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【日本経済新聞要約・考察】第22回 雇用支援制度、期限迫るが延長・縮小ともに難あり、米国雇用統計の量と質とは

※本要約・考察は2020年6月26日の日経新聞の記事をもとに書いております。

〈要約〉

 新型コロナの感染拡大が懸念された3月、各国は雇用危機対策として雇用支援制度を打ち出した。しかし、日米欧で1億人が利用している制度も今夏から期限切れが相次ぎ、延長することになれば財政負担は100兆円を超える。

 欧州各国は感染拡大に先駆け、経済活動を厳しく制限し、同時に雇用支援策(下記参照)を打ち出すことで、失業率はコロナ拡大前の1月とほぼ同じの7.4%で維持できた。

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 英国では、10月末に政策期限がくるものの、6月28日までに930万人が申請しており、申請額は255億ポンド(約3.4兆円)に達している。20年度の財政赤字は3千億ポンドに膨らむ試算もあり現行制度の継続は難しい。

 英国野党の労働党は特に打撃を受けている宿泊や飲食に向けて延長を求めている。フランスでもマクロン大統領は厳しい業種を今後最長2年間は手厚く補助する考えを示している。

 財政負担を考慮すると、21年の支援策縮小も考えられ、独保険大手アリアンツは欧州5カ国で約900万人の失業の恐れがあるとし、「成長余力の小さい産業の雇用者が留め置かれる問題がある」と指摘している。

 米国では、中小企業の給与支払いを肩代わりする6600億ドル規模の給与保護プログラムの期限を6月末から12月末まで延長し、5千万人の雇用を支えたと米財務長官は強調した。

 日本では、雇用調整助成金は9月末に期限を迎え、2月中旬からの利用者は300万人程度と欧米に比べると少なく、期限切れの影響は小さい。延長されなければ、失業者は15万9千人で失業率を0.23ポイント押し上げる。日本では雇調金に1.6兆円計上しており、今後は防げる失業を防ぐことが課題となりそうだ。

〈考察〉

今回の「日米欧の雇用危機」に関する記事を踏まえて「雇用危機シナリオ」と「雇用統計の質と量」について考察をする。

「雇用危機シナリオ」

 今回の新型コロナ感染に対する各国の対応では、財政面を考えると政府負担が継続することはない。期限切れする雇用支援策を延長しなかった場合どうなるかを考えてみる。

・欧州主要5カ国のケース(ドイツ、英国、フランス、イタリア、スペイン)
 現在、雇用支援制度で支えられている人口は4500万人とされており労働者全体の3分の1だ。独保険大手アリアンツの見方では2021年に支援縮小があると900万人が失業になる恐れがあるとしている。つまり、失業率を6.67%押し上げる可能性がある。現状の7.4%から押し上げられるとすると債務危機の影響を受けた13年の12%台を上回ることとなる。

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 英国以外の各国の10年債とEUの失業率(主要5カ国のみのものがなかったため代替)を比較してみた。

 背景は違うものの、失業率のピークから一定期間、債券の利回りは減少傾向にあった。

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 各国の5年CDSを見てみるとイタリアが異様に高いがこれらの数値は2019年1月のブレグジットの時期と同水準となっており、落ち着いてきている。スペインだけ減少していない。
参考資料:http://www.worldgovernmentbonds.com/cds-historical-data/

 欧州主要国が今後政府負担を増やすのかそれとも財政負担を考慮して雇用支援制度を延長しないのか注目され続けると考えられる。2010年の債務危機を経験している欧州諸国としては政府負担の増加には抵抗があると考えられ、新型コロナが長期化した場合、欧州の雇用危機は引き起こされかねない。

・米国のケース

 欧州諸国のような雇用支援をとらず失業率が跳ね上がった米国にとって雇用危機は免れない。1日で6万人近くの新規感染者を出している米国では各州での経済再開計画が遅延する可能性が出てくる。

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 FEDは失業率が上がるタイミングで政策金利を引き下げている。現在、経済のV字回復があまり期待されていない中で、失業率も高水準で推移する可能性がある。しかし、FEDは政策金利の引き下げ余地が限られており、マイナス金利導入を否定している。現状のコロナ危機では金融機関による企業の貸し出しを促進したところで金融機関が預金金利と政策金利の差に圧迫され金融危機を引き起こす可能性があるため、魅力的な政策ではない。YCCも否定していたものの今後はどちらかの政策を打ち出す必要が出てくるが、前述した理由から、今後YCC導入の可能性が高くなると推測する。

