的な情報発信のみ)という選択肢もありえます。


成功するまでやるからこそ、成功する

小橋:ただ、現実問題PoC10個やって「じゃあ、これいけそうだから、いきまーす!」なんていうことは、なかなかやれない。それに、PoCでうまく行っても、その先で上手くいくかとは限らない。

本当のビジネスの立ち上げだったら違うと思うんですけれど、通常の事業会社内であれば、そこを押し切ってやっちゃった方が僕は上手くいくんじゃないかと思っているんですよ。感覚的に。今まで、周りとかをみても。

「成功するまでやるからこそ、成功するんだ*」という、昔の偉い方が仰った言葉があるかと思うんですけれど。これもまさにそうで「折れずにやり切る」というところまでできたら、事業会社の中でもいけるのではないかと思うんです。余程、筋が悪くない限りは。

*「成功とは成功するまでやり続けることで、失敗とは成功するまでやり続けないことです」

松下幸之助の言葉

高松:うーん。なかなかできることではないですよね。そのような問題に対峙しているPOを見ても、大抵ファーストリリースまでは「ルンルン♪」ですよ。でも、出た瞬間に世の中の人は(そう簡単には)使わないじゃないですか。そこでもう心が折れちゃって、その先進めない方が多くて。「大企業で予算取っていて、謎のビジネスKPIがあって(そこの数値と)どんどん乖離していく」のが殆どの方に訪れる展開。そこを、時にはゴールを動かしつつも、前進していくことができるか。ですよね。

小橋:そうそうそうそう!!

高松:例えば、目標の数値に対して半分だった時に「でも、5割だよ?それってすごくない?」と言ったり。部分的な成功だったとしても、そこを見るというか。ゼロイチでいうと殆どの勝負負けてしまうと思うので。ここの部分は成功したよ!という見方がなかなかできないと思うので、走り続けることが大事かなと思います。期待値を持たせつつ、走り続けることが大切。

小橋:本当にそうですね、期待値コントロールなんですよね。投資を引き続き取りながら、期待値コントロールをすることは大切だと思います。やっていることの筋がまあまあよければ、ある程度まではいくはずなので。事業会社の方、皆さん結構そこを悩まれていることが多いと思います。

Non-Japaneseの方はそこが得意だと思うんですよね。最初は見ていて僕もすごく違和感がありました。「こいつ、調子いいこと言いやがって!」「現実見てないじゃないか、それ」と(笑)。そう思っていたんですけれど「そうじゃないんだ」ということに、何人かのNon-Japaneseの方々とお仕事をする中で気づきました。

達成見込みが9割のコンサバなターゲット設定と、相当チャレンジングなターゲット設定、特に「新しいこと」の領域ですと、投資する側の評価が後者の方が高くなることもあるんですよね。日本においては、綿密に計算されたターゲットを置いて「しっかりと達成する」アプローチをとることが多いと思うのですが、時には意図的に相当チャレンジングな目標を設定し、不確実性を恐れない姿勢を示すことがメッセージとしてステークホルダーに対し強く伝わることがあるかと個人的には感じています。そこはもちろん上の人にもよるんですけれど。今後はそこがすごく肝になってくると思うんですよね。

佐藤:事業会社で悩んでいらっしゃる方は多いと思いますので、このお話はきっと多くの方にとって参考になると思います。

小橋:でもね、保証はできませんよ!ステークホルダーによるので。

「つぐのわ」への反応

佐藤:話を「つぐのわ」に戻したいと思います。10月22日にローンチして、2ヶ月弱*経ちますが、「つぐのわ」ユーザーからの反応はすでにありますか?(座談会は2021年12月15日に行われました)

小橋:2021年11月22日に「いい夫婦の日調査」というものをやりまして、その中でフリー回答で「つぐのわ」についてアンケートいただいたんです。思っていたよりも(反応が)良くて、驚きました。良いこと書いてもらおうとしたわけでもないのに、約4割の人がポジティブなコメントをくださっているんです。そこがまず、すごいと思います。

その中で良く見られた言葉が「あ、そうだ。って初めて気づきました」とか、「そういえば、そうですね。早速話してみようと思います」という「初めて気づきました系」。あとは「こんなサイトがあるんですね!」「良いですね!」という「いいね系」でした。「気づきました」がとにかく多かったことと「こういうサービスってあるんですね」という反応がたくさんあったことに驚きましたね。

対面インタビューだとやはり、どこかリップサービスしたくなるところかと思うんですけれど、筆記式のアンケートでこのような反応が得られたことはとても嬉しいです。

佐藤:まさに、体験のデザインがあってこそのサービスですね。

小橋:まさにそうです。体験デザインがあってこそという。対面でのワークショップを1回だけさせていただいた、(高松や澤田は入っておらず、今回のメンバーでいうと北嶋のみが参加)あれも大きかったですね。

北嶋:いろんな部署の方がきてくださったのも良かったですね。

小橋:そうですね!

