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ヴァンパイアノーモア【ショートショート】

昔、ヴァンパイアという生き物が存在していた。人の生気を吸い取り負のオーラを纏った人の顔をした化け物だ。そんなヴァンパイアを人々は恐れながらも実際にどう駆除していくかわからず危険性を理解できてない者も少なからずいた。
そんなヴァンパイアを王と勇者、賢者たちは力を合わせなんとか排除して国を平和で豊かにしようと策を講じた。

王は兵士を集めて直接武力を行使するか法を作り牢獄に全員ぶち込んでから処刑するかを提案。
勇者は国民には生活がある、兵士を集めるまでもなく我々が直接相手をしよう、と勇み立った。
賢者は暫く考え込んだ。ヴァンパイアの恐ろしいは人間との区別がつかない、と柔らかな声で話し始めた。誤って民を殺す事も考えられる。直談判をしてもエネルギーを奪われるのみ。
だったらどうしたらよいのだ、と王は嘆いた。
わたくしに任せてくだされ、と賢者の声の今までの柔らかさが強く堅固な意志に移り変わる。

祭りが開かれた。今の繁栄に国民全員が貢献した祝いということで規模は嘗て程なく大きく展開。老若男女みな歌い踊り喜んだ。そこが賢者の狙いだったのだ。

ヴァンパイアは負の感情を感染させてしまう黴菌のよう。人の幸せを妬み行く先々には必ず不幸な人が出てしまう。それでヴァンパイアが把握可能になり抹殺を勇者と王を護る侍衛に依頼。

王は賢者を讃えた。ご褒美には何をしてやろう、と問いた。しかし賢者はほんの一瞬微かな笑みを浮かべただけでこう言った。わたくしは国の事、民の為にと想いしただけで、国の平和、民の幸せこそが、わたくしのご褒美であり、どんな富にも代えられぬものだ。
王は感心し、では、せめて君の名が、志が、後代にも知れ渡ることのできるよう、肖像画を画家に頼もう。代々王の側に常々君と同格の賢者が仕え国の未来を熟慮を厭わない願いを込めて。

そうして偉業を成した賢者の功績は、遥か未来の私たちを感化しつづけてゆく。

ヴァンパイアは、人を不幸にしてしまう。決して人と生活を共にするべき生き物でない。



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