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「選手に寄り添い、本音を引き出せる存在でありたい」水戸ホーリーホック・トレーナーのこだわりとは

Jリーグに入ってから苦労したことは?と尋ねると、「正直、そんなにないですね。大変なことはあるけれど、とにかく毎日楽しいんですよ」と答えてくれたのは中村 祐基なかむら ゆうきさん。J2リーグの水戸ホーリーホックでコンディショニング兼トレーナーを務めています。
今回は、プロサッカーのトレーナーとしてのキャリアはカンボジアからスタートしたという異例の経歴の持ち主である中村さんに、トレーナーになるまでの経緯、これまでのキャリア、仕事へのこだわりなどを詳しく聞きました。

中村 祐基 水戸ホーリーホック・コンディショニング兼トレーナー

小学生の頃からサッカーを続けてきたが、高校時代のけがをきっかけにプロサッカー選手への道を断念。専門学校に進学し、トレーナを志す。卒業後はカンボジア1部リーグのPhnom Penh Crown FC でチーフトレーナーを務めた。帰国後はガイナーレ鳥取のコンディショニングトレーナーを経て、2021年からは水戸ホーリーホックに所属している。

パフォーマンスをどれだけ上げられるか
選手一人ずつに合わせて個別プログラムでサポート

ーー現在、コンディショニング兼トレーナーという立場でお仕事している中村さん。まず、担当している業務について教えてください。

選手のパフォーマンスをどれだけ上げていけるかを意識し、コンディションの管理をしています。ウォーミングアップや選手の走行距離の管理、競技特性に合わせた筋力トレーニングや、復帰間際の選手のリハビリなど、活動の幅はかなり広いです。ケアや治療といった痛みを治すこともしますが、トレーナー4人体制なこともあり、僕はマイナスを0にするより、現状からどれだけ力を高められるかという面に注力しています。

ーートレーナーとひとことで言っても、かなり幅の広いお仕事なんですね。

そうですね。僕は鍼灸師や柔道整復師などの医療資格はないのですが、トレーニングに関する資格やコーチのライセンスをもっています。競技の特性をふまえて選手のパフォーマンスを高める関わり方ができるのが自分の強みですし、クラブから求められている関わり方かな、と。

ーー中村さんが、お仕事で特にこだわっているのはどんなことですか?

意識しているのは、世界基準の選手をクラブから排出することです。水戸は昨年もJ1に移籍した選手が多く、育成型のクラブなんて言われることもあります。監督やヘッドコーチが代表の育成に携わってきた方で、よく「世界基準で見てほしい」と言われることが影響していると感じます。

そのため具体的には、筋力トレーニングでは試合から逆算してトレーニングを調整するのではなく、より体を大きくするため試合前でもある程度トレーニングをいれています。目の前の試合のためにコンディションを整えるよりも、重視しているのは数年後。そのための体づくりや食事の指導ですね。

トレーニングも食事も正解は一つではないので、選手1人ずつに合わせた個別の関わりを心がけています。遺伝子検査の結果、成果の出やすいトレーニングやストレスを感じやすいものなども分かるので、選手とコミュニケーションを取りながら、より効果が出やすい個別プログラムを作っているんです。

けがをきっかけにスポーツトレーナーの道へ

ーートレーナーとしてのこだわり、たっぷり教えていただきありがとうございます。しかし中村さんは、元はプロのサッカー選手を目指してらっしゃったんですよね。

はい、小学生の頃からサッカーを続けてきて、プロになりたいと思っていました。一方で、中校生くらいからは、ユースや強豪校で活躍する友人を見てそれは難しいかもしれないとも感じていました。進路選択の一番のきっかけは、高校2年のときにすねを骨折したことです。長い間プレイできず、復帰後もパフォーマンスは上がりませんでした。

それでもサッカーに仕事で携わりたい想いは持ち続けていましたし、自身のけがをきっかけに「復帰するときにはより強くなって戻ってきます!」という選手を手助けできたらいいなと思うようになりました。それで、専門学校に進学してスポーツトレーナーの勉強をし始めたんです。

ーーご自身のけがが、選手からサポート側へと進路を変えるきっかけになったんですね。専門学校時代は、どんな風に過ごしていたのですか?

授業以外にも、学内の実習にできるだけ多く出ていました。トレーナーになった後、選手と関係がつくれなければ、見せてもらうことも、触らせてもらうこともできないんですよ。選手の求めていることや悩んでいることは何なのかを汲み取るため、できるだけ時間を作って現場に出るようにしていたのはプラスになりました。行かないと分からないことも多いですから。
知識や技術も、セミナーに参加するなどして学校で取れる資格以外も取得しました。

ーー専門学校時代も積極的に学んで来られたんですね。卒業後は、すぐにサッカーのトレーナーになることができたのでしょうか。

それが、できなくて。Jリーグのあるクラブのトレーナーになれるかも、という話もあったのですが、卒業直前に話がなくなってしまったんです。就職先がなくなって困っていたところを救ってくれたのが山田さん(The StadiuMの代表・山田晃広)です。お世話になった先生に紹介していただいて、アルバイトから仕事を始めました。その頃は会社の経理作業をしたり、クライアントのパーソナルトレーニングをしたりと、いろんなことを経験し、学ばせてもらいました。

