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#12 『リカレントくん』と『リスキリングちゃん』

2023年1月某日

とある大学関係者から『リカレント』と『リスキリング』について話をきかせてもらった。どちらも、対象は『社会人』とした『学び直し』に関連する概念である。両者の定義の違いは以下の通りで、そこから気づいたことや自分の考えを少し整理してみたい。

リカレント教育ー
『職業上必要な知識・技術』を修得するために、フルタイムの就学と、フルタイムの就職を繰り返すこと。

(出所)文部科学省(2020)、「文部科学省におけるリカレント教育の取組について」https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/koyou/20200409/200409koyou03.pdf(2023年1月28日アクセス)。

リスキリングー
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること。

(出所)リクルートワークス研究所(2021)、「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf(2023年1月28日アクセス)。

一旦この定義をベースに考えてみると、両者の異同は『学びの先の目的』にあるように思う。具体的には、『リカレント教育(以下:リカレント)』は、社会人が自らのビジネスキャリアを発展するための多様な学びを対象とする反面、『リスキリング』は、より実務的・実践的な即戦力性みたいなものに重きが置かれている印象だ。

これは、『リカレント』や『リスキリング』による『学びの成果』という果実を誰が享受するのかという点にも違いがあるように思う。具体的には、『リカレント』は、個人(自分)が出発点となって、個人(自分)の成長に主眼が置かれている。一方、『リスキリング』は、企業が出発点となって、個人に知識を一旦プールし、企業の成長に活かすことに主眼が置かれている。後者の方が、より会社都合の打算的アプローチであると表現することもできるかもしれない。

とはいえ、個人(自分)の立場に立ってみると、会社のしくみとして学び直しの機会が提供されることは、結果として自分の知識レベルと市場価値を高めるため、メリットがある。一方、企業の立場に立ってみると、『知識』という資産を購入した場合、それを保存する手段が『人』しかないという状況は少し心許ないという気持ちもあるだろう。それ故に、『学び直し後、○○年間の間で離職した場合はペナルティ』といった制度設計になっている企業も少なくない。ただし、このしくみがあったとて、実際に海外大学院派遣後にやめる官僚などが減っているとは思えない。

筆者は、『学び(直し)』について、『学ぶ時点』と、学んだ成果を『発揮する時点』が乖離している点に、考察の余地があると思っている。つまり、『学びながら仕事で活躍する』という形態の多様化により、『学び直し概念』が一層広まる可能性が潜んでいるのではないかと考えている。

それは、所謂『プロジェクトベースドラーニング』や『ビジネススクールで学んだ成果を日々の業務に活かす』みたいな視点とは、ほんの少しだけ趣が異なる。あくまで、学びは学びとして注力できる環境をつくるべく、例えば、特定の教育機関に派遣される期間などは、社内でも当該テーマに関連するような『特命プロジェクト』に並行して取り組むイメージである。

つまり、これまでの業務とは別の特命プロジェクトをアサインして、『学ぶ時点』と、学んだ成果を『発揮する時点』のギャップを埋めていくアプローチである。知識の生産と消費の同時性を実現するイメージで、知識の職場での消費は、職場の新たな集合知もまた、生産するだろう。『リカレントくん』と『リスキリングちゃん』の思いが合致することを祈りたい。

ほなら。

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