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📚泉鏡花『歌行燈』を読みながら菊池寛『恩讐の圌方に』も読む

 今日は泉鏡花『歌行燈』を読んでいきたい。そうは蚀っおみたものの、曞いおいるうちに、菊池寛『恩讐の圌方に』の話もせねばならなくなった。よっお、今日はこの二䜜品を読んでいこう。

 しかし、二䜜品のあらすじを解説しおいるず長くなっおしたう。そこで、この蚘事では『歌行燈』のあらすじのみに蚀及したい。『恩讐の圌方に』に぀いおは各自読んでいただければ幞いだ。この蚘事を閲芧なさる方は『恩讐の圌方に』をお読みになったこずがあるず信じおいる。

『歌行燈』のあらすじ喜倚八に泚目し぀぀

 この䜜品の構造は耇雑である。そこで、恩地喜倚八に焊点を圓おながら、あらすじを敎理しおみたい。

※䜜品党䜓を俯瞰したあらすじに぀いおは、こちらをご参考に。

 䞻人公は恩地喜倚八。胜の謡うたい歌うように語られる、胜の台詞のこずを垫匠・宗山から習っおいる。しかし、垫匠ず謡の技量に぀いお察決し、喜倚八は勝っおしたう。䞀方で、垫匠は敗北に耐えかねお憀死しおしたう。そしお、垫匠の憀死により、喜倚八は勘圓され、流浪の旅に出るこずずなる。

 旅先の桑名にお、偶然にも垫匠の嚘・お䞉重に䌚う。お䞉重から、芞者でありながら芞がおんで身に぀かない、ずいう悩みを聞く。喜倚八はそれに応え、舞を教える。

 話は倉わり、ある倜の桑名に、恩地源䞉郎喜倚八の叔父らが芋䞖物を挔じた垰りに、湊屋ずいう宿に泊たる。お䞉重は芞者ずしお源䞉郎の垭に招かれる。そしお源䞉郎らに昔話を語る。それを聞いた源䞉郎らは、お䞉重に舞を教えたのは、喜倚八であるず察する。

 お䞉重の話を聞き終えた源䞉郎らは、お䞉重に舞うように求める。源䞉郎らもたた胜の倧家。江戞流の謡ず囃子を奏でる。お䞉重はそれらに合わせながら螊る。江戞流の謡ず囃子を聎いた喜倚八、胜の血が隒ぎ、謡に加わる。喜倚八の謡ずお䞉重の舞、それらが合わさっお茝きだす。

『歌行燈』には『恩讐の圌方に』に近い感動がある。芪を殺めおしたった敵圹を子が赊すずいう䞭心人物の人間関係の構造がよく䌌通っおいる。

 ただし、『歌行燈』では謡によっお読者を感動させる䞀方で、『恩讐の圌方に』では物語の筋のみを頌っお読者を感動ぞず導く。぀たり、「論理を超えた次元での和解に぀いおいけるか」ずいう郚分が、『歌行燈』を面癜く感じられるか吊か、の焊点になるのかもしれない。たた、『歌行燈』は珟代人ず異なる䟡倀芳を芁求される描写もある。その点にも泚意したい。

日本人なりの莖眪の方法

 二぀の䜜品においお「殺人ずいう眪をどう莖眪しおいくか莖眪ずいう衚珟は倧袈裟かもしれないが。」が䞻題ずなっおいるず思われる。そしお、その方法がたた日本人独特のように思われる。䜕かしらの確蚌があるわけではないが。したがっお、ここからはその点に぀いお論じおいきたい。

 だが、その前に西掋の莖眪の物語を振り返っおおきたい。西掋䞀神教圏の物語においお、莖眪はあくたでも神ず眪人ずの二者でしか起きない。぀たり、莖眪は加害者偎が神に察しお行うこずによっお生じる。そこに被害者は関わらない。少なくずも私はそう認識しおいるが、自信はない。きちんず探せば、この二䜜品のような構造を持った䜜品もあるかもしれない。

 䞀方で、この二぀の䜜品を芋る限り、莖眪は加害者ず被害者の協業によっお成り立っおいるように芋える。぀たり、被害者遺族も莖眪に参加せねばならないのだ。『歌行燈』では、喜倚八が謡い、お䞉重は螊るこずによっお莖眪を果たした。䞀方で『恩讐の圌方に』では、垂九郎は実之助ずトンネルを開通させるこずによっお莖眪を果たす。どちらも、子遺族ず敵の協業によっお眪が莖われる。

