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【連載小説】透明な彼女 vol.6「二人暮らし」

その日から俺とユイの二人暮らしが始まる。


相変わらずユイは十歳くらいの少女のままだ。


コンビニに行くと、俺はユイに何が食べたいか尋ねる。

横にいた人が怪訝そうにこちらを見る。

ユイは

「あたし、幽霊だからお腹空かないよ」

と笑って言う。

「そ、そうか……」

俺はコンビニ飯を買って外に出た。

ユイが危なくないように俺は車道がわを歩く。

いつもの癖だ。


ユイは楽しそうに側溝の蓋を一つあきにとんで歩く。

そんな姿は今まで見たことがない。

年齢が下がっているせいだろうか、言動がやはり幼い。


ユイを連れて帰り、ご飯を食べる。

ユイが

「コウヘイ、いつもそんな食事なの?」

と、聞いてくる。

「まあな……独り暮らしだとこの方が安いこともあるし」

するとユイは

「あたしがご飯作ったげるよ!」

と言い出した。

幽霊がご飯作るなんて聞いたこともない。


ユイはお玉を持って見せる。

「コウヘイと一緒にいるときはできるみたい」

と、自慢気に話す。

そういや、俺はユイの手に、身体に触れることができる。

他の人には見えもしないのに、なぜだろう。


翌日はユイを連れてお買い物だ。

ユイが言ったものを次々かごに入れていく。

さすがに二袋を越えそうになったので、これ以上はダメ、とユイに言う。

それというのも、車は親父の持ち物で、俺は普段自転車だからだ。


前のかごに一袋入れて、あとの一袋は左手側にかけた。

バランスが悪い。

あと一袋分買ってもよかったかな……と思う。

後ろの座席にユイを乗せ、俺は走り出す。

途中バランスを数回崩しながらもアパートへ着いた。

ユイはひらりっと自転車から飛び降りる。

「おいおい、危ないだろ、そんな降り方」

「幽霊だから関係ありませーん」

こういうところも、まだまだ子どもだ。

俺のユイはもっと落ち着いていて、興味のあるものにだけは子どものように突進していった。


俺は久しぶりのユイのご飯を待ちきれず、台所を何度も行ったり来たりした。

ユイに

「もう、いいから座ってて!」

と言われ、仕方なくテレビの前に腰かける。

やっぱり幽霊だからか、思うように包丁が持ち上がらずに四苦八苦しているようだ。


しばらくすると、いい匂いが漂ってきた。

出来上がったらしい。

今日はミネストローネらしい。

ユイの生前得意だった料理だ。

さすがにユイも疲労困憊したようで、暑いーといいながらクーラーの前を陣取った。


幽霊にも疲労困憊とか、暑いとかあるんだなぁと、妙なところで感心しつつ、俺は舌鼓を打った。

相変わらずユイの料理は旨い!


俺は久しぶりに食べる料理に感動を覚えた



翌日からは学校だ。

俺はとりあえず今日の講義の教科書をバッグにいれて出発した。

ユイには家で待っとくようにと散々言ったにも関わらず、ついてきてしまった。


久しぶりの友人たちとの再会。

みんな元気そうだ。


「ねえ、誰が誰なの?」

と説明を乞われて、つい、説明を始めてしまう。


「お前、誰にしゃべってんだよ?」

言われてハッとした。

俺以外にはユイの姿は見えてないのだ。

「いや、なんでもない」

と、誤魔化して流す俺。


やっぱりユイを学校に連れてくるのは危険すぎる!


そんな中で、今季受ける講義を決めていく俺。

「あー、それよりもこっちの講義の方がコウヘイ向きかも」

ユイが横から口出しをする。

「俺はこの講義を受けたいの!!」

横にいた学生が驚いた顔をする。


やっぱりユイを置いてくればよかった。


専門学校生だったユイには大学は未知の世界だ。

それはそれは輝きに満ちた世界だろう。

ユイは色々なチラシを欲しがった。

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