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読書全般

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純文学全般の話をまとめたマガジンです。
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#コラム

20世紀の小説作品年表(ジャンル混合)ができました!

20世紀(正確には1900-2000年)の小説作品年表を作成してみました。ジャンル混合なので、純文学やSF・ミステリなどに特化している方でも意外な発見があるかと思います。作業工程や補足説明は脇に置きましょう。まずは完成品をどうぞ。 小説作品年表(完成品)スプレッドシートのリンクをご用意しました。ぜひクリックしてご覧ください。 以下は年表を見る際の補足情報となります。 年表のテンプレート完成品にはその痕跡を残していないのですが、年表作成にはExcelの関数を利用しています

名刺代わりのSF小説10選【2022】02

 この記事は下の記事の続編になる。先に01の方からチェックしていただけると幸いだ。 04.劉慈欣『三体』 その1:人類に敵対的な三体星人  必ずしも人類にフレンドリーな異星人と遭遇するとは限らない。アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』では人類に友好的な異星人と出会うことができたが、『三体』は違う。三体星人は人類に代わり地球を乗っ取ろうとしてくる。  特に興味深いのは、智子と呼ばれる、三体星人が開発した超小型の量子コンピュータである。超小型といってもICチップというレベ

名刺代わりのSF小説10選【2022】01

 今回は名刺代わりの小説10選・SF小説部門【2022】について、掘り下げていきたい。選出した作品は以下の通り。解説は全5回。 01.アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』  上位存在に庇護される人類。そういったSF的想像力を一冊の長編として描き切ったのは、本作が初めてであろう。異星人に啓蒙された人類が、精神的な存在となって、ついには物質文明を捨てるに至る。小説の筋は大体このようなものであった。 「異星人」の部分を「AI」ないしは「計算機」と読み替えれば、今でも十分通

小説探訪記06:面白さをどう伝えるか?

※※ヘッダー画像は ちーぼー さまより  私は、コラムのように読書感想文を書いてきた。何冊かの本に限って話題を絞れば、効果的に自分の意見を伝えられるからだ。論点を数か所にまとめれば、記事も読みやすくなり、PV数も伸びる。  しかし、コラムのような文章にも悩みがある。以下、4点に絞って並べてみた。 1:構成を決めねばならない コラムのような文章を書く場合、「型」に沿った論理展開が求められる。大学生や社会人であれば、同じ説明をうんざりするほど受けているかもしれない。が、その

読書を続けるために:短距離走のノリでフルマラソンをしない!

こんばんは。 読書習慣をつけるのは大変ですよね。 読まなきゃ、読まなきゃ! そう思って、結局読んだのはビジネス書5ページ。 いつも失敗してばかりと憂鬱に思う方も多いでしょう。 この記事ではムリなく読書を続ける方法を紹介します。 特に紹介したいのは、読書に対する固定観念について。 読書に対して力みすぎている方が多いように感じます。 一文ずつ丁寧に読む。たしかに大事なことかもしれません。 ですが、そんな読み方をしているとバテてしまいます。 文庫本一冊読み切るだ

📖小川洋子『薬指の標本』読書メモ【ネタバレ有】

今日は小川洋子『薬指の標本』の感想をまとめたい。といっても、ツイートを元手にしたメモ程度である。ネタバレがあるのでご注意を! 薬指の標本について「物との交流」は本作に登場するキーワードである。〈語り手〉の女性は、以前にサイダー工場に勤めていた。が、ある日事故によって薬指を切断してしまい、標本室に勤めることとなる。 標本技術士と〈語り手〉の関係性標本技術士から贈られた靴。このアイテムが曲者である。〈語り手〉の女性の足にピッタリとはまる靴には不思議な官能性がある。これは谷崎的

📖中島敦『山月記』を読む(β版)

今回は中島敦『山月記』をじっくりと読んでいくことにします。 記事は長めです。が、お付き合いいただけると嬉しいです。 『山月記』といえば、李徴が虎になる話でした。俗世を離れ竹林にこもり、詩作においても大成せず、李徴はついに虎になってしまいました。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」というフレーズを覚えている方も多いのではないでしょうか。 主な登場人物は李徴と親友の袁傪。袁傪の深い友情に尊さを感じた方もいらっしゃるかもしれません。 ストーリー解説はここまでにして――『山月記』を

マガジン紹介――過去記事を整理していきます!