北嶋:その時に、コアバリュー案もいろんな部署の方から出していただいたんですよね。それがすごく良くて。私たちよりも皆さんの方がお客様のことをご存知なので、すごく良い言葉がたくさん出てきて。そこから、コアバリューを作ることができました。

対面ワークショップの時の写真


「つぐのわ」の今後

佐藤:もっとお話を伺いたいところなのですが、お時間もそろそろなので、最後に「つぐのわ」の今後の展望について聞かせてください。

小橋:今後の展望としては、仕組みとしていかに継続するかを考えています。ある程度、当社としてのビジネスとして維持させていかなければいけないですし、ココトモひろばも然り、継続的に投資して維持する。出して3年後に「閉じます」ではなくて。少なくとも、ここは「社会の課題領域だ」と「やるべきだ」という思いを持ってやっているので。SDGs観点も併せ見て、社会問題で言うと「事業承継」と「ジェンダー」というこの2つの課題が関係していますし、ストーリー性もある。積極的にやっていかなければならない領域であると認識しています。なので、本当に一人でも多くの人に届けたいと思っています。

あとは「保険会社がやっているから、怪しい」という壁をどう乗り越えるかというのが課題ですね。「ただより怖いものはない」と思われる。そこの不安を取り除いていかなければと今すごく思っています。

純粋に私たちとしては、経営者の妻のみなさまに対して「まずは関心を持っていただきたい」との思いが強く、「価値提供できる」との確信も持っています。「つぐのわ」で情報を得て、「よかった」「助かった」と思っていただけたり、取り組みに対して“共感”を覚えていただくことで、当社のファンになっていただけたら・・・!何かあった時に頭の片隅にうちの会社の名前(エヌエヌ生命社)を思い出してもらえたらそれは本当に嬉しいですね。そして、経営者である夫に対して何らかのタイミングで「なんか、エヌエヌっていうのがあるらしいよ、どうせ入るならそういうところの方が、良くない?」と言っていただけるようになれば、私たちにとっては、それが十分すぎるほどありがたいことなんです。


いかがでしたでしょうか。

前半と後半2回に分けてエヌエヌ生命社の「つぐのわ」サービス開発秘話をお伝えしました。この記事で「つぐのわ」が気になった方は、ぜひチェックしてみてください。面白くてためになる情報がたくさん載っています。安心して覗いてみてください。今後のコンセントリクス・カタリスト公式noteもお楽しみに。


メンバー紹介

高松真平(Tech Lead)

国内SIerでSEとして勤務後、様々なフェーズのスタートアップ企業でソフトウェアエンジニアとして従事。Webアプリケーション・モバイルアプリケーションを中心に新規サービスの立ち上げからグロース、ハイトラフィックな環境下でのサービス運用経験を持つ。アジャイル開発を中心としたプロジェクトマネジメントも開発と並行して担当し、2019年6月 認定スクラムマスター資格を取得。2019年12月にConcentrix Catalystへ入社。

澤田浩二(Lead UI Designer )

デジタルマーケティング企業、クリエイティブエージェンシーにてコーポレートサイト・プロモーションサイトの構築にアートディレクター/デザイナーとして従事。その後、UI/UXを手がけるデザインファームにて、デザイン事業の責任者/デザインディレクターとして様々なスタートアップや企業のプロジェクトにデザイン戦略フェーズから関わり、サービス企画、アイデンティティ構築、UX設計、UIデザインなど複数の領域にてデザイン支援を経験。

北嶋日斗美(Senior UX Designer)

カメラ・事務機器メーカーで8年間UIデザイナーとして勤めた後、オランダの大学院でデザインリサーチを学ぶ。卒業後は同社でリサーチャーとして医療機器関連の新規事業に関わった後、Web制作会社でUXデザイナーとしてwebやアプリの立ち上げ・リニューアルに携わる。同社にてユーザーの行動・動機を深く知るためのリサーチや、コンセプトメイク・UIデザインなどを行った後、Concentrix Catalystに参加。

スペシャルゲスト

小橋秀司さん(エヌエヌ生命保険株式会社/カスタマーエクスペリエンス部 部長)

2004年アイエヌジー生命(現エヌエヌ生命)に入社。営業やIT、プロジェクトマネジメント等の業務領域を経て、2018年に“顧客体験(CX)”特化のチームを立ち上げる。その後、2020年にカスタマーエクスペリエンス部を設立。お客さまへのインタビューやテストを繰り返すデザイン思考の手法を取り入れ、真にお客さまにとって必要とされる顧客体験の開発・強化を手がける。多くのインタビューを通じ、生命保険会社として保険金だけに留まらないサポートを提供する必要性を痛感、特に先代の他界により「突然社長になった」後継者(特に先代配偶者)や現役経営者の妻の方々に対する価値提供に強い想いを持つ。

司会進行、記事執筆
佐藤麻衣子(UX Designer)

編集長
秦野優子(Talent Acquisition & Communication Manager)


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