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【こころ #9】サードプレイスと“工賃”ではない仕事

大野 圭介さん(後編)


中編から続く)

 前編中編を通してお分かりいただいたように、大野さんは、国内のみならず海外でも、実践と学習を繰り返し、そしてまた多様な立場から福祉に携わってこられた。その豊かな経験を振り返りながら、障害のある方を取り巻く現在の環境への懸念を話してくれた。


 例えば、かつて住む場(福祉ホーム)や働く場(福祉工場)に次いで日常生活支援・相談・地域交流などを担った『地域活動支援センター』のような「第三の場(サードプレイス)」が必要」と話してくれた。

 内閣府の調査によれば、外出をほとんどしない状態が長期間続く「ひきこもり」の人は、15歳~64歳までの年齢層の2%余りにあたる推計146万人に上る。

 地域において「孤立している人は、孤立しているんです」。本人がいきなり働く場に足を踏み出したり、家族も子供の「ひきこもり」を打ち明けて相談することはそう簡単ではない。そうした環境では「精神疾患を患っておられる方も多く、これからも増えていく」。そんな人たちが「まず気軽に立ち寄れたり、こちらからアウトリーチで訪問できる拠点。そして、顔をつないでいく人たちが必要。」と力説された。


 障害のある方の給料を指す「“工賃”なんて言葉、いつまで使うんですかね?」いまだに仕事の対価として“工作・加工の手間賃”が想定されている時点で、障害のある方に想定される仕事内容がうかがい知れる。さらに、厚生労働省の調査によれば、令和3年度の平均月額工賃(賃金)は16,507円。「これじゃ、クラス会に行っても肩を並べて話せないでしょう」。

 こうした課題に対して、国も“工賃”向上に積極的な事業所には補助金を支給する方針を取っているが、「そのためには、“できる”障害者を採用しないといけなくなり、逆に“できない”障害者が置いていかれる可能性」も心配している。

 また、お金であれば障害年金や生活保護といった手段もあるはあるが、「その方の居場所として、仕事を提供することが大事。例えボタン1個押すことだけしかできないとしても、仕事に携わることが大事。」と力を込めておっしゃった。

 「あとは、事業所の経営センス次第」とご自身にも言い聞かせるように話された。ご自身の経験から「福祉の科目に経営も入れた方がいい」とも振り返る。

 さらに、法人として「付加価値のある仕事をつくろう」という理念で取り組んでこられた藍染製品の販売や洋食レストランの運営も「理念に共感してくれる大手企業とコラボレーションしていきたい」と期待を込めて話された。ダイバーシティ&インクルージョンへの取組に力を入れる企業も増えているが、是非ご支援をお願いしたい。


 令和3年の時点で、就労継続支援B型事業所(注1)の事業所数は全国で13,828カ所にも上る。ちなみに、今年10月時点で、全国の郵便局数は23,604カ所だ。その数の多さがうかがい知れるだろう。それ故に「もっと何かできるはず」と大野さんの想いは尽きなかった。

(注1)
就労継続支援B型事業所とは、障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難だったりする場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所




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