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『斎藤昌三翁蔵書目録』『紙魚九々里』(しみくくり)

 先日、斎藤昌三の蔵書目録を入手した。斎藤は愛書家、書痴、書誌研究者として知られており、その蔵書は膨大であると推測していたので、まさか蔵書目録という形で整理されていたとは思わず、目録を発見した時は驚いた。この蔵書目録は『紙魚九々里』という書名が付けられている。以下に書誌情報と写真を掲載しておきたい。

大きさ:約24.2cm×約18cm、和装、謄写印刷 ※函入
印刷:※記載なし
発行:昭和38年3月30日
項数:254項

外函
表紙
署名
2ページ目
奥付

『斎藤昌三翁蔵書目録』が書名だが、外函には『紙魚九々里』と書かれている。「紙魚九々里」は「しみくくり」と読めるため、「締め括り」を意図してこの書名が付けられたのだろうか。

 上記の2枚目の写真の署名はよく分からない点が多い。この書名はこの1冊だけのものか、もしくすべてのものになされたのだろうか。そして、この目録の編集に協力した人物の署名であると考えたが、佐々木桔梗の署名もある。佐々木桔梗は神保町オタ様の以下の記事によれば、稲岡勝監修『出版文化人物事典 江戸から近現代・出版人1600人』(日外アソシエーツ、2013年)に立項されているという。この事典の佐々木の項を以下に引用したい。

佐々木桔梗 ささき・ききょう プレス・ビブリオマーヌ主宰 僧侶
生年月日 大正11年(1922年)
没年月日 平成19年(2007年)2月24日
出生地 東京都港区
本名 佐々木教定
浄土真宗本願寺派・教誓寺第13世住職。恵まれた家庭に育ち、小学生の時からのカメラ趣味。昭和21年南方より復員後、新聞記者、探偵業に従事。その後、「猛然と本が作りたくなり」、友人と計って限定本出版のプレス・ビブリオマーヌを創業。31年から56年までに詩集、純文学、鉄道趣味などの63点を手がけ、限定本出版としては異例の長期の活動だった。(中略)「紫水晶」「猫目石」といった限定本、発禁本の研究誌も限定出版した。

佐々木の名前は奥付で確認できないが、斎藤の蔵書目録の編集にも協力していたのだろうか。また、「昭和三十八年五月七日於赤坂梓」とあるので、蔵書目録が発行された後に赤坂の梓という場所で集まった際に署名がされたと推測される。

 ところで、この蔵書目録では冒頭に以下のように述べられている。

本目録は翁の七周年忌あけたる37年1月某日に作業を開始以来壱年有余月を以て漸く礎稿を一度整理完結したもので、尚更に朱筆を加え後日決定稿が印刷される筈である。この孔版30部の完成を前に、協力者以下
大矢竹雄 長尾桃郎
岡澤貞行 峯村幸造
斎藤重民 斎藤千代

この蔵書目録は暫定版が30部発行された後に決定版が発行される予定であったようである。私が少し調べた限りでは、決定版は発行を確認できなかったが、果たして発行されたのだろうか。

 私が入手した蔵書目録は以下の写真のような蔵書票が貼り付けられていたので、編集に協力した岡澤の旧蔵書と考えられる。岡澤については、『日々是趣味のひと』(岡沢貞行偲ぶ会、1991年)という本が発行されており、趣味人であったようだ。この本は国会図書館にも所蔵されているので、機会があれば閲覧してみたい。

岡澤貞行の蔵書票

 ちなみに、『斎藤昌三翁蔵書目録』は今年5月に金沢文圃閣様より復刻される予定で、『書物関係リトルマガジン集2—戦後占領期の斎藤昌三と趣味人』に含まれるようだ。

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