きのゆきこまち

箱庭歌集 解 songs as sandbox

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いろとりどりの真歌論(まかろん) #20 武田信玄

為せば成る為さねば成らぬ成る業を成らぬと捨つる人の儚さ ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  「為せば成る為さねば成らぬ何事も〜」という有名な言葉がある。この歌の本歌は武田信玄による以下のものだという。「何事も〜」というのに馴染がある身からすると、馴染みすぎて説教厨じみた鬱陶しささえ感じる何事も〜よりも、人に伝えるつもりも押し付けるつもりもなくふっと本音が溢れたようなこちらの歌のほうが好ましい。  が、ひとついただけないのは「人の儚さ

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    • いろとりどりの真歌論(まかろん) #19 小式部内侍

      大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立 ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  小式部内侍は和泉式部の娘だ。才女と名高い母を持つ身とあって、この和歌は以下のエピソードと共に話題にされる。  母に同じく、和歌がうまいと評判であった小式部内侍だが、彼女の歌は母親の代作ではないかという疑いがあった。その疑惑をもとに「歌会で出す歌はできましたか? 両親が赴任している丹後に代作してよおかーさん! と連絡しましたか? 早くしないと間に合い

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      • いろとりどりの真歌論(まかろん) #18 川北天華

        問十二 夜空の青を微分せよ 街の明りは無視してもよい ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  わたしたちは、学校教育を通じて「問い」には明確な「答え」があると思ってしまうように躾けられている。よって、「問い」であるような文章を見ると筆者はどのような「答え」を求めているのかに思いを馳せ始める。もしかしたら、その「問い」に答えは出ないかもしれないのに。  こうやって、文章を「問い」の形式にして人にぶつけるだけで、他人の思考リソースを奪い、時

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        • いろとりどりの真歌論(まかろん) #17 藤原敏行

          秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  本来、暦(カレンダー)の役割は予言である。いつ頃から涼しくなるか、いつ頃にどんな野菜のどんな種を蒔くべきか、いつ頃から台風の害が増え始めるか。そんなふうな「今、何をすればいいか」の判断において重要なのは「これからどうなっていくのか」という見通しである。そして、それ(予言)を与えてくれるものが暦だ。夏であることを確認するために暦を見るという行為

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        いろとりどりの真歌論(まかろん) #20 武田信玄

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        • 自歌自解 箱庭歌集
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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #16 在原元方

          年の内に春はきにけりひととせをこぞとやいはんことしとやいはん ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  正岡子規にけちょんけちょんに貶された歌として有名な短歌。古今集の一首目である。初の勅撰和歌集の一首目にふさわしい短歌なのか? こんなしょーもないのが? というのが正岡子規の主張らしい。が、私としてはむしろ、この歌こそが古今集の頭にはふさわしいと思う。  古今集の冒頭には、「仮名序」と呼ばれる前書きがある。「やまとうたはひとのこころをたね

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #15 俵万智

          「この味がいいね」と君が言ったから7月6日はサラダ記念日 ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  実際は「この味がいいね」と言ったわけでもなく、7月6日でもなく、サラダでもなかったらしい、現代日本で一番有名なこの短歌。彼氏に唐揚げを作ってあげて褒められたエピソードが根底にあるらしいが、最終的には「ある人に料理の味を褒められたことが、とてつもなくうれしかった」という抽象的な部分しか共通点は残っていない。(「君」の性別も年齢も、作中主体との関

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #15 俵万智

          いろとりどりの真歌論(まかろん) #14 宇都宮敦

          だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  前提の共有されていない議論には、あまり意味がない。というより、議論とは前提の飲み込ませ合いと言えるのかもしれない。どちらの前提が受け入れられたかで、議論全体の、立場の勝敗が決まっていく。たとえ間違った前提であっても、議論をする人たち全体が共有してしまえば、議論すること自体は可能だ。とはいえ、議論の勝敗と事実は同じであるとも限らない。

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #14 宇都宮敦

          いろとりどりの真歌論(まかろん) #13 読み人知らず

          わかきみはちよにやちよにさされいしのいはほとなりてこけのむすまて ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  古今和歌集の本編は、全文ひらがなで書かれていたらしい。現存するものは藤原定家が文意にそって漢字変換して整理したものの写しであるそうだ。  この歌は初句の五音が「きみがよは」と差し替えられたうえで、国歌になっている。元は、古今集に収録された「わかきみは」から始まる読み人知らずのもの。だから、当初はひらがなで書かれていたはずだ。とはいえ