不定期でありながら2年近くnoteを書いてきました。つぶやきも含めて300記事以上は公開しているみたいです。 過去記事をたどるのも一苦労、となってしまいました。 そこで今回は自分が作成したマガジンを紹介したいと思います。(また同時並行して、過去記事の整理やサイトマップの更新なども裏でやっていきます。) 1. 読書全般今までに書いてきた本に関するエッセイ・コラム・作品考察をまとめています。 その量は195記事!(これからも増えていくでしょう。)とても多いですね。 過去

📖三島由紀夫『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』を読む②

※※ヘッド画像は つゆこ さまより 今日もまた三島の短編小説『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』を読んでいきたい。前回の①はこちらから👇 前回の議論この小説は「哲学的日記」とのたまっている位だから、どうやら「殺す」ということは何か別のことを表していそうである。この”「殺す」とはどういうことか?”を考える準備として、”小説中で誰を殺してきたのか?”ということを整理・考察してきた。 殺人常習者は足利将軍、高貴な人間の正妻、百二十六人の乞食を殺してきたというこ

📖三島由紀夫『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』を読む①

※※ヘッド画像は Sut さまより 今日は三島由紀夫の短編『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』を読んでみたい。この短編は、『花ざかりの森』と同様、『仮面の告白』以前に書かれた最初期の作品である。三島にとっての第二の処女作といえるかもしれない。しかし、内容は抽象的で難しい。難解なこの作品を少しでもほぐしていければ、と思う。 ※断らない限り、引用元は『花ざかりの森・憂国』「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」新潮文庫 八十四刷とする。 この短編

現代文学の2つの面~虚無と信仰

 戦後の日本文学には、「虚無」と「信仰」という2つの面があるように思う。つまり、戦後を生きてきた日本の純文学作家は「虚無」と「信仰」を描いてきた、ということだ。  では、最初に「虚無」について語っていこう。 戦後の日本文学の「虚無」 戦時中の人々は生きる目的が与えられていた。人々は戦争に勝つために生き、戦争に勝つために死んだ。しかし戦争が終わると急に自由になった。終戦直後は生きるのに必死だったが、急激な経済発展によって大多数の人が飢えずに済む。  このような状況で、人々

📚泉鏡花『歌行燈』を読みながら菊池寛『恩讐の彼方に』も読む

 今日は泉鏡花『歌行燈』を読んでいきたい。そうは言ってみたものの、書いているうちに、菊池寛『恩讐の彼方に』の話もせねばならなくなった。よって、今日はこの二作品を読んでいこう。  しかし、二作品のあらすじを解説していると長くなってしまう。そこで、この記事では『歌行燈』のあらすじのみに言及したい。『恩讐の彼方に』については各自読んでいただければ幸いだ。(この記事を閲覧なさる方は『恩讐の彼方に』をお読みになったことがあると信じている。) 『歌行燈』のあらすじ(喜多八に注目しつつ

📖村上春樹『パン屋再襲撃』を読むかもしれないし、読まないかもしれない

 小説を読むことはファッションショーのようなものである。裸の小説に解釈の衣を着せるのは楽しい。複数の解釈をぶらさげて、着せ替えをするとなお楽しい。  今日は村上春樹『パン屋再襲撃』について書く。まずはタイトルから考察していこう。 タイトルについて なんとも魅力的なタイトルである。パン屋と再襲撃を組み合わせるセンスが素晴らしい。まずは、まったく読んでいない体で、タイトル考察をしていこうと思う。  ひとまず『パン屋再襲撃』を、パン屋と再襲撃に分解してみよう。 パン屋につい

📚同世代チーム~あの作家とこの作家は同級生

 有名な作家たちの生年を表にまとめてみた。これが結構面白い。同世代には同世代ゆえの妬みや親しみがある。あるいは夭折した仲間をしのぶこともあったかもしれない。無機質な表の中から、感情のドラマが浮かび上がってくるような気がするのだ。  小泉八雲から遠野遥、宇佐美りんまで、おおよそ150年分である。圧巻なのはよいが、文字がつぶれて読めないだろう。ご安心を。ここから、この年表の主だった点を解説していく。私の読書遍歴を交えながら。(未読の作家も数多いが、ご容赦を。) 1850~18