見出し画像

内務省印の押された『岡本家歴代記』

 以下の記事で紹介したように、1945年まで日本には出版物を内務省に届け出なければならない義務があった。内務省の検閲が完了した本には内務省印が押されるが、この本が古本市場に出てくることがある。

 先日、古本関連でTwitter上で交流のあるMR様がブログの以下の記事で内務省印の押された本の話題を取り上げていらっしゃったので、私も内務省印の押された本が欲しいなあと発言したところ、日本の古本屋で内務省印で検索をすると内務省印付の本がヒットするとご教示いただき早速検索してみた。いくつかヒットしたので、検索結果の中で一番よく分からなかった『岡本家歴代記』伊藤信編(1935年)という本を購入してみた。

以下に写真を掲載しておきたい。

画像1

画像2

画像4

画像4

3枚目の写真は内務省印を見やすいように逆向きにした。上記の写真を確認していただければ分かるように、昭和10年12月30日付の内務省印が押されている。上記に紹介したMR様の記事で紹介されている内務省印付の本と異なるのは、『岡本家歴代記』の内務省印が逆に押されていることである。逆向き押された印鑑を逆さ印と呼び何らかの意味を表すこともあるが、内務省印の場合が何か意味があったのだろうか。この本は書名の通りに発行者である岡本太右衛門の岡本家の家系を調査した本であり、特に検閲された痕跡は確認できなかった。

 ところで、岡本太右衛門の岡本家は岐阜県の名家であるようで、『人事興信録』データベースで確認すると、第8版(1928年)には以下のように記載されているようだ。

岡本太右衞門 岐阜県在籍 岐阜県多額納税者、十六銀行、岐阜貯蓄銀行、東邦電力、岐阜信託、三重琺瑯各(株)取締役、岐阜瓦斯、美濃電気軌道各(株)相談役 君は岐阜県人岡本太右衞門の長男にして明治九年六月を以て生れ同四十年家督を相続し前名茂を改め襲名す現に岐阜縣多額納税者にして前記各銀行会社の重役たり

『岡本家歴代記』によると、岡本家は元々鋳物師を生業としており、織田信長・信孝に仕え信孝の老臣であったり、豊臣秀吉に仕えたりしていたという。しかしながら、関ヶ原の戦いで西軍に敗れた後は岐阜に戻り、鋳物師の仕事を再開した。岡本太右衛門は代々襲名されている名前のようで、今回紹介した本を発行した岡本太右衞門は第十三代であるようだ。この襲名は現在の継続しており、以下のWebページによると、現在は第十五代岡本太右衛門で株式会社サンアイ岡本の会長であるようだ。岡本グループは住宅設備の販売や鋳物の鋳造・加工などを行っているようで、元々の生業であった鋳物師を現在に至るまで継承しているのは驚きだ。

 最後になるが、内務省印の押してある本はめずらしいので古本即売会や日本の古本屋で機械があれば引き続き購入していきたい。


よろしければサポートをよろしくお願いいたします。サポートは、研究や調査を進める際に必要な資料、書籍、論文の購入費用にさせていただきます。