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【書評】『アルファベット そして アルゴリズム: 表記法による建築――ルネサンスからデジタル革命へ』 マリオ・カルポ

イタリアの歴史家、マリオ・カルポによる、アルベルティを基点とした歴史書でもあり、デジタル建築時代を見据えた現代建築史。建築のみならずデザインを学ぶすべての人へ。https://amzn.to/2Np0Qr1

ルネッサンスの建築家、レオン・バッティスタ・アルベルティ。建築家のみならず、法学、古典学、数学、演劇作品、詩作など様々な分野で卓越した才能を発揮した。

アルベルティの「発明」の一つに、図面・透視図法があげられる。それまでデザイナーと製作者は一緒だった。大工の棟梁が現場でデザインしていたのだ。そのアルベルティの発明はその関係性を大きく変えてしまった。

アルベルティの発想にはルネッサンスの大発明である活版印刷、つまり「コピーを作ること」に大きな影響を受けている。今まで現場で決められて作られていたものが、「図面と同じコピーを作る」という概念を用いることで、「図面を書く人=デザイナー」と「コピーを作る人=施工者」に別れてしまったのだ。筆者マリオ・カルポはこれを「アルベルティ・パラダイム」と名ずけている。

「アルベルティ・パラダイム」は、当時は遠く離れた地にローマの権威を知らしめるためにルネサンス様式の建築を作る=遠くに伝達することに使われたが、産業革命で大量生産ができるようになると、一つの優れたデザインを作り、そのコピーを大量に作るという考え方が広まった。そしてその考え方が現在では当たり前になっている。

マリオ・カルポはこの「アルベルティ・パラダイム」がコンピュータの普及でようやく次のステージ「ポスト・アルベルティ・パラダイム」へと移行が始まっていると指摘する。例えばコンピュータで3次元データを生成し、3Dプリンタで人それぞれにパーソナライズされた製品を作ると言ったことが可能になってきた。ハウスメーカーの家などは、アルゴリズムによって人それぞれに最適化されてデザインできるように近い将来なってしまうだろう。

「ポスト・アルベルティ・パラダイム」では、デザイナーは2つに分けられるとカルポは指摘している。アルゴリズムを作る人と、アルゴリズムから場合に応じて最適解を生み出す人。さっきの家の話で言えば、間取り自動作成のアルゴリズムをつくるひとと、それを使って各個人へ最適化する人。

「ポスト・アルベルティ・パラダイム」のデザインとして一番有名な例が、野老朝雄氏による東京五輪のエムブレムだろう。このエンブレムはかなり厳密な幾何学でできており、アルゴリズムで様々なエンブレムを作ることができる。建築家の松川昌平氏によってTOKORO EMBLEM GENERATOR が公開されている。(https://drive.google.com/file/d/0BwV-EeVIBknBSjhpalBwdGpYZkU/view
これを使えば国民一人ひとりに固有のエンブレムを作成できるという。色々旧世代の問題が噴出している東京五輪で唯一といっていい未来志向のデザインだ。

み◯ほ銀行などにその思想が全く理解されず改変されているのが残念だ。

建築のみならずデザインに携わる人に読んでほしい。


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