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【みみ #2】聴覚障害のある弟をもった姉の目線

高橋 陽さん


 高橋さんは、第1話の坪倉さんの娘さんであり、聴覚障害のある弟さんをもつ。障害に限らず何でも「家族の支えが重要」といった言葉を聞くことはあるが、高橋さんのお話をお聞きしてその向こう側が見えた。


 高橋さんは3歳離れた弟さんが3~4歳の頃からろう学校に通っていた姿をよく覚えている。

 当時、家族みんなで「(弟が)健常者と同じように発音できることを目指していました」。口の動きを覚えることで発音がきれいになるため、「家の中のいたるところに口の形の紙を貼っていました。冷蔵庫には5文字、子音と母音を色分けしたりして」。50音の一つひとつを指の形で表してコミュニケーションを取る「指文字」も家族全員で覚えた。そのおかげで家族内での1対1の会話はスムーズにとれるようになった。


 弟さんは小学校1,2年生の頃に地元の一般校に通われたことがある。しかし、周囲のみんなが話している内容がわからないために、笑われているとか噂されているとかネガティブ思考で不安定になり、3年生でろう学校に戻った。弟さんが「安心できる場所が一番だと思った」。


 家族も安心できる場所だったはずだが、1対1でコミュニケーションがとれたとしても「家族全員で集まった際の会話をわざわざ弟にだけかみ砕いて説明することはできていなかったかもしれない」と振り返る。その場の全員の会話になると弟さんが入れない傾向があり、法事など大人数が集まる場を嫌がっていたことを大人になってから初めて知った。

 早くから弟さんが読唇(どくしん、話し手の口の形を用いて言葉を理解すること)をできたため、家族で「手話」を習うことはしなかった。しかし、弟さんがご結婚されて奥さんと手話で会話している姿を見ると「(読唇や指文字より)手話の方がニュアンスも伝わるのかなって、(家族として)それができたらよかったのかなって思う」と話された。

 お姉さんとしての弟さんへの愛情は大人になっても変わらないのだろう。


 思い出を一つ教えてくれた。どの歌手だったか覚えていないが、弟さんがテレビで観て気に入り、コンサートのチケットを取ってあげたことがある。弟さんはコンサート会場で涙を流したことは鮮明に覚えている。「聞こえなくても人一倍感受性は強いのだと気付いた」。


 これらのお話をお聞きした後日に、弟さんご本人と対面する機会をいただいた。私も口の形を意識してゆっくりと言葉を伝えようとしたが、下手だった。弟さんの隣には、温かいまなざしを弟さんに向けながら私との間のコミュニケーションをサポートしてくれる高橋さんがおられた。

 「家族の支えが重要」は否定すべくもない。ただ、誤解を恐れずに言えば、高橋さんのお話に「支えている」というニュアンスは適当ではない気がした。そのことこそが重要な気がした。



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