コミュニティ

本当に輝く地域通貨とは?

キャッシュレスや仮想通貨(暗号資産)が何かと話題を集めているようなので、前回、「決済」についてまとめてみました。

前回のノート
「自分にピッタリのキャッシュレスはどれ?! 決済を整理してみた。」

「まとめ」を引用すると、以下の通りです。
・「何を支払うのか」と「どうやって支払うのか」の組み合わせによって、いくつかの種類に整理される。
・それぞれの決済方法について、利便性(使える地理的な範囲・店舗の多さ)、支払い時の手間、管理の手間、割引などの特典などの特徴が異なる。

今回は、そこでのポイントを踏まえて、これも最近注目されている「地域通貨」について考察してみたいと思います。

目次
・どの決済方法が優位なのか
・地域通貨の経済的な意義・効果
・輝く地域通貨 ~好意を大事にするコミュニティ~
・まとめ

どの決済方法が優位なのか

個人個人にとって、どの決済方法がマッチしているのか、については、それぞれの生活や好みによって決まってきますが、一般的には、
・「使える地理的な範囲・店舗」が多いほうが、
・支払い時や管理の手間やコストが少ないほうが、
優位な決済方法、ということになるでしょう。

なかでも、「使える地理的な範囲・店舗が多い」ということは決定的に重要です。いかに手間が少なくコストが安くても、また特典が充実していても、何かモノを買おうとするときに支払えないようでは決済手段としての意味がないからです。
そうすると、現時点では、リアル店舗では「円をキャッシュ(現金)で払う」のが、バーチャル店舗では「円をクレジットカードで支払う」のが優位、ということになります。円キャッシュ(現金)は、日本全国津々浦々どこにいっても、どんな小さな店舗でも、少額の支払いでも使えるので、極めて安心感が高いのです。

もちろん、円キャッシュ(現金)は店舗側のハンドリングコストが高い、消費者側もいちいち数えなければならないなどのデメリットもあり、キャッシュレスの拡大に向けて官民挙げて取り組んでいるのはご存知のとおりです。
各種電子マネーやQRコード決済が目白押しですが、いずれも利用者と並行して、加盟店の拡大に注力しています。電子マネーはQRコード決済と比べて支払う場面での手間が少ない、QRコード決済は導入時の店舗側のコストが安いなど、いろんな特徴はありますが、なんといっても「使える地理的な範囲・店舗が多い」ことが決済手段としては重要だからです。

一方で昨今、使える地域が限定的な「地域通貨」が脚光を浴びているようです。地域経済の活性化などを狙っているようですが、本当に効果はあるのでしょうか。地域通貨が輝きを放ち続けるためには、なにがポイントとなるのでしょうか。

地域通貨の経済的な意義・効果

■地域通貨のデメリット
まずデメリットから入るのもどうかと思いますが、「使える地域・店舗が多い支払い方法・手段のほうが優位」ということからすれば、日本の中で使える地域が限定的な地域通貨は決済方法としては弱点をかかえています。

通貨とは少し違いますが、「決済」ということで言えば鉄道のICカードがあります。地域ごとにSuica、Icocaなどが開発され、当初は地域ごとにしか使えませんでしたが、相互開放して例えばSuicaは大阪でも使えるようになり、ユーザーの利便性は格段に向上しました。

円キャッシュ(現金)は日本全国どこでも使えるし、各種電子マネーやクレジットカードも、それぞれの加盟店では日本中で使えるなかで、その地域(一般的には、県単位よりは、市や町、街などもっと小さい範囲で通用するケースが多いようです)でしか通用しない、隣町でも使えないというのは弱点でしょう。

逆に地域通貨をやめて一つの経済圏として繁栄するために統一通貨としたのが「ユーロ」です。ユーロについては、国ごとの金利政策や財政政策の自由度が下がる、などのデメリットもあるようですが、国をまたいで移動したときに「両替」することなく同じ通貨が通用するのは便利なことです。
日本の中の一地域はそもそも国や県から独立した経済運営をしているわけではなく、独自の金利をつけるわけでもないのですから、ユーロの場合にようなデメリットがあるわけでもありません。

■地域通貨による地域経済活性化はどうか
経済が活性化する、ということは、簡単に言えば「消費や生産が増える」ということだと思いますが、消費の場面で使われる決済手段の観点から、消費が増えそうかどうか、考えてみます。

