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澤田四郎作の日記を読む②-民俗学編

 前回更新した下記の記事で澤田四郎作の日記に関して、従来の澤田の民俗学研究者という面以外の部分がみえてきたという観点から紹介したが、今回は澤田の「民俗学研究者」という面に戻ってこの日記を読んでいきたい。繰り返しになるが、翻刻された澤田の『日誌』(昭和9年分)は以下のページから読むことができる。

私が読んだ限りでは、以下のような発見があった。

①奈良県の郷土史研究者・保井芳太郎より著書を贈られる。(1月3日)

『柳田国男の歴史社会学 続・読書空間の近代』佐藤健二によると、雑誌『いなか』は、住吉土俗研究会によって発行されていたが、この雑誌が澤田に贈られている。

(一月)十三日 (前略)雑誌いなか一号赤城氏より恵与さる。

澤田にこの雑誌を贈った日記の中に登場する「赤城氏」とは何者なのだろうかという疑問は残る。

③佐渡の民俗学研究者・青柳秀夫との交流。青柳秀夫は『佐渡郷土趣味研究』という雑誌を発行していたが、澤田の日記には以下のように書かれている。

(四月)二五日(水) 午后佐渡小木港の青柳秀夫氏来訪。「佐渡研究」発行せられつつある人、初めて会ふ。若き秀麗の人なり。佐渡の首人形五個恵与さる。しばらく階上の書斎にて話し合ひ、聖天阪下の川崎巨泉氏を訪れる。住まひは河野病院のまへなり。奥の八畳の間に通さる。先客遠藤武氏あり。株式会社間組の人にて、玩具の蒐集家なり。(中略)五時半退去、青柳氏と帰り、桶づし、トーフすましにて食事、八時すぎ名古屋方面へ出立さる。(後略)

上に紹介した前回の記事でも触れたが、川崎巨泉と遠藤武は郷土玩具の蒐集家・研究者であった。彼らに澤田と青柳が会いに行ったことが分かる。おもしろいのは、大阪で活動していた澤田と佐渡で活動していた青柳の間に交流があったことだ。私のnoteでも以下の記事で紹介しているように、最近では民俗学の形成史において、中央(柳田国男)-地方(各研究者)の垂直的な関係性だけでなく、地方―地方の水平な関係性も検討されている。澤田と青柳のこの交流は地方をこえた研究者同士の交流を示す一例であると言えるだろう。

④『東京人類学雑誌』に投稿し、『日本生殖器崇拝略説』を出版した出口米吉との交流があった。日記に以下のように書かれている。

(五月)二十四日(木) (前略)夕、出口米吉氏をたづね、一時間あまり雑談、五倍子雑筆の印刷につき依頼す。(後略)
(七月)十五日(日) ひるごろ出口米吉氏来訪。福島商業学校の水泳につき来浜されての帰りといふ。三時間あまり種々話して帰らる。

『五倍子雑筆』は澤田が自費出版していた雑誌である。以下のページから閲覧できる澤田の年譜によると、『五倍子雑筆』は7月に第1号が出版されているが、この雑誌の印刷の相談を出口にしていたようである。また、同じ年譜から、澤田は柳田国男が避けていた「性に関する民俗」に大きな関心を持っていたことが分かる。出口と共通の関心を持っていたと言えるだろう。

また、『五倍子雑筆』の印刷までの経緯が日記の中に登場している。上記に引用した箇所から出口が福島商業学校の関係者(おそらく教員か?)であったことが分かるが、出口に相談した後、以下のように進んだ。

(六月)七日(木) 福島商業学校の印刷部の(空白)来たり、五倍子雑筆の試刷持参。
(六月)十九日 (前略)五倍子雑筆初校来る。
(六月)二十六日(火) (前略)午后、山口草平氏を訪ねる不在。夜、住吉とり万より電話あり、草平氏、篤三等を連れてあり。行きて、五倍子雑筆の題字の原稿うけとる。
(六月)二十七日水 福島商業学校に行きて表紙印刷の相談をなす。(後略)
(六月)三十日(土) 五倍子雑筆三百部出来上がる。
(七月)三十一日(火) 福島商業学校の田中氏来る。五倍子雑誌代金支払ふ。

⑤漫画家・芸能の研究者であった宮尾しげをと交流があった。日記では以下のように書かれている。宮尾は民俗芸能の研究者として、柳田国男や小寺融吉とも交流があった。

(七月)八日(日) 宮尾しげを氏より小ばなし研究二冊恵与さる。(後略)
(八月)一日、宮尾しげを氏より「ほゝづき」創刊号到来。(後略)

完全に余談であるが、宮尾しげをの描いた漫画『団子串助漫遊記』は、幼いころの鶴見俊輔に本がバラバラになるまで読まれた。

 ここまで気づいたことを取り上げてきたが、日記を読んでいて全体的に気になったのは、日付によって曜日が記載されていたり、されていなかったりと表記がまちまちなところだ。上記に日記のいくつかの箇所を引用したが、曜日の表記がまちまちなのは、私のあやまりでなく、実際に書かれている通りに引用したからだ。一般的なイメージでは、日記の日付や曜日の表記は統一しようとするものだが、何か意味があったのだろうか?

 最後に、澤田に関して分かりやすくまとめられていたパンフレットを見つけたので、紹介しておきたい。年譜と同じく以下のページよりダウンロードできる。



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