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【連載小説】俺様人生 vol.28「救いの手」

救いの手は神々しく輝いて見えた。


「年齢も年齢だし、そろそろオフィスを閉めようかと思ってね。でも、機材ももったいないし、どうだろう、レンくん。あとを継いでみないか?」

オフィス光の社長が言う。

うんうんうん、継ぐ継ぐー!!


元々オフィス光には常駐の人間がおらず――というか社長と折りが合わずにみんなやめていったんだけど――ほぼ社員はバイトの俺だけしかおらず、あとはヘルプの人を交互に入れて回していた。


今まで社長がやってきたことは、ほとんど俺も手伝ってきたから、だいたいわかる。

あとは社長の残してくれた人脈を自分で開拓していけばいい。


まさに棚からぼた餅とはこのことだ。



俺は昔から運がいい。

ここぞというときに絶対ラッキーが回ってくる。

アスカもそう言っていたけど、俺にはなんだか神様がついていて、ピンチのときには必ず助けてくれる。

いつからかわからなかったが、気づいたらラッキーの中にいた。


アスカにもそのツキは回っているようで、なにかと景品をあててくるようになる。



社長がしていたことをそのまま受け継いで、自分の足を使って俺はやることにする。

いわゆる現場社長といったところか。



俺だって社長とうまくやっていたわけじゃない。

反発も反抗もしてきた。

でも、どこかで社長を信じていた。

だから今の俺がある。



俺は社長の基盤をそのまま受け継ぐ。

忙しくて、てんてこ舞いになり、帰宅が午前様になることも珍しくなかった。


そんな俺に、アスカは毎晩帰りついたときに出来立てご飯が食べれるようにご飯の時間を調整してくれた。

最初の頃は、食べずに一緒に食べようと待っていてくれたのだが、それだと俺が余計にプレッシャーを感じるだろうから、と先に食べるようになった。



俺の仕事はなかなか順調にいかない。

今までの現場は慣れたもので、ヘルプを一名いれて撮影して、後の編集は俺が自分自身でやる。


あまり効率が良いとは言えない。


そこでバイトをやとうことにした。

バイトの面接にきたのは、恐ろしく真面目でお堅そうな女子だ。

動画編集をした経験があるという。

ならばあとは撮影だけだな、と現場に駆り出す。

ところが撮影は初めてだったらしく、ぼろぼろだ。

気長に育てようと、毎日動画の練習をした。


ところが、ある日出勤してこなくなる。

「私にはその仕事は無理です」

電話を入れると、そう返事が返ってくる。


この業界をやっていると、よくあることだ。


また新しいバイトを一人探す。

給料が安いかも、と考えて値段を少し上げてみる。


ちなみに編集はアスカにも覚えてもらい、事務所に常駐して仕事をしてもらう。

そのために原付を1台購入する。


今度のバイトは男の子だ。

撮影も編集もしたことがないらしいが、体力には自信があります、と言う。

頼もしい。

撮影にはいるにあたって、シーバーの使い方も伝授する。

さすが男の子、機械の操作を覚えるのが早い。


カメラを構えて、俺の指示通りに撮影していく。


帰って画像を確認する。

ちょっとピントが合わない部分もあるが、なかなかのセンスだ。


「うん、合格」

俺は彼に言う。

彼の名前は北条マサト。

「これからよろしくな」

差し伸べた手を、ギュッと、固い握手をした。


マサトは今まで何をしていたかと言うと、大学をやめて引きこもっていたらしい。


なぜやめたのかもはっきり覚えていないし、引きこもるつもりはなかったが、気がついたら引きこもっていたらしい。


そんな自分を変えるため、ここにきた、と言う。

そして、撮影していくうちに、これが天職だと思ったと言う。


確かにカメラは手振れもなかったし、指示通りにバッチリ撮っている。


天職というのは大袈裟だが、うちに欲しい人材と巡り会えた、と思った。

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