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卸売業に対する実践的支援!業種別支援の着眼点を活用して、卸売業はこう支援する! 中小企業支援ケーススタディ【エフアンドエム解説】

エフアンドエムによる連載「中小企業支援 ケーススタディ2024」卸売業に対する実践的支援と支援事例について、経営サポート事業本部の高岡大輔チーフコンサルタントが解説する(金融ジャーナル2024年5月号掲載。数字、肩書き等は掲載時点)。なお、飲食業に対する実践支援についてはこちら小売業に対する実践支援についてはこちら



卸売業の着眼点(経営課題の共有)

「業種別支援の着眼点」(日本生産性本部)について、今回は「卸売業」での実践事例を紹介したい。「卸売業」は、アフターコロナにおいて円安傾向により、仕入れ価格の上昇、配送費の上昇にて売上総利益が低下している業種の1つである。

また、卸売業は業態も多く、食品、建築、電子部品、衣料品等、商流も様々で同業他社と差別化を図ることが難しい業種である。卸売業の経営者面談では、以下の項目に注意しながらヒアリングを行う。

各項目とも過去5年間の推移を確認することが重要である。①「得意先別売上高推移」②「商品別売上構成比と利益率推移」③「返品率(値引き・ロス率等)、支払手数料、配送配達費、外注費、自社 倉庫費の有無及び推移」④「棚卸資産回転比率」

経営者との面談では、「同業他社との差別化がない」という話が良く出てくるが、業歴10年以上の企業には必ず「差別化要素」があるはずである。ビジネスモデルを把握する際に、「なぜこの企業に得意先が発注するのか」を突き詰めて経営者にヒアリングしていくと、経営者が気付いていない自社の強みが意外と出てくるものである。

特に決算書から読み取れる③の項目「何のために経費を使っているか」と組み合わせてヒアリングを行うと効果的である。例えば、配送配達費の中に「特急便」の費用や、支払手数料の中に「在庫システム」や「ECサイト等」の管理費用が含まれているなど、経営者がサービスを提供するための工夫が必ず数字として表れている。

「業種別支援の着眼点」による差別化戦略の主な確認事項

は、以下の5点になる。
① 売れ筋商品、他社で取り扱いにくい商品(ライセンスや特約代理店制度)
② 自社で開拓できるルート(ECサイトを活用した販売先等)
③ 待てる機能…「支払」と「発注」への融通
④ 分ける機能…「小ロット」「単納品」
⑤ 運べる機能…「至急配送」「自社便」

エフアンドエムでは、「ビジネス俯瞰図」の作成後に経営者と経営課題を抽出し「課題解決の手法」を考察するために「クロスSWOT分析」を行っている。事例紹介では実践的な経営改善事例をご紹介したい。


業種別支援の着眼点(卸売業)を活用した支援事例

<企業概要>
A社は業歴40年の民芸品、お土産グッズの卸売業である。コロナ禍前の売り上げは430M・借入残高200Mであったが、コロナ禍において業績が悪化、借入額も大幅に増加していた。

A社の業績推移

<取り組みの背景>
新型コロナの影響で得意先の売り上げが減少していたが、2023年度に業績が回復し黒字化した。売り上げの増加とともにキャッシュポジションを維持したいと経営者からメイン金融機関に相談があり、コロナ融資の返済負担が増える前にメイン金融機関であるB信用金庫より、「返済抑制」と「増加運転資金(プロパー)」を検討するため経営改善計画書策定支援を依頼された。
 
<現状の課題>
経営課題の抽出
①売り上げが増加することによる増加運転資金の確保
②新規得意先からの受注増加による営業人員の強化(固定費上昇)
③発送業務の負担増加による人件費の上昇
④コロナ融資の返済開始に伴う返済額の上昇(2024年3月より月額が80万円増加)
 
<強みの抽出>
「業種別支援の着眼点」を活用
①お土産グッズを自社で商品企画していた・・・(卸売業でありながらメーカー機能を持っていた)②発注から半日で自社配送により得意先へ届けることが出来ていた・・・(リピート率向上)③メーカーから仕入れた商品は常勤外注にて組立・梱包(こんぽう)を行っていた・・・(仕入価格の抑制)
 
<経営改善施策>
現代表者は、自社の経営課題をしっかりと把握できおり、自社の強みを生かした具体的なアクションプランをエフアンドエムと検証し数字計画への落とし込みを行った。

①インバウンド向けカプセルトイの商品アイテムの増加(毎年15~20アイテム)②営業人員2人、配送人員1人の確保③就労施設への外注委託の強化・・・現在9施設を事業所から10キロ圏内で15施設委託へ④「運転資金」の確保と「コロナ融資返済」抑制・・・簡易CFの80%以内での返済へ

経営改善計画の策定にあたっては、過去の得意先数の推移や商品単価を確認し売上目標を設定した。特に人件費、外注比の上昇分を考慮した目標設定を行うことで、経営改善の道筋は見えてきた。
 
<金融支援>
①運転資金として当座貸越30Mを検討
➁経営改善サポート保証を活用し、長期借入金の返済期間を延長
③月額返済額を280万円→150万円に抑制

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