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おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に、さんきゅう倉田は東大へ行きました。

令和5年3月10日12時東京大学入学試験の結果発表があり、合格しました。

最終更新
※4月6日(木)「その後」





決意から受験まで

3年前の誕生日2月11日、代官山のレストランでテリーヌだけで構成されたコースの前菜を食べながら恋人に言った。

「東大を受験しようと思うんだ」

彼女は薄い緑色の美しい野菜のテリーヌをナイフとフォークで上手に切りながら、がんばってね、と言ってくれた。
とても美しく、賢く、子供っぽい女の子で、優れた味覚を持っていた。食べたものの材料を当て記憶することに長けていて、一緒に食事をするのが楽しかった。
誕生日に用意してくれたこの店も素敵だ。

3日後、友人の平井先生に連絡した、
平井先生は山梨の高校を出て東大に理科一類か二類で入学(忘れてしまった!)、卒業後は大手の塾に勤めるなどして数年前に東大受験に特化した「敬天塾」を作った。
平井先生がいなかったら受験をすることはなかった。
ぼくの受験においては、自分の能力3割、自分の努力2割、敬天塾の力4割、運1割の割合で合格に至ったと思う。
それくらい塾の存在は重要だ。

導く人がいなければ、何を学べばいいか分からないし、有効な参考書に出会うこともできない。

解説がお粗末な数学の問題の説明を求めることもできない。
受験科目を決めることもできない。
ぼくでは、著しくレベルの高い東大入試の英語で、高得点を取ることはできなかっただろう。3年頑張っても60点そこらしか取れなかったかもしれない(英語は120点満点だ)。
フランス語は、受験者が少ない分、その年によって点数のとりやすさが変わる。それでも、2回目の受験で60点を超えられた。英語でも同様の結果が得られたとは思えない。
平井先生のおかげだ。


そう、ぼくはフランス語で受験した!
東大は、英語の第4問と第5問をフランス語、中国語、ドイツ語に変更することができ(これを「差し替え」という)、英語を全く受けずに、この3言語の中から選ぶこともできる。
英語では高得点を取るのは難しいという平井先生のアドバイスを受け入れ、はじめからフランス語を勉強した。
フランス語の勉強で困るのは、大学受験用に対応した予備校がないことだ。

今年の共通テストのフランス語の受験者は66人で、毎年そんなものなので需要がない。ちなみに、共通テスト全体の受験者は50万人くらいいる。
教えてくれる人がいないから独学で勉強するしかない。

さらに、テキストがない。初級者向けの本は本屋さんにたくさんあるが、中級者以上になると、ほとんど見当たらない。

共通テストで満点を取るため、2次試験の東大入試で7割以上の取るためには、フランス語検定で準1級以上の実力が必要だ。
かといって、仏検の準1級のテキストを何冊か買っても仕方がない。
ぼくは、フランスから全く日本語が書かれていないテキストを取り寄せたり、仏和辞書をひたすら読んだりした。

東大入試では与えられた日本語の文章をフランス語に翻訳する「仏作文」があり、この能力を伸ばすのが特段難しかった。
仏作文についての書籍もあるが、受験においてはほとんど意味をなさない。
スマホの「HelloTalk」というアプリを使って、見知らぬフランス人に自分の仏作文を添削してもらった。


社会科目は日本史と世界史と地理があって、このうち2つを選ぶ。ぼくは、日本史と地理にすることにした。

今までどちらも学んでこなかったし、日本史は教養として必要だと思った。
ぼくは日光東照宮がどのような場所なのかも知らなかった!(家康を祀っている)

地理は、国や都市の場所を覚えるだけでなく、経済に関する事柄が多かったので選んだ。
この選択は良かったと思う。

日経新聞をずっと読んでいるし、テレビ東京のWBSも毎日見ている。青森の洋上で風力発電をしようとしているとか、ウクライナがチェルノーゼムで小麦をたくさん作っているとかを学ぶのに役立つ。

東大の地理は、複数の教科書に載っている情報をすべて覚えても満点が取れない。

あらゆる媒体から広く長く情報を集めないと推測もできない。

今年の地理の問題も10分の1くらいは謎解きの力で解いた。
すべての地理受験生にWBSを観ることを勧める。

受験科目を決めて、「スタディサプリ」に入会した。

スタディサプリ、通称「スタサプ」はリクルートがやっている事業でさまざまな科目の授業動画が見られる。
1万円ほど払って1年間視聴した。


平井先生の敬天塾は東大専門で入れるのは東大受験レベルの生徒だけだ。
もちろん、ぼくはそんなレベルにはないため特別に入塾テストを免除してもらったが、基礎から教える授業はない。
だから、スタディサプリで、日本史や古文の動画を見なければならなかった。