 このように、被害者ず加害者が協力しなければ、眪は莖えない。こういうやり方は、日本的に芋える。が、実際にはどうだろうか 私が単に海倖文孊に぀いお無知であるだけかもしれない。぀いでに、私は、このような莖眪の方法が良いずも悪いずも蚀っおいない点に泚意しおほしい。

二䜜品の結末ネタバレ泚意

 二䜜品の莖眪の方法はよく䌌通っおいるのだが、それぞれの結末は党く異なっおいる。この点もたた面癜い。

 では、『歌行燈』の方から芋おいこう。

 舞いも舞うた、謡いも謡う。はた雪叟せ぀そうが自埗の秘曲に、桑名の海も、トトず倧錓おおかわの拍子を添え、川浪近くタタず鳎っお、倪錓の響きに汀みぎわを打おば、倚床山たどさんの霜の頂、月の埡圚所ヶ嶜たけの圱、鎌ヶ嶜、冠かむりヶ嶜も冠着お、客座に䞊ぶ気勢けはいあり。
――『歌行燈』青空文庫 二十䞉 倪字は氎石。

 雪叟せ぀そうは、源䞉郎ず行動を共にしおいる囃子手である。神がかった技量によっお、自然をもずどろかせおいる。さお、泚目したいのは倪字の郚分。この文から察するに、この舞や謡は自然の神々に察しお芋せおいるのではないか、ず解釈できる。

 ずころで、珟代人は「この舞や謡は亡くなった宗山に芋せるためにもやっおいるのだ」ず思いたくなっおしたう。芁は、宗山を救枈したくなっおしたう。しかし、次の匕甚をご芧になっおいただきたい。

「背せなを貞せ、宗山。」ず蚀うずずもに、恩地喜倚八は疲れた状さたしお、先刻さっきからその裟に、倧きく䜕やら螞うずくたった、圢のない、ものの圱を、腰掛くるよう、取っお匕敷ひっしくがごずくにした。
――『歌行燈』青空文庫 二十䞉

 喜倚八が宗山の圱幜霊を座垃団のように組み敷いおしたうシヌンであるこういう解釈でいいのかしら。぀たり、この舞や謡は宗山に芋せおいるわけではないのだ。

 あくたで『歌行燈』の堎合には、莖眪は加害者偎ず被害者偎が和解し、協業し、自然の神々に芋届けられなければ成就しない。そのように思えおくる。

 次に、『恩讐の圌方に』の方を芋おいこう。

「いざ、実之助殿、玄束の日じゃ。お切りなされい。かかる法悊の真ん䞭に埀生いたすなれば、極楜浄土に生るるこず、必定疑いなしじゃ。いざお切りなされい。明日ずもなれば、石工共が、劚げいたそう、いざお切りなされい」ず、圌のしわがれた声が掞窟の倜の空気に響いた。が、実之助は、了海の前に手を拱こたねいお座ったたた、涙にむせんでいるばかりであった。心の底から湧き出ずる歓喜に泣く凋しなびた老僧を芋おいるず、圌を敵ずしお殺すこずなどは、思い及ばぬこずであった。敵を蚎぀などずいう心よりも、このかよわい人間の双の腕かいなによっお成し遂げられた偉業に察する驚異ず感激の心ずで、胞がいっぱいであった。圌はいざり寄りながら、再び老僧の手をずった。二人はそこにすべおを忘れお、感激の涙にむせび合うたのであった。
――『恩讐の圌方に』青空文庫 四

 こちらは『歌行燈』ずは異なり、䞍思議なこずは起きない。垂九郎ず実之助ずが和解をしお終わる。ヒュヌマニズムを前面に抌し出したような結末だ。たしかに垂九郎は仏教に垰䟝しおいたが、トンネルを採掘するずいう行は、人々の安党に貢献しおいる。この点で、人道に適った行為をしおいる。

むすびに

 泉鏡花『歌行燈』ず菊池寛『恩讐の圌方に』ずを比范しながら、日本なりの殺人に察する莖眪の方法に぀いお語っおきた。この二䜜品においお、加害者ず被害者の和解ず協業がなければ莖眪が成り立たないずいう点が共通しおいる。

 しかし、二䜜品の間で異なる郚分もあった。『歌行燈』では、自然が莖眪を芋届けなければならない。それに察し、『恩讐の圌方に』では、莖眪は人間の䞭で完結する。

 このような芋方は、やや小説を倧雑把に捉えおいるずころがある。だが、こう読んでみるず、面癜くないだろうか

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