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【連載小説】公民館職員 vol.10「飲み会」

「ユキちゃん、コピー屋の男を狙ってるって?」

どこで聞いてきたのか植田さんが言う。

「えーっ、どこで聞いたんですか?」

「バカだねえ、あんたが携帯の、その、メールアドレスとかを聞いたとき、あたしは近くで掃除してたんだよ。筒抜けだよ」

「他の職員にも知られちゃってますかね?」

「それはないと思うよ、あんとき近くにいたのはあたしだけだったからねぇ」

私は少しホッとした。

「でも、あの男は落ちないよ。あたしもスナックに勤めが長かったからわかるけど、あの子は落ちないね」

「うーん、そうかなあ……」

「まぁ、頑張ってみるのも一つの手だけどね」

「自分なりにやってみます」


私は朝から

「おはようございます。お仕事頑張りましょう」

と、夕方の

「お仕事お疲れ様でした」

この二つのメールは欠かさず送った。

相変わらず三通に一通のペースで返ってくる返事。

嫌われてるのかなぁ……

でもそこで挫けないのがポジティブマシンの私の長所だ。


もはやとりつかれたように、東くんにメールをする。外勤に出るときも、東くんに会いたいな、と必ずいれてメールする。

東くんからの返事はやはり一日一通だ。


私はこのころから東くんに食事に行こうモーションをかけていた。

その甲斐があって、友人も連れて食事に行こうという話になる。

ちずるに打診する。ちずるはまじめでBLにはまっている一途女子なので、絶対に行かない、と言う。そこをなんとか……今度のコミケに一万円だすからということで話はまとまった。


食事会当日、私はかなり気合いの入った格好で出勤する。ただ、少し業務とは関係ない格好だったかもしれない。

週行事のときに補佐からからかわれた。

そんなに嫌みなものでもなかったので、機にせず一日を乗り切る。


トイレで念入りに化粧直しをする二人。

「私、いっても誰とも話せないかもしれない」

ちずるは弱気だ。そんなちずるを励ましながら会場に着いた。

男性陣はまだ来ていなかった。

お茶で場をもたせる私。

三十分も遅刻して彼らはやって来た。

「ちょっとしたトラブルがあって、遅くなって申し訳ない!」

「いいのよ、いいのよ、仕事だもん」

と私。


食事会は始まった。最初はやっぱりビールでしょ、とビールを五つ頼んだ。

「あとからもう一人来るから」

「あっ、そうなんだ」


私は家庭的と言うことを思い切りアピールするため、飲み物や食べ物に気を配る。

やがて遅れてきた人物が到着した。

ごっついおっさんだった。

ちずるは元々生身の人間に興味はなかったから、狙う人物がかぶることなど、とうていあり得なかった。

食事会は微妙にしらけたものになった。

二次会のカラオケはまあまあだったが、ちずるはやはりアニソン縛りだった。三次会――と思っていたら、東くんともう一人はバスの時間があるからと帰ってしまった。

ちずるに至ってはいつの間にかいなくなっていた。

最後に残ったのは私とおっさんだった。

私も帰ろうと試みたが、タクシーで送るからといって聞かない。

仕方ないので、ついていくことに。

すると、少し古ぼけたドアの前まで案内された。

洒落たバーだった。正直、おっさんがこんな店を知ってるなんて意外だった。

「俺の高校の後輩の店なんだよ」

私はジントニックを頼んでしばし待った。

綺麗なグラスに入れられてジントニックは出てきた。おっさんが頼んでいたのは、覚えてる限りではマティーニだったと思う。

意外と寡黙な人だが、話してみると優しい人だ。


私は東くんのことをバリバリ聞きまくった。

おっさんはそんなことばかり聞く私にも、親切にいろいろ教えてくれた。

東くんには彼女がいないこと、家族構成、趣味に至るまでいろいろ教えてくれた。


おっさんには感謝することばかりだった。

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