・地域住民の消費は増えるのか
給料が増えない限り、今まで円キャッシュや電子マネーで支払っていたのが地域通貨に変わったことによって消費が増えるわけではない、と考えられます。家族の人数でも増えなければ、必要な食料や日用品も変わらないでしょうし、娯楽や教育への消費も増えるわけではないでしょう。
地域通貨を利用すればポイントがつくと、そのポイントを使った消費分は幾分か増えるかもしれませんが、それは地域通貨でなくてもポイントをつければいいのであり、地域通貨よりもポイント還元率が高い電子マネーであれば、そのほうが効果が高い、ということになります。

・旅行者
観光資源のある地域の場合には、インバウンドの外国人や国内旅行者に地域通貨に両替してもらったうえで消費してもらう、ということもあるので、そうした旅行者消費が地域通貨を導入することによって増えるのであれば、一定の効果はあることになります。
しかしながら、地域通貨を導入したからといって、いままで一泊だった旅行者が二泊になるわけでもなく、飲食の回数が増えるわけでも、お土産の購入点数が増えるわけでもないのではないか、と考えられます。その地域通貨を使ったら割引、ということで増える、というのであれば、円キャッシュ(現金)や他の電子マネーでも割引すればいいのであって、地域通貨の効果とは思えません。
日本の他の地域では使えない地域通貨に両替させてしまえば、「使い切る」ことによる効果は少しあるかもしれません。しかしながら、これも地域通貨などと大げさな構えにしなくても専用クーポン券などを導入して、それで支払いができるようにすれば同じことではないでしょうか。しかも、自分が海外旅行するときもそうですが、使うと思う分しか両替しない(少し足りない分はクレジットカードなどでカバーできる)ことからすれば、それほどの効果があるとは思えません。かつ、やや「せこいやり方」という感じもします。
当たり前の話ですが、旅行者の消費を増やそうと思ったら、経済の裏方、血液である通貨や決済方法でなく、観光資源となる名所や料理、お土産など購入対象そのものの魅力をあげるに尽きるのではないでしょうか。

・地産地消、地域内での循環
地産地消の推進、または近隣のその他の地域に行かず地域通貨の通用する範囲内での消費率が増える(地域内での循環)ので地域経済が良くなる、という考え方もありますが、どうでしょうか。

地産地消自体は、ある意味美しいと思います。運送費がかからないのでCO2は減るし、新鮮なものが食べられたり飲めたりします。その地域ごとの特徴が出て、レストランや居酒屋などの魅力・特徴にもなると思います。しかし、それは地域通貨がなくても実現可能だと考えられます。

地域内での循環、地域内でお金が回ることによる活性化、というのもよく言われるところです。これまで隣町まで行っていた買い物を、地域通貨の流通する狭い範囲内にすれば、その狭い地域での消費は増える、ということです。しかしながらこれは、他の地域も同じように囲い込みに取り組んだら、それぞれが独立的になるだけで県全体・国全体で活性化するわけではありません。また、他の地域でしか買えないものは引き続き流出します。
なによりこれは、トランプ大統領によるアメリカファースト、ブロック経済化と同じようにも思えます。一般的に、自由貿易経済圏はなるべく広くとったほうが全体が栄えるように、国内・県内でもそれぞれの地域で得意なもの、特徴のあるものに取組み、それをなるべくフリクションレスに流通することで、国・県全体でも、またそれぞれの地域でも活性化が望めると考えられます。

・キャッシュレスの普及
地方都市など、これまで円キャッシュ(現金)が支配的でキャッシュレスが進展していない、という地域では、「キャッシュレスを普及させる」という点ではある程度有効かもしれません。街の店舗が協力して、「おらが町のコイン」などとして加盟店が増えれば、それなりにキャッシュレスが進むかもしれない。
とは言え、これは先駆け的・先行馬のような位置づけとなり、あとから全国で通用する大手がその地域に入り込んできたら駆逐される可能性が高いでしょう。規模の経済の面から運営コストでは太刀打ちできず、ポイント還元などのキャンペーンでもかなわない、またインバウンドの外国人にしてもその地域のみに滞在するのでなく日本の他の地域も周ることからすれば、その地域だけの通貨の魅力は大きくないでしょう。逆に、一度キャッシュレスの便利さに慣れた店舗・住民は、大手の電子マネー・QRコード決済への抵抗感は低くなっており、すぐに移行してしまうかもしれません。

