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【こころ #8】福祉未経験・無資格から学び続けた先

大野 圭介さん(中編)


前編から続く)

 大野さんは帰国するや、障害者から高齢者まで福祉関連の仕事を20社以上受けた。経験も資格もない中で「びっくりするぐらい落ちた」。そんな中、前述した「福祉バカはいらない、人生経験豊かな人が欲しい」と言って唯一採用してくれたのが、精神障害のある方が働かれている福祉作業所だった。

 オーストラリアで出会った四肢麻痺は「見える障害」だったが、精神障害は傍目には普通であるが故に誤解を受けたり損をしてしまう「見えない障害」だった。ただ、共通点があった。「いい人が来てくれてよかった」とほめてもらい、来てくれて「ありがとうございます」と感謝してくれることだった。選択は間違っていなかった。


 その福祉作業所で4年ほど働くも「結局何も知らない」と、精神保健福祉士の講座に通い、30歳で資格を取得した。勉強したことで、色んな疑問や好奇心もわく。当時、障害者を病院内ではなく地域で包括的にケアする『バンクーバーモデル』が注目されていた。大野さんは「まだワーキングホリデーに行ける年齢」と、すぐにカナダのバンクーバーに向かう。今度は知的障害者が入居するグループホームで1年間、住み込みで働いた。


 帰国後は、かつて精神障害者の社会復帰施設として、住む場(福祉ホーム)や働く場(福祉工場)に次ぐいわば「第三の場(サードプレイス)」として法定化され、日常生活支援・相談・地域交流などを担った『地域活動支援センター』に勤め、精神障害者にとって「誰でも来れる居場所」の重要性に気づいた。


 さらに高まった大野さんの向上心は、社会福祉の大学院修士課程に向く。平日夜や土日に勉強して論文を執筆しながら、昼間は自治体の社会福祉課のケースワーカーとして働いた。民間で働いていた時は、困難事例があれば、最後は役所に回せたが、「今回は最後の防波堤だった」。知識も経験も「福祉人としての能力が伸びた」と自信をもって振り返る所以だ。


 次は「地域のソーシャルワーカーとして活動したかった」大野さんが次に選んだ仕事は、生活の場に寄り添えるグループホーム。「24時間365日体制、毎晩のように電話がかかってくる」状況を3年半もの間、やり通した。


 その後、現在理事長を務める『社会福祉法人 藍』が、障害のある方がフレンチを中心とした洋食レストラン運営に携わる就労継続支援B型事業所(注1)『アンシェーヌ藍』のマネージャーを募集していた。「自分でも食べに行き、高いお金を出してもらえるポテンシャルを感じ」、それ故に「(障害のある方に)高いお給料を渡せる」と門を叩いた。

 ただ、福祉人として経験を積んできたが、「レストランの売り上げを上げる術は全く知らなかった」。儲からないと迷惑をかけてしまうと、今度は「営業からマーケティング、さらに損益分岐点まで経営を勉強した」。
そうした成果を踏まえ、その後、現在の理事長職を引き継がれた。

(注1)
就労継続支援B型事業所とは、障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難だったりする場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所


後編に続く)



▷ 社会福祉法人 藍




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