言葉も通じないカンボジアへ
トレーナーとしての技術が、選手からの信頼につながった

ーーそんな中で、急きょカンボジアに行くことになったんですね。

はい。山田さんから「カンボジアのクラブがトレーナーを探しているから、行ってこい」と。社会人2年目のことでした。できるだけ早いタイミングでJリーグでトレーナーがしたかったけれど、医療資格を所持し、経験を重ねないとなかなか難しくて。プロのサッカーチームで仕事ができるならとすぐにカンボジア行きを決め、その2週間後には現地にいましたね。

ーー決断力と行動力がすごいです!

正直、当時の自分には「行く」という選択肢しかありませんでした。チャンスがあるならどんなものでも掴んで経験を積むつもりだったんです。

カンボジア行きが、山田さんからの話だったことも大きいです。講師をする際の現場などいろいろなところに連れて行ってもらいましたし、トレーナーとしての在り方も彼から教わりました。山田さん自身がスペインでトレーナーを務めた後、日本に戻って活躍しています。行動を共にしながら学ぶうちに、海外に行くことへのハードルは低くなっていました

ーーカンボジアでは、スムーズにトレーナー業務ができたのでしょうか。

いえ、英語が話せませんでしたし、何より、カンボジアにトレーナーという職業はないんです。「カンボジアの医療体制をどうにかしてほしい」というクラブからの依頼を受けて、メディカルスタッフのような形での着任でした。

ーーかなり難しそうな状況です。そこから、どのように仕事をしていったのですか。

言葉は、ミーティングを録音して何度も聞き、英語に耳を慣らすところから始めました。上手く話せないなりに分かる単語をつなぎ合わせて話しかけると、それでも何とか伝わるんです。そのうちに選手や監督が食事に誘ってくれるなどして、徐々にコミュニケーションが取れるようになっていきました。最後の頃は、通訳なしで仕事ができるようになりましたね。

選手から信頼を得られたのは、技術をしっかりと身に付けていたのも大きかったです。マッサージやテーピングをして変化を感じてもらえたら、またやってほしいと思ってもらえる。毎日のケアで使えるリンパトリートメントやテーピングなど、現場で使える手技を十分に身に付けておいて良かったです。

そこからリハビリの選手を担当したり、ウォーミングアップしたりと、任せてもらえることが増えていきました。最後には、メディカルスタッフ的なことに加えて、トレーナー業務、フィジカルコーチ的な役割もやっていました。

ーーカンボジアに行って、ご自身のプラスになったと感じるのはどんなことですか。

些細なことが気にならなくなりました。ストレス耐性が上がったんでしょうね。カンボジアでやれたんだから、日本でもやれるなって思えるようになったのは大きいです。
カンボジアでの経験を思い出すと、今はそこまで大変だと感じる仕事はないですし、とにかく毎日楽しいです。

世界と闘える選手を水戸ホーリーホックから排出したい

ーー帰国後は、ガイナーレ鳥取でコンディショニングトレーナーとして従事。その後、現在の水戸ホーリーホックへ。トレーナーとしてプロサッカーチームで6年、Jリーグでは5年お仕事をしてきた中村さんが、今目指しているのはどんなことですか?

選手1人ずつに寄り添って、世界と闘える選手になる手助けをしていくことです。トレーナーにはいろんなタイプがいますが、選手と年齢が近く、いじられやすいキャラクターの僕は、近い距離でコミュニケーションを取りながら、時には悩みや愚痴も話せる相手として本音を引き出せるトレーナーでありたいと思っています。知識や技術はもちろん大切ですが、それに加えて選手に寄り添い続けて、選手の要求や悩みを汲み取っていきます。

ーー最後に、これからスポーツ関係の仕事に就きたいと思っている方に向けてメッセージをお願いします。

スポーツに携われる仕事は、選手だけではありません。僕のようなトレーナーや、コーチ、マネージャー、広報など、クラブに関わるいろいろな立場の人が全員で次に向けて準備をして試合ができています。
トレーナーの仕事は、拘束時間が長いし、大変なこともあります。けれど、試合で勝ったときの嬉しさや達成感、けがしていた選手が活躍して「ありがとう」と言いに来てくれるなど、喜びや楽しさが味わえる魅力的な仕事です。選手になることが叶わないからとスポーツに関わることすべてを諦めるのではなく、そういった関わり方もあることは知っておいてほしいです。



中村さんも選手のケアに毎日使っているリンパトリートメントやテーピングなどの手技は、プロスポーツトレーナーアカデミー「ProSTA(プロスタ)」で学べます。国内外・トップチームでの経験が豊富な講師陣から現場ですぐに活かせる本物のトレーナー技術・知識の指導が受けられ、就職サポートまで行っています。


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