こうして考えてくると、経済活性化やキャッシュレスの進展を狙いとするのであれば、わざわざシステム・ネットワークを構築して狭い地域のみで通用する地域通貨を作り、マーケティング・プロモーションコストもかけて地域通貨を運営する意義・効果は分かりにくい、ということになりそうです。

では、地域通貨は本当に意義のないものなのでしょうか。

輝く地域通貨 ~好意を大事にするコミュニティ~

システムベンダーやブロックチェーン関係者が地域通貨を持ち上げたりするのは、商売っ気もあるので、必ずしも単純に信用できないような気もしますが、一方で何人か尊敬する人々が地域通貨に注目しているようでもあり、何か視野にはいっていないメリットや効果があるのかもしれません。

■地域への貢献活動の盛り上がり
地域の清掃や、雪かき・掃除・ベビーシット・車への同乗などの助け合いに際して、地域通貨でお礼する、ようなことが考えられます。

もちろん、これは「円」でもできるのですが、嫌らしさが少し減るような気がします。というのも、元々は好意・ボランティアで地域貢献している方々に「お金を払う」というのは、ある意味で好意を無にする、強い言い方をすると侮辱的な行為、ともなりかねないので、お金お金してしまう「円」ではなくて、地域通貨・「おらがコイン」なら少しはベターかな、という感覚です。完全に解決することにはなりませんが。

また、これも少し嫌らしい話ですが、これまでマネタイズされていなかった活動から報酬が得られるので、その分を消費することによる経済的な効果も多少なりとも望める、という面もあります。

■地域の連帯感・帰属意識・アミューズメント感
何か地域で取り組んでいるもの、共有しているものがあると、連帯感や帰属意識が向上するでしょう。モノやサービスを買ったときに「おらがコイン」で払う、という愛着感・アミューズメント感もあります。

■より良いコミュニティの実現
お金は大事なもので、モノを売る・買う媒介として欠かせません。一方で、その機能性・便利さのゆえに、モノやサービスそのもの、それを提供している人々よりも、お金のほうが価値がある、という勘違い(大きな勘違い)につながりかねません。

「円」を代替することが狙いではなく、好意のやりとり、気持ちのやりとりを媒介するツールとして、「物々交換」をもう少しだけ進めたツールとして、地域通貨を運用するのは大いにありえます。というか、地域通貨のいわゆるGDP的な経済活性化効果はあまり期待できないことからすると、こちらが本命、地域通貨が輝く道だと考えられます。
この場合には、「通貨」と呼ぶのがふさわしいのかどうか、という感じもしますが。

先ほど「地域への貢献活動」として書いたような、地域の清掃や、雪かき・掃除・ベビーシット・車への同乗などの好意、野菜・果物など自分で作ったモノ、手伝い・汗へのお礼として渡すものが欲しい、というときの道具です。これにより、その地域・コミュニティにおける生活において人々の交流や好意のやりとりが促進される、そんなツールです。
こうした機能が主であることを前提に、従の機能としてその地域における一定の店舗で支払いにも使える、そんな感じになるでしょう。

こうして考えると、電子でなく紙のほうがいいような気がしてきますが、もろもろの生活がデジタル化してくるなかでは、スマホに入っているほうが便利でしょうか。

物々交換から脱却し、お金で払えるようになると、しかもそれがデジタル化されると、人と人との関係が希薄化しても暮らせるようになります。
逆に、お金がない世界では、自分が何かをつくって、誰かと出会い、それを交換して暮らす、モノではなくてサービスも含め人とやりとりして暮らすことが必要です。有名な梅田悟司さんの「世界は誰かの仕事でできている」が実感できる暮らし、人の努力に感謝できる暮らしですね。

人と人とのつながり、好意、感謝が軸となるコミュニティです。

地域通貨(繰り返しですが、「通貨」が適切ではないかもしれませんが)の本当の役割は、このようにコミュニティをより良くすることなのではないか、と思います。

まとめ

・決済手段としては「使える地理的範囲・店舗が広い、多い」ほうが優位。
・その中で地域を限定する地域通貨はそもそも弱点が大きい。
・また、地域経済の活性化という観点からの効果は大きくない。
・地域通貨は、お金信仰で失った、人と人との好意や気持ち、努力のやりとりを活性化し、感謝する暮らしを取り戻す、より良いコミュニティの実現に使っていきたい。

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