何度も何度も動画を見たが、興味がないので全く頭に入ってこない。退屈だ。
だから、自分を騙すことにした。

「ぼくは日本史が好きだ。いろいろな事件があって興味深い、これがあったからあの有名な事件があって、それが後のこの制度に繋がったんだな。なんて面白いんだ」と頭の中で唱えた。
そうすると、本当にだんだん面白く感じてきて、3年目には日本史の勉強が楽しくなった。
反対に、最初は楽しかった地理は3年目になって興味を失ってしまった。まあそういうこともあるだろう。


受験のシステムについて少し説明しておく。太字にしておくので不要なら読み飛ばしてほしい。
9月に「大学入学共通テスト」の願書を請求して、提出する。このとき卒業した高校に「卒業証明書」と「調査書」を請求し、卒業証明書も一緒に提出する。
調査書は、東大に願書を提出する際に必要だ。
1月中旬に、共通テストを受ける。
科目は
フランス語200点満点
国語(現代文、漢文、古文)200点満点
数学ⅠA100点満点
数学2B100点満点
地理100点満点
日本史100点満点
物理基礎50点満点
化学基礎50点満点
だ。合計900点。

東大合格者はこの共通テストで8割5分程度を取る。

2月の頭に東大に願書を提出する。受験者が多いと、共通テストの点数で足切りが発生するので、最低でも7割程度は取らなければならない。


ここ数年は、足切り点数が下がってきているので、真剣に勉強していれば足切りになることはない。ぼくもなんとか1年目から東大を受験することができた。

1年目の年は、センター試験から共通テストに変わった年だった。出題形式や難度も不明で、対策が難しかったらしい。

ぼくはたくさんたくさん勉強して、7割。8割5分には程遠いが受験者全体の平均点よりは高かった。

驚いたのは、共通テストの点数が分からないまま、東大に願書を出すこと。

だから、問題用紙に自分の選んだ番号を記して後で自己採点をして、おおよその自分の点数を知る。
そしてどこの大学に出願するか決めるのだ。
点数は4月にならないと開示されない。

ぼくは東大以外を受験するつもりがないので、さっさと出願した。
他の国立大学と迷っている受験者は、毎日公表される東大の出願状況を確認して様子を見るようだ。
東大は文系・理系ともに1類〜3類まであって、それぞれの出願状況が公表される。
倍率が低いところを狙って出願する人もいるのかもしれない。
なお、倍率はだいたい3倍。

ぼくは行動経済学や税法に興味がある。だから、経済学部に入る人が多い文科2類を3年間選び続けた。

共通テストは家から比較的近い大学で受験する。
1年目は三軒茶屋の方の大学だった。
電車で行くには不都合な場所でタクシーで往復した。
お金より勉強時間が必要だ。

受験生たちはみんなキラキラしていた。ほとんどが高校3年生なのだ。
ぼくの周りの大人とは全然違う。
なんていうか、痩せている。大人の痩せ方と違う。
平均的に痩せている。
いかに、自分がだらしない肉体に囲まれて生活しているか認識した。
ぼくの最初の共通テストの印象は「痩せている」だった。

共通テストは2日間ある。
2日目が終わって髪を切りに行き、恋人と食事に出かけた。
初めて行く南平台のイタリアン、1ヶ月ぶりに飲むワイン、たのしそうな彼女。今でも昨日のことのように覚えている。
なぜならば、ぼくが彼女に会ったのはこの日が最後だったから。

ぼくが後に後悔するのは、食事が進んで追加の料理を注文したときのことだった。

「あたし、牡蠣食べたい」
「ぼく牡蠣食べられないよ」

彼女は悲しそうに俯いた。ぼくが牡蠣を食べられないことは、彼女も承知している。でも、どうしても食べたかったのだろう。

「さんきゅうと合わない…」

すでに2年半ほど付き合っていた。


1週間後、彼女から連絡が来て、ぼくは振られた。
そして、この日から2年と2ヶ月経つが、今でも毎日脳内を反芻している。

どうして、ぼくは牡蠣を食べさせてあげなかったんだ。どうして、ぼくは食べ物の好き嫌いなんてしたんだ。

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元国税職員さんきゅう倉田

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