【連載小説】公民館職員 vol.27「進藤さん」
それから三日間はぐーたらと寝て過ごした。
いかん。やはり仕事がなくては、私はダメ女になる。
三日間、妹は超アクティブに動いていた。若さがうらやましい。あと、彼氏もうらやましい。リア充め!!
明けて四日からは仕事だ。これでぐーたら女から卒業できる……
ぐーたら女から卒業して仕事の準備を始める。
薄く化粧をし、伸びてきた髪の毛を一つに束ね、正月一日目ということで、ばっちりスーツで決め込む。
私はちずると違って私服派なので、節目節目にはスーツで決めている。本庁のころは制服だったけど、外の仕事はその点楽だ。着替える必要がないから、帰るときもすんなりだ。
私はちずるがどうして制服にこだわるのかはわからないが、確かに制服のほうが通勤着になにを着てきてもいい、という点では楽なのかもしれない。
正月明けは館長の一言で始まる。出勤者全員揃ったところで、訓示がある。嘱託員も揃ったところで、なので10時すぎに訓示はあった。
仕事始めとはいえ、することは特になく、私は例によってまた図書室に上がっていた。
上がっていく階段の部分に貼った『図書室は二階です』の看板が古びていることに気付き、あとで新しいものを持ってこようと考える。
図書室にあがると、お客様が一人。
進藤さんだ。
私が部屋に入ってきたのに気づくと、進藤さんはカウンターまでやって来た。
「先日オススメいただいた本、読み終わりましたよ」
「そうなんですね。いかがでしたか?」
「面白いは面白かったんですが、ラストがちょっと……」
「進藤さんの評価はばっちりですからね。そうかぁ、ラストがいまいち……ですか」
「いえ、悪気はないんです。ただ、ラストにもう一捻りが欲しかったという感じです」
「ありがとうございます」
「それよりも、先日は挨拶もそこそこに、失礼しました」
「いいえ、全然構わないですよ」
「佐藤先生とあんなところで会うなんて思ってもみませんでしたから」
「こちらこそ失礼しました」
そう言って笑いあった。
そこに別のお客様がみえたので、おしゃべりはそこでストップした。
進藤さんは展示にも気づいてくれたらしく、興味深そうに眺めていた。
またお客様が進藤さん一人になる。
正月は暇だから……
と、進藤さんがこちらへやって来た。
「これ、僕のアドレスです。よかったらメールください」
と言って、名刺を渡してきた。
「グローバリーカンパニー……」
それは子の辺りでも一番大きなIT企業の名前だった。
進藤さんが、裏を見て、と合図してくる。
裏を見ると、手書きでアドレスが書いてあった。
「じゃ、僕は帰るんで、また」
と言い残して進藤さんは去っていく。
なにこの、リア充展開。ようやく神が降臨したの?
私は嘱託さんにからかわれながらも名刺をしっかりとポケットに入れた。
階下に降りて喫煙所へ行くと、植田さんも休憩するところで、清掃員室へお呼ばれした。
インスタントコーヒーを淹れてくれながら、植田さんは言う。
「あんたもそろそろいい男捕まえないと、いかず後家になっちまうよ」
そこで、私はさっきの名刺の件を植田さんに聞いてもらった。
「そりゃ、逃がしたらだめだね。捕まえるべきだ」
「女の勘?」
「そうそう、女の勘!いいとこで働いてて、家族も大事にしてて、友達もいる!これを逃すとそうそうチャンスはないよ!」
「はいっ!」
「ただし、慎重に運ばないと全部おじゃんだからねぇ、焦るんじゃないよ!」
植田さんの言うことには重みを感じる。私の恋の伝道師だ。
わたしは、
「とりあえずメールしてみる!」
と意気込んでメールしようとした。
――が、文面を思い付かなかった。
仕方がないので植田さんに泣きつくと、
「あたしらの時代にはそんな便利なものなんてなかったからねぇ、とりあえず挨拶だけにしときな」
「はいっ!」
それから私は進藤さんに、記念すべき初メールを送ったのだ。
文面は
『拝啓 進藤様 先ほどはメールアドレスをいただきありがとうございました。これからもよろしくご贔屓にお願いいたします。 敬具 佐藤』
送ったあとに植田さんに見せたら、堅い!堅すぎる!と、しかられました。とほほ……
かくして、進藤さんとの距離がグーンと近づいた私であった。
よろしければサポートをお願いします。 生きるための糧とします。 世帯年収が200万以下の生活をしています。 サポートしてもらったらコーラ買います!!コーラ好きなんです!! あと、お肉も買います。 生きていく・・・