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それはどうしてもここにいるのだ

はじめまして。ただの大学生です。

月が変わってしまって、衝撃を受けています。

この記事では、以下の本『ひとを〈嫌う〉ということ』より、人への「嫌い」について、そして人間の複雑さについて考えてみたいと思います。

中島 義道, 1946- 出版者 東京 : 角川書店 出版年 2003.8

「嫌い」という現象の分析

人を嫌うのは自然である。人はときに理不尽に相手を嫌いになり、同様に相手に嫌われてしまう。現象として仕方のないことだ。
問題は、人を嫌うことにどう向き合うか、である。

著者が言いたいことはじつはこれだけなのですが、これは「嫌われても気にするな」とか「よい人間関係には、なれ合いのスキばかりじゃいけません」などという話ではない、ということを説明するため、ありとあらゆる引用を使ったりして、理論的に、ときに雑に、話を進めていきます。

著者は、人を好きになるのと同じくらい、たくさんの人が嫌いで、また、自らの妻子にも激しく嫌われているそうです。

読んでいると、私が「苦手」という言葉で処理している感情が、正直に「嫌い」と分析されている感じがしました。

そういう些細な「嫌い」のお話です。

人はなぜ人を嫌うのか?
を、71頁~「『嫌い』の原因を探る」で分析していて、ここだけでも十分面白いです。

私と「嫌い」

仲良くなるのは無理かな。仲良くしようと思われても、受け付けがたいな。

人は特に理由が無くても、あるいはごく些細で本人にどうしようもない理由により、人を遠ざけてしまう。
例えば容姿だったり、服の趣味だったり、態度、箸使い、におい、などなど。

私にとって、この本の「嫌い」を感じやすいのは声、話し方かなと思います。

声が気に入らないから嫌い、話し方が嫌い、などと、ほとんどの人には感じません。

ほとんどの人には感じないからこそ、感じたときにうろたえます

そんなことで人を嫌い、遠ざけてどうするんだ。
私は最低の人間だ

しかし、本書ではそういう現象を「自然だ」と断言しています。
現象を好むと好まざるとにかかわらず、「嫌い」は確かにそこにいるのです。

「人生の充実」というキーワード

「みんな大好き」「ひとを愛している」「嫌いな人はいません」
は、この本に照らすと、実は不自然なのかもしれません。
著者は、こういった博愛主義的な考えをもてるならいいが、持てなくても「人生は充実している」と考えます

人を嫌い、人を嫌う自分を嫌い、嫌な感情ばかりの人生を、「貧しい人生だ」と表現するのではなく、「充実している」と考えるのは、とても興味深いなと思いました。

充実するには、人が人を嫌ってしまうことを認識し、「『嫌い』が起こったぞ」と正しく理解して、なお「さらりと嫌って」いくこと。
だそうです。

心に残った二文

私のお気に入りの二文を引用し、ご紹介します。

この著者は、自らも引用しているのですが、『人間失格』の主人公に似ているところがあり、なかなか面倒で自己嫌悪の強い人です。

こうして、私は一見他人と交流しているように見えるかもしれないが、自分の中の他人、つまり自分に都合のよいように殺菌し加工した他人、つまり自分自身と交流しているだけなのです

p.203

「嫌いな人なんていない」「人を嫌うことはしない」の正体がこれであった場合、確かに「嫌い」をする人生の方が豊かで充実していそうだ、と思いました。

これは、私の趣味なのですが、死の床で「あの人もいい人だった、この人もいい人だった、みんないい人だった、私はみんなを愛していた、好きだった、私はみんなから愛されていた、好かれていた」と納得して息をひきとるより「この原因で好きだったあの人もあの原因で嫌いだった、あの原因で好きだったこの人もこの別の原因で嫌いだった、みんな何らかの原因で好きだったが、みんな何らかの原因で嫌いだった、私はみんなを独特の仕方で愛していたが、また独特の仕方で憎んでいた、私はみんなから独特の仕方で愛されていたが、独特の仕方で憎まれていた」と思いめぐらして息をひきとるほうが好ましく思うのですが……。これは相当変わっているのでしょうね。

p.69

長ったらしくて面倒だけれど、正直で複雑で、こういうのが人間だよなあと思います。

人間は複雑

日常的に潜む「嫌い」。

些細だからこそ、根本的に解決しようという動きも起こらず、それを追究した小説やドラマが無いから、架空の世界から教訓を得ることもできず

そしてまた、「嫌い」が発生していく。

特別にコンプレックスのない人、要素だけ取り出せば「幸福」な人も、実は複雑な「嫌い」を日常的に感じている。人に嫌われている。

それを消そう消そうとするのではなく、ごまかすのではなく、「嫌い」がいる、と認める。

この考えを実践することが正しいかどうかということより、このように考えていくことで、人間がいかに複雑で、面倒くさく、疲れてしまう生き物であるか、というのを忘れないでいられるのかなと思いました。

「みんな好き」と言ってしまうと、私は忘れそうになります。
それは、それが、私にとって一番怖いことです。

忘れて得る面白み。思い出したときに得る面白み。そのとき発生する羞恥心と罪悪感。
全部あった方が、みっしりと「充実した」人間らしい人生になるのかもしれないです。

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