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📖ドナルド・キーン『思い出の作家たち』を読む

※※ヘッド画像は ia19200102 さんより

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 古典、現代問わず日本文学を愛してきたドナルド・キーンの追想録である『思い出の作家たち』を読んでいきたい。この本で取り上げられているのは、生前に親しくしていた谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、安部公房、司馬遼太郎の5人の大作家たちである。

 ただ、この本で語られるのは、キーンと各々の作家との邂逅ばかりではない。”年表には載らないような作家の歴史”も述べられている。この点が実に興味深い。そんな興味深いエピソードを箇条書きで示してみる。

・谷崎は11, 12歳のころ、級友とカントやショーペンハウアーについて話し
 合っていた。
・川端は、広島と長崎に投下された原爆を小説の題材にしたい、と何度か漏
 らしていた。
・川端は終ぞ、歴史小説・時代小説を書かなかった。谷崎、三島、安部も書
 いていたのに。
・安部は新しいソーダ水を発明して、生計を立てていたことがあった。
・日本では絶大な支持を受ける司馬の著作は、海外であまり翻訳されていな
 い。

 谷崎と彼の級友の賢さに舌を巻いた。小学6年生でカントとショーペンハウアーについて語り合っているのだから。しかしそれと同時に、現代の日本ではこのような知性を尊重できる土壌があるのだろうか?、とも感じた。哲学的・文学的思索の深さというものは、他者からはどうしても分かりづらい。だが、こういう才能を発掘しなければ、日本の文化は貧しいものになってしまうのではなかろうか。この懸念が実現しないことを祈る。

 他のエピソードについては長くなるので語らないことにする。しかし、この本にはこれ以外にも面白い話が詰まっている。ドナルド・キーンが語る三島由紀夫『豊饒の海』の感想も意外なものだった。ここからはぜひ本書を手に取って確認していただきたい。

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