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江戸文化研究者・松川弘太郎が編集していた雑誌『江戸往来』とそれを支援する本山桂川

 以下の記事で加賀紫水の編集していた民俗学研究雑誌『土の香』に投稿していた江戸文化研究者・松川弘太郎という人物を紹介した。その際に松川は『江戸往来』という雑誌に投稿していたことも紹介したが、この『江戸往来』は国会図書館デジコレで図書館配信限定ながら閲覧できたり、目次の雑誌記事索引データベース「ざっさくプラス」にも収録されたりしている。しかしながら、少し調べてみたが、この雑誌は比較的閲覧しやすいにも関わらず、あまり言及されていないように思われたので、今回の記事で紹介していきたい。

 『江戸往来』は1927年9月から1929年11月までに通巻10号が発行されており、1巻1号から4号、2巻2号までは毎月、2巻3号から5号までは隔月で出されている。最後の通巻10号のみ1929年の発行となっている。奥付を確認すると、編集・発行人が松川弘太郎、印刷所が田畑謄写堂となっている。松川は『江戸往来』に投稿していたのでなく、中心的な役割を担っていたようである。印刷所から分かるように、この雑誌は謄写版の雑誌であるが、同じく謄写版印刷の雑誌『土の香』と比較しても読みやすい。

 発行所となっている江戸文藝同好會は会規を確認することでどのような団体だったのかが分かるので、以下に会規の一部を引用してみたい。引用元は『江戸往来』第1巻第1号である。

一、本会を江戸文藝同好會と称す

一、本會は日本名著全集會員中の有志及其他の江戸文藝同好者を以て組織す

一、本會の目的を左の通りとす

イ 江戸文藝之部を基本として江戸趣味、地理、世態、風俗等の研究

ロ 川柳、狂歌、口合等民衆的江戸文藝の研究、劇作、批評等

ハ 旅行会、茶和会等会員交歓の催し

二 愛書の蒐集譲渡等に関する仲介

一、右の機関として毎月一回雑誌「江戸往来」を刊行配布す

(後略)(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

各巻の目次も確認してみると、『江戸往来』は江戸の文藝、習俗、歴史、方言などを中心に研究していた雑誌であったことが分かる。

 興味深いのは『江戸往来』を民俗学研究者・本山桂川も読んでいたのではないかという点である。第2巻第5号の巻末の松川の編集言には、発行している雑誌を寄贈してくれる人物として磯ヶ谷紫江、本山桂川、桂又三郎、小林操(?うまく読み取れず)、木卯尊、蛭子省二、水木眞弓などに感謝ことばが述べられている。第2巻第3号には、寄贈された雑誌の一冊として本山が編集していた『民俗研究』が紹介されている。このことから本山は『江戸往来』に投稿したことはないものの松川とは交流があり、お互いの雑誌を交換していたのではないかと思われる。本山は民俗学の研究以外も玩具など様々な物の蒐集、謄写版印刷の本の出版、人物評伝の執筆など多才な人物であったが、江戸時代の文化にも関心を持っていたようである。(注1)

 各巻の編集後記をよんでいると、松川の多忙が語られており終刊の理由も松川の多忙にあったのだろうか。『江戸往来』は現在ではほとんど顧みられず今日から見ると短命に終わったようにみえる雑誌であるが、当時はこのような雑誌が多く存在しており、江戸に関する研究や蒐集はこれらの知られざる雑誌によって支えられていたことは思い出されてよいだろう。今回紹介した『江戸往来』のように国会図書館デジコレで閲覧できる状態になっていたとしても、忘れられている本や雑誌は多いのではないだろうか。

 最後になるが、松川は『江戸往来』以外にもいくつかの雑誌を編集していたようであるのでこれらの雑誌も機会があれば調べてみたい。

(注1)本山桂川に関しては、以下の記事でWebで閲覧できる情報をまとめたので関心のある方は参照して欲しい。


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