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #13 読み人知らず

          いろとりどりの真歌論(まかろん) #12 在原業平

          見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  「酸っぱいレモンを思い浮かべないでください」という言葉に出会ったとき、人の脳はまず、「酸っぱいレモン」とは何かを理解しようと活動してしまう。ここでいう活動とは、記憶から「酸っぱい」や「レモン」にまつわる知識や記憶を引っ張り出して合成する作業だ。だから、脳にとって「酸っぱいレモンを思い浮かべないでください」という文と、「酸っぱいレモンを思い浮かべてくだ

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #11 後水尾院

          花よいかに身をまかすらんあひ思ふ中とも見えぬ風の心に ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  後水尾院御製。  江戸時代の天皇で、中宮は徳川家康の孫の和子(東福門院)。……という境遇から察せられるに、世が完全に武家主導の時代の天皇だ。風俗(遊郭)通い天皇であったらしい。――なんて背景を知ってからあらためて読み直すと、いっそうにリアルでドライな歌だ。  そうか、花は風に身を任せることを当然だと思っていない可能性もあるのか、とこの歌を初め

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #11 後水尾院

          いろとりどりの真歌論(まかろん)  #10 和泉式部

          黒髪のみだれもしらずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  わたしはこれを「黒髪のみだれもしらずうち臥せばまづかきやりし」がまとめて「人」にかかると解釈したい。「黒髪のみだれもしらずうち臥せばまづかきやりし人ぞ」「恋しき」だ。  そう解釈するとなにが楽しいかって、暗闇でエッチにいちゃついているカップルのシーンを頭に思い描きながら読み進めていたら、最後の4音「恋しき」でそのシーンからいきなり黒髪をかきや

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          いろとりどりの真歌論(まかろん)  #10 和泉式部

          いろとりどりの真歌論(まかろん) #9 三島由紀夫

          益荒男がたばさむ太刀の鞘鳴りに幾とせ耐へて今日の初霜 ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  「益荒男(マスラオ)」とは荒々しく立派な男、あるいは男らしさを意味する。和歌の世界では万葉集のような素朴さ野性を感じさせる作風を益荒男振(マスラオブリ)と呼ぶ。万葉集の歌は本当に益荒男振と言っていいか、素朴野性と言っていいか、という問題もあるがそれはおいといて。  このご時世、男らしさ女らしさなんてものが自明にあると言い切るのは問題だ。そもそも

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #8 北原白秋

          君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  短歌といえば57577だ。あまり短歌に興味をもったことがない人でも、なんとなく短歌らしい57577のリズムや音程のイメージだけはあったりするだろう。あまり短歌に馴染みがない人のほうがこの57577のリズムに縛られがちだが、短歌ガチ勢はその段階を越えたところにいる人もいる。破調や自由律というやつだ。  だが、待って欲しい。破調や自由律に行く前に、君

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #7 エリ(女子高生短歌! より)

          甘いもの我慢したのも苦いのに飲み込んだのも好きだったから ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  短歌に興味をもってすぐのころ、さまざまな短歌にまつわる本やウェブサイトを読み漁った。そこでたまたま見つけたのが、この短歌。ときはブログ全盛期。とある女子高生が、ブログ上に短歌を載せており、最終的には書籍化されたらしい。わたしはその歌集の元となったブログに流れ着いたのだった。  「好きだった」という表現が恋の終わりとその終わりに対して、もはや

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #6 崇徳院

          いかでいかで歎きを積みし報いとて逢い見てのちに人をわびしむ ○●○●○ ●○●○●○● ○●○●○ ●○●○●○● ●○●○●○●  男性アイドルのファン、なんてものをやっていると色々面白いファン文化を垣間見る。ファンはアイドルを恋愛対象として見ている、というのが必ずしもそうでないということやら。  恋愛はエンタメである。エンタメである以上、単純に面白いかどうかが問われる。面白いかどうか、で言えば、恋の成就はつまらない。結婚に至ったところで、日常とはそもそもさほど面白い

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          いろとりどりの真歌論(まかろん) #6 崇徳院

          情に溺れず、理に病まず、短歌でアウフヘーベンしてく、生きてく

           進化への遷移を拒みシーケンス海路をシーラカンスは泳ぐ  十年ほど前から短歌を作っている。  より良い短歌を作るための勉強として現代短歌と呼ばれている歌を読み進めるうちに、私のセンスはどうやら流行に千年ほど遅れているらしいと気づいた。  主に、正岡子規のせいだ。正岡子規が古今集をディスり倒したせいで――。  そんな絶望の中、私は自分という読者のためだけに短歌を作り続けている。 SStaRなど星の数ほどいる街でいま目の前の推しだけ欲しい  その一心で。  自分は短

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          情に溺れず、理に病まず、短歌でアウフヘーベンしてく、生…