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中央線と人生のゆらぎ

月曜朝の中央線は最低だ。
すし詰めの電車に人がどんどん詰め込まれる。
1週間の仕事のスタートを前に、乗客の顔はみな一様に暗い。車内にはどんよりと憂鬱な空気が立ち込める

武蔵境を出て、車内の息苦しさがピークに達するころ、三鷹駅手前の跨線橋の柵に書かれた落書きが一瞬目に入る。

"YOU ARE SO BLUE"

仕事に向かう通勤客を嘲り笑うようなその文字列を見ると、俺は思わず頬がふっとゆるんでしまう。
自分の心の内側を見事に言い当てられた感じがしたからだ。

休み終わりのめちゃくちゃ憂鬱な気持ち。
気がかりな仕事への不安。

悪感情に支配され、ナーバスになっている状態の自分から一瞬だけ離れてスカッとした気持ちになる。今日は少しだけがんばってみようか、と前向きな気持ちが出てくる。

この落書きを書いた人間は、月曜朝の憂鬱さをよく知っている。
今、この瞬間の俺と同じように不安と不満を抱えながら中央線に揺られていたのかもしれない。

こうして俺は"YOU ARE SO BLUE" の落書きに1日を乗り切る元気をもらっているのだが、一方で、メッセージを刷り込まれることで自分の心の奥底に揺さぶりをかけられている。

正直、今の生活にどこかしっくりきていない。
俺自身が進みたい方向から外れた人生を歩んできてしまっていることが薄々わかっているのだけど、軌道修正をかけることができていない。
生活のため、将来のキャリアアップのため、これまで努力してきた時間をムダにしないため、と色々な理由を言い訳にしてしまっている。
自分が悪いのか?自分が間違っているのか?

そんな、自分のあり方に疑問が止まらなくなったとき、虚を突いたように"YOU ARE SO BLUE" がメッセージが投げかけられる。
自分の人生に「ゆらぎ」が生まれる。それが日に日に大きくなってくる。

そして、「ゆらぎ」を自分の中で処理できなくなった俺は、とうとう会社に行けなくなってしまった。
長い休職生活に入り、途中下車の人生がスタートすることになる。これが3年前の話である。

幸いなのか、中央線は寄り道のしがいのある路線だ。沿線には魅力的な街が沢山ある。軽くぶらぶらするだけでも楽しいが、探索すればするほど新しい発見がある。

同じ要領で、自分自身を再探索することで、また何か人生をやり直すヒントを見つめてみようか。
時間がどれだけかかるのかはわからないけれど、得体の知れない「ゆらぎ」とちゃんと向き合って、
もう一度自分の生き方を見直してみようか。
直近は、そんな感じで生き方を見つめ直してきた。

中央線沿線の街に引っ越してから、「ゆらぎ」を軸に自分の人生が変わりつつある。
現在は、仕事に戻ってはいるものの、途中下車の旅はまだまだ終わっていない。
またどこかで、旅の成果物を出すことができればとおもっている。

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