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『遠野物語』柳田国男をより楽しむため読書案内②

 本日(6/14)は、柳田国男の『遠野物語』が刊行されてから110年になる。それを記念(?)して、かなり前に投稿した記事の続きという形で『遠野物語』を楽しむための読書案内を投稿していきたい。なお、以下に紹介する本の冒頭につけている番号は以前投稿した記事からの連番になる。

⑤『遠野物語と怪談の時代』東雅夫

 『遠野物語』はいろいろな読み方がされているが、この本は『遠野物語』の刊行当時の文壇での「怪談ブーム」を検討、その中に『遠野物語』を位置付けようとする。民俗学の開拓者というイメージの強い柳田国男だが、20世紀の初頭には文壇の中心におり、この怪談ブームにも関係していたようだ。このように柳田は怪談に非常に興味を持っており、『遠野物語』の刊行もその流れの中にあったということが指摘されている。私は最初に『遠野物語』を読んだとき民潭でなく怪談ではないかと思ったので、その疑問に答えてくれた本として印象に残っている。『遠野物語』の誕生した時代背景を知りたい方、「民俗学研究者」以前の柳田を知りたい方向け。

⑥『柳田国男を読む』赤坂憲雄(ちくま学芸文庫)

 この本は、正確に言うと『遠野物語』に関連する本でなく「柳田国男論」になるが、『遠野物語』を読む上でカギになってくる平地人/山人、定住/非定住の対立に関して簡単にまとめられているため、ここで取り上げた。『遠野物語』の裏にある柳田の思想を考えるヒントになるかと思う。また、柳田のテキストの受容のされ方に関しても詳しくまとめられているため、他の柳田のテキストを読む際にも参考になる。『遠野物語』だけでなく、柳田の思想を理解したい方向け

⑦『『遠野物語』を読み解く』石井正巳(平凡社新書)

 『遠野物語』研究の第一人者が書いた新書。タイトルの通り『遠野物語』を理解するヒントがコンパクトにまとめられている。『遠野物語』や柳田のことだけでなく、『遠野物語』の語り手である佐々木喜善、彼と交流のあった宮沢賢治のことも書かれているのがおもしろい。特に、佐々木喜善のことに関して詳しく触れられている本は、私が知る限り、新書レベルではこの本以外ないので、佐々木喜善に関して知りたい方にオススメ。

⑧『山深き遠野の里の物語せよ』菊池照雄

 『遠野物語』は柳田の創作物であったということはよく指摘されているが、この本は、『遠野物語』を実際の遠野の伝承や民俗の中から検討することで、『遠野物語』の裏にある遠野の人々の生活、民俗、当時の悩みなどが浮き彫りになる。特に『遠野物語』を読んだだけでは見過ごしてしまいがちな当時の人々の生活の苦しさを伝えている点が重要だと思う。『遠野物語』が当時の遠野の人々の生活の表であれば、この本が伝えている実態は裏とも言えるだろう。個人的には『遠野物語』とセットで読まれて欲しい本だ。

⑨『怪談前後 柳田民俗学と自然主義』大塚英志

 「民俗学研究者」以前の柳田は文壇に深い関係があったが、その一面を文学史の中に位置づけようとする。柳田は自然主義が流行していた当時の文壇の中心にいながら、自然主義の担い手で友人でもあった田山花袋に対して批判的であった。柳田のめざしていた「もうひとつの自然主義」とは何だったのか?という視点から柳田のテキストを読みなおしていく。また、当時流行していた心霊主義と柳田の関係性が指摘されているのが興味深い。佐々木喜善の小説の分析した論考など他にも特徴的な論考が収録されている。

 ちなみにツイキャスというサイトで「『遠野物語』を読む」という企画を不定期でやっているのでよろしければのぞいてみてください。アーカイブも少しずつあげております。


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