【連載小説】公民館職員 vol.37「面々」
今年のバレンタインはおっさんにチョコを送ることにする。
そして進藤さん、長沢さんにも送ることに。
まだ直前ではないのであまり混みあっていないデパ地下で、ゆっくりチョコを物色する。お目当ては試食のチョコだ。
試食は数ヶ所で行われていて、全部制覇した。
別に特にチョコが好きというわけではないが、甘いものはやはり好きだ。甘いものは世界を幸せにする。
あれから進藤さんは自宅に戻れず、長沢さんと半同棲の生活を送っているらしい。
長沢さんのご両親は、進藤さんのご両親が許すなら、許すと言ってくれたらしい。
「子供の幸せが親の幸せだから」
と言ってくれたらしい。
問題は進藤さんのご両親だ。
やはり年齢があがると、それだけ許容範囲も狭くなるだろう。長沢さんの家みたいなケースは極稀なケースだ。
私はあれから数回、進藤さんのお供で進藤さんの実家にお邪魔した。
お母さんのほうは若干歩み寄る姿勢を見せているが、お父さんのほうは聞く耳持たず、と言ったところだ。
当然だろう。ある日突然息子が同性愛だと知って受け入れられる長沢さんのご両親のほうが稀だ。
進藤さんは、
「ゆっくり時間をかけてわかってもらうよ」
と言っていた。
二人は米国の国籍を得るべく、準備を始めたという。
植田さんはしゃべることができるようになった。まだ、言葉はたどたどしいけれど、しゃべる・聞くことには問題がなさそうだという。
私はお見舞いへ行き、毎日の様子をできるだけ細かく話して聞かせた。
植田さんは掠れた声で、それでも一生懸命に答えようとしてくれた。その気持ちが嬉しくて、私は泣いてしまった。
植田さんはたいそう私を心配してくれて、私は更に泣いた。
公民館の仕事は決算に向けての準備を開始した。
公民館にきているお客様から、こんな声をいただいた。
「あなたたち職員さんが頑張ってくれるおかげで、毎日が楽しいの」
それを聞いて私はハッとした。
仕事がマンネリ化していると思っていたけれど、それすらも大事なひとこまであると言うことを再認識した。
「毎日が楽しい」
そのために自分は頑張るんだ!!心に再度言い聞かせて頑張ることができる気がしてきた。
私たち公務員は、縁の下の力持ちだ。
そんな簡単なことを忘れてしまっていた。
みんなが快適に過ごす環境を整える。それが私たちにできることだ。
こんな単純なことを、なぜ忘れていたのだろう。
私はより一層仕事に励むことにした。
バレンタインは少し早かったけれど、おっさんにチョコを送った。本命チョコだと気づいてくれるかな?
進藤さんと長沢さんにはバレンタインの日に渡した。二人でデートなところにお邪魔虫して、コーヒーを飲んで帰った。
やはり好きな人といるせいだろうか、進藤さんはいつもより輝いて見えた。長沢さんも同じ。
ご両親に認められていない辛さはあると思うが、それより二人でいられることの幸せの方が勝っているように感じた。
私も早く見つけなきゃ……
三月に入り、決算のピークを迎える。だが、前もって準備をしていたおかげで、今回はものすごくスムーズだ。
甲斐くんも調子がよさそう。ちずるは言わずもがな。
――そんな中、一通のメールが私に届いた。
『出向取り止めになりました。そちらへ戻ります』
おっさんからのメールだ。出向取り止めってどういうこと?と思いつつ、急いでメールを打つ。
『早く帰ってきてね!』
私はおっさんとの日々を思い出していた。
最初の飲み会の時は、なんでこんなおっさんつれてくるんだよ!とおもったんだよね……
東くんのときに散々な目に遭って、そのまま友達になったんだっけ…
私はふと思うことがあった。
そしてそのことに対して、私の決意は固かった。
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