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スタンプ蒐集家・今井源之助が編集した『全国蒐印趣味家名簿』

 拙noteでは以下の記事で紹介したようなあまり手に入らない蒐集家名簿を紹介してきたが、今回は『全国蒐印趣味家名簿』今井源之助編(神戸スタンプ同好会、1936年)という蒐集家名簿を紹介したい。この名簿は『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)でも紹介されていないものである。以下にいくつか写真を掲載しておきたい。

表紙
刊行のことば(右上に蔵書印あり)
奥付
名簿の内容

神戸スランプ同好会に関しては、名簿内に述べられているので以下に抜粋してみたい。

神戸スランプ同好会は、蒐印趣味鼓吹を目的として、神戸地方並に全国に呼びかけて、昭和十年三月誕生しました。
会員数は僅々四十名に過ぎませぬが、専ら各種スタンプの蒐集と、研究をめざして邁進して居ます。
(中略)
現在では会費一切不要として、会員相互間に於ては特に親密に、交換、文通、会談等を行ひ不断の精進を続けて居ます。何ら手続を要せぬ会ですから各位の奮って御入会を切望致します。
(後略)

神戸周辺だけでなく全国に会員を持つ団体であったことが分かる。しかしながら、この名簿の例言によれば、この名簿は神戸スタンプ同好会の会員だけでなく会員外の人々も収録しているようである。そのため、この名簿は書名の通りに全国のスタンプ蒐集家を参照できる名簿だ。

 この名簿をめくっていると、民俗学関連雑誌『土の香』を編集していた加賀紫水(加賀治雄)が載っていることに気が付いた。蒐集分野は「神社仏閣、名所古跡、駅、局印、駅弁票、其他旅行に関するもの一切」となっている。以下の記事で紹介したように、加賀は神社、仏閣のスタンプの蒐集から民俗学関連の領域に関心を移して『土の香』の発行をはじめたので、スタンプの蒐集は止めたのだと考えていた。しかしながら、この名簿に載っているということは、加賀は『土の香』発行以後もスタンプの蒐集を継続していたということになる。加賀は蒐集趣味の継続と民俗学関連の研究を並行させていたようである。

 考え直してみると、趣味界隈と縁を切っていたならば、以下の記事で紹介した民俗学研究者、趣味人の文章が入り混じった『百人一趣』は生まれなかったし、戦後に趣味人が『土の香』に戻ってくることはなかっただろう。今回加賀が蒐集趣味を継続していた根拠を見つけることができたのは収穫である。

 最後に私が購入した名簿には、前の持ち主であると思われる人物が様々な書き込みをしているので、いくつか写真を紹介したい。刊行のことばが述べられているページに蔵書印が押されているので、この蔵書印の主が分かれば持ち主が判明しそうだ。


表紙の裏に商売人に対する批判
裏表紙に住所の記載
旅の趣味会を主宰していた伊藤喜久男に関するコメント
コメントや印が付けられている。


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