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アメリカ・バイデン政権はどうなるのでしょう。

今年の十大リスクのトップ

国際政治学者イアン・ブレマー氏が主宰するシンクタンク「ユーラシア・グループ」が、毎年年頭に世界の十大リスクというリストを発表しています。今年のリストの一番目は「46*」となっています。何のことかと思ったら、「46」というのは46代目アメリカ合衆国大統領のことで、「*」というのは「注釈つき」ということのようです。

つまり、46代目の大統領(次期バイデン大統領がこれにあたります)は、人口の半分近くから正統でないと見られているという意味で、「注釈つき」であるということです。もちろん、バイデン大統領自身が十大リスクのひとつということではなく、その政権運営の危うさのことを指しているわけです。

ちなみに、4年前にトランプ大統領が選出されたすぐ後、17年年頭の十大リスクのトップは「独立したアメリカ」でした。言うまでもなくアメリカは独立国なのですが、ここでいう「独立した」というのは、アメリカが世界で不可欠な役割を果たさねばならない責任からの「独立」というトランプ大統領の考え方を表現したものでした。

言ってみれば、4年前は新しい大統領がその思い通りに政策を運営することがリスクであり、今度は大統領が思い通りに政策を運営できないことがリスクということになるでしょうか。

トランプ大統領のレガシーはどうする?

バイデン政権が直面する課題について、トランプ政権がメチャクチャにしたものをいかに回復するかということだという人が多いようです。ただ、前政権のことをそこまで全否定することはできないでしょうし、そうすべきでもないと思います。実際問題として、トランプ政権も少なからぬ成果を挙げたことは認めなければならないでしょう。

例えば、北朝鮮の問題。政権後半には尻すぼみになってしまった感は否めませんが、一時は本当に戦争になるのではないかとさえ思われた緊張状態から、急転直下で米朝首脳会談、南北首脳会談が実現し、戦争の危険は遠ざかりました。このことは、トランプ大統領という徹底的に「非常識な」大統領でなければ実現し得なかったでしょう。最終的な解決には程遠いままで停滞し、最近は北朝鮮が米国に対する挑発を強めていますが、トランプ政権が実現した北朝鮮をめぐる緊張緩和はバイデン政権にとっても重要な足掛かりになるでしょう。

中国との関係

中国との関係については、どうでしょうか。トランプ大統領は当初、同盟国との間も含めて、あらゆる自由貿易体制を否定するところから始めました。それによって、TPPからの離脱やNAFTAの修正という結果に至りましたが、関税引上げによる貿易戦争は徐々に対中関係に絞られていきました。その経緯からみても、トランプ大統領自身は中国自体に対する懸念というより、貿易赤字削減に主な関心があったと思われます。

中国については、ウイグルなどの人権問題や、不公正な国策的経済運営(技術移転の強要や国内企業への不透明な補助金など)、技術覇権の拡大とそれによる不透明な情報収集など、従来よりアメリカ国内で懸念が広がっていました。それらについてあまり有効な手段は打てていませんでしたが、自由貿易を軽視するトランプ大統領の「お陰」もあって、関税の引上げや懸念のある中国企業との取引停止などによる圧力が強化され、中国から一定の譲歩を引き出してきました。

アメリカ政府や議会の内情は詳らかではありませんが、トランプ大統領本人の貿易赤字削減の関心に、周辺の「まともな人たち」の対中懸念全般が乗っかった形で米中関係が進展してきたのでしょう。バイデン政権も、ここまで強めてきた対中圧力をチャラにすることはせず、引き続きこの圧力を維持し、中国側が国際社会で責任ある行動をとるよう求めていくものと思います。

トランプ政権は「ショック療法」だった

北朝鮮や中国の話は一握りの例ですが、単純にトランプ政権が全くダメで、バイデン政権がアメリカをゼロから建て直すというものではないと思います。トランプ大統領自身の人格については言うまでもなく疑問符をつける人が多いでしょう。トランプ大統領が選出された16年の大統領選挙以前から、女性蔑視発言など、どのような視点からも擁護しがたい言動が繰り返されてきましたし、バイデン大統領就任式への出席を拒否するなど、やはり支持できるものではありません。

しかしながら、トランプ大統領は4年前に民主的な選挙によってアメリカ国民に選ばれた大統領であり、今回の選挙でも史上で2番目に多い得票数を得ているわけです(1番目は今回のバイデン氏)。コロナ禍がなければ、トランプ大統領が再選されていた可能性も十分にあったでしょう。問題は、このような「非常識な」大統領が求められるほどに、アメリカ国民が切迫した状況に置かれているということです。

その意味で、トランプ大統領の存在は、アメリカにとって必要な「ショック療法」だったのかも知れません。そして非常識な大統領を、まわりの常識的な人たちが必死に修正し、何とか形を整え、それなりの成果を挙げた。非常識さが奏功したところもあれば、そうならなかったところもある(後者には、気候変動問題や対中東政策が含まれるでしょう)。それがトランプ政権だったのでしょう。

議会はどうにか民主党優位

1月5日に行われたジョージア州決戦投票の結果、議会については、結局のところ、上下両院ともどうにか与党民主党が制することになりました。しかしながら、これでバイデン大統領の政権運営が盤石ということではありません。上院は、民主党、共和党同数の50議席で、採決で同数の場合は副大統領が務める議長が票を投ずることになるため、どうにか民主党が優位になっています。

しかし、思い起こせば、トランプ政権の前半、トランプ大統領が声高に主張していたオバマケアの改廃はとん挫しました。この時、上院で共和党51議席、民主党49議席でしたが、共和党内のわずかな反対により、トランプ政権はオバマケア改廃法案を通すことができませんでした。

このように、議会との間の「ねじれ状態」がなかったとしても、僅差の場合には難しいかじ取りが必要となるわけです。その中で、バイデン新大統領は、トランプ政権の成果を最大限にいかして足元を強化するとともに、トランプ大統領の周辺が軌道修正しきれなかった政策を正し、再び世界でリーダーシップをとれるアメリカを目指していくことが期待されます。

長くなってきましたので、今回はこの辺にしたいと思います。今回は総論的な内容でしたが、トランプ政権の回顧とバイデン政権の展望については、論点も多岐にわたりますので、今後も折にふれて考えていきたいと思います。


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