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【こころ #36】鳥・虫・魚の目をもつ精神保健福祉士

鬼塚 香さん(前編)


 鬼塚さんは駒澤大学の文学部社会学科社会福祉学専攻で准教授を務めておられる。出会ったのは、六本木の老舗のディスコ『マハラジャ』。遊びじゃない、いや遊びかもしれない。第10話でご紹介した中澤さんが主催した、障害のありなしに関わらず踊ることを通じて命を輝かせる『ユニバーサルディスコ』の会場で、第7話でご紹介した大野さんに「話を聞いたらいいよ」と紹介してもらった。

 誰もが持つべき視点として『鳥の目、虫の目、魚の目』という言葉をお聞きになったことがあるかもしれない。鬼塚さんは、自分に起こったことを上から俯瞰的に見渡し、しかし目の前の人や状況を細かく観察し、そしてその結果として起こった流れに身を任す。それを繰り返してきた方だと思う。出会う機会をいただき、またご紹介いただけたことに感謝する。


 鬼塚さんは3人兄弟。高校生の時、弟さんが学校に行かなくなった。両親は「“時期が来たら行くようになるでしょ”とのんびりしていた」のに、学校はカウンセリングやら精神科やら「弟本人にあれこれしろと言ってくる一方、親に声をかけることもなく置き去りだった」。結局、弟はなんでもなく、「(親は)専門家に振り回されて、(弟は)それで良くなるわけでもない。みんなが幸せにならない」。そんな疑問が、鬼塚さんがソーシャルワークを志す原点になった。


 大学で福祉分野に進学し、精神保健福祉士の先生との出会いを契機に、「迷わず精神分野に進んだ」。自治体の精神保健福祉センターに就職して「どんなことでも相談を受けた」後、ご実家の都合で地元に戻って精神科病院に勤める。そこには「(入院期間が)40~50年に及ぶ方がおられ、なんだこれ?」と退院支援に積極的に携わっていくことになる。

 しかし、思わぬ言葉を投げかけられる。「鬼塚さんだからできるんだよ。自分にはできない」。「あなたがやりすぎ」と自分自身の問題かのようにも指摘されたが、それ以上に「人によってできるできないがあったら、患者さんによって良くない。」と純粋に思った。

 「決められた仕事だけやるか、一人のことを考えるか、それで患者さんの人生が変わっちゃうから」。鬼塚さんは理想論を掲げるだけで終わらない。「その必要性をうまく説明できないから、説明できる言葉を持たないといけない」。その足は即座に大学院に向かい、「同じ精神保健福祉士の資格を持つ人が、現場で何を学び、何に苦労し、何を変えていくべきかを調べた」。

 その時を振り返って出た言葉は、「職業観が変わった」。それまで、精神保健福祉士という国家資格を持った人は、当然「専門職だと思っていて、それができないのは学びが足りないからだと思っていた」。しかし、資格を取ることはスタートに過ぎず、専門職でも「そこから何を経験してどうなりたいか、それを考える場がないと成長していけない。」と気付いた。言い換えれば、「できないと思っていた人にとっては、どこに悩んでいるか話をする場が必要だった。」と気付いた。その足はまた即座に現場に戻った。

 大学院に通いながら精神科クリニック、大学院修了後に戻った地元では高齢者向けデイサービスを経験。さらに自治体の専門職として水道や税金の部門にまで重宝されながら、組織の内外で一人ひとりが直面する状況に耳を傾け続けた。


 現場で利用者に触れ合う「直接処遇は今でも天職だと思っている」一方で、現在取り組んでいる教育現場からも声がかかる。それまで現場で一人ひとりに向き合ってきたことと変わらず、「声をかけられたら、何かしないと」。

 「人生ってタイミングでできていると思うんです。どんなに自分が欲してもチャレンジしても、タイミングじゃなかったらうまくいかない。でも逆に乗っかれるなら、そのタイミングでしょ」。鬼塚さんは、そのタイミングに乗り、教育現場にチャレンジした。


後編に続く)




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