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三菱UFJ信託銀行による2017年のレポートによるYCC導入直前に10年債の利回りは急激に上がった。FEDがYCCを導入するとしたら同じような現象が起きる可能性はある。

2日のFOMCではYCCには「多くの疑問」を抱えたとされており、フォワードガイダンスへの信頼が見られる。しかし、今後フォワードガイダンスの効力が薄れ、実体経済が支援を必要とされていれば短期であれ導入されるだろう。
参考資料:https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u201707_1.pdf


「非農業部門雇用者数の量と質」

昨日発表された米国の労働省の報告では非農業部門雇用者数は前月から480万人増え市場予想を上回った。

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これを受け、トランプ大統領もTwitterでも上機嫌のようだ。家計調査に基づく失業率も6月は11.1%となり、前月の13.3%から低下した。雇用は順調に回復しているように見えるものの、以下2点を考慮していないように感じている。

・失業保険申請件数
・恒久的に職を失った人の数

州によって「量」の変化と恒久的に職を失う「質」の変化を調べてみた。

  
a) 失業保険申請件数
 先週の米国失業保険申請件数は142.7万人と市場予想の135万人を上回った。地域によっての雇用回復の差がある中で、米国労働省の発表を見てみる。
”The largest increases in initial claims for the week ending June 20 were in California (+43,070), Maryland (+9,099), Florida (+7,535), New Jersey (+6,589), and Indiana (+5,314), while the largest decreases were in Oklahoma (-26,166), Kentucky (-12,804), Oregon (-8,371), Georgia (-6,272), and New York (-6,119). ”

参考資料:https://www.dol.gov/ui/data.pdf

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(※赤文字の州はCDCガイドラインに沿っていない州(CNN))

 新型コロナウィルスの1週間の新規感染者数が10,000を超えた州(7つ)のうち6つの州では新規失業保険申請者数の増加が見られた。唯一ジョージア州のみが新規失業保険の減少に成功している。
 しかし、ジョージア州はこの1週間で感染者が19.66%急増した。カリフォルニアやフロリダと同様増加する中で申請者数は減少しているのは新規感染者数が新規失業保険申請者数の先行き指標になりうる可能性がある。カリフォルニアやフロリダは前週も同様の増加率を記録しており、検証の余地はある。
 カリフォルニアやフロリダ州のコメントではサービス産業での失業が多かったとの報告があり、第2波が訪れている米国では新規失業保険申請者数が増える可能性はある。

備考:CDCのガイドラインに沿っているかどうかが重要視されそうだが、沿っていない州でも申請者数の改善が見られ、マダラ模様となっている。今後CDCのガイドラインに従わない州が増えそうだ。
参考資料:https://edition.cnn.com/2020/06/09/health/us-coronavirus-tuesday/index.html

b) 恒久的に職を失った人

 6月には280万人余りが恒久的に職を失った。前月から58万8000人増えており、「レイオフから解雇」への動きも加速しているように見える。米国では3月―4月中にレイオフで失業保険申請者数が急激に増えたが、今回の恒久的に職を失った人数を見ると、企業も雇用支援制度を利用しても雇用を維持できない状態が続いているようにも見える。

 今後、感染拡大によって恒久的に職を失う人数が増えるとなると、新型コロナ終息後も職探しをする必要が出るため、雇用危機の課題は長期化する。

 企業の雇用支援制度でも恒久的に職を失う人が増えている現状では、失業保険の充実化や適用期間の延長が必要になるかもしれない。充実化の側面では、現在失業保険に600ドル上乗せする特別措置が終了に近づいている。適用期間の面では現在の失業保険は最大で半年しか適用されない。新型コロナの終息が年内に収まる可能性が少ない中で、恒久的に職を失った人向けのプログラムが必要になるかもしれない。

 米経済は今後数ヶ月で再度打撃受ける可能性が高く、機動的な財政政策が必要となる。現状の失業者数ではCARES Actの延期が必要となりそうだが、議員の中では悲観的な人も多い。現状の失業保険の方が従来の働いている時の月収より多いケースが増えている。失業保険の上乗せでは雇用再開のインセンティブにならないと考える人も多くどのような法案が通るのか先行きは不透明だ。


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