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インドネシア滞在レポ テアター・クブール

アジアのアートプロジェクト「テラジア|隔離の時代を旅する演劇」のメンバーである坂田ゆかりが、2022年9月にインドネシアでおこなった滞在リサーチでの体験を報告する連載です。

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墓地の中に劇場?

今回の旅を語る上で欠かせない場所のひとつが、テアター・クブール(墓地劇場)です。私は事前に「ジャカルタの墓地に劇場がある」「身体能力の高い人たちがそこを拠点に活動している」という断片的な情報を教えてもらっていました。しかし行ってみるまでは全く想像がつきません。墓地劇場とは一体、どういうことなんでしょう?

カラフルな壁の路地裏を歩いて劇場に向かう。家の中から人々の声が聴こえる。


1983年旗揚げの劇団

こちらはテアター・クブール主宰・演出家のDindonさん。劇団を創立したのは1983年。劇団はまもなく40周年を迎えるのだそうです。小柄で身軽そうな彼と握手を交わした瞬間、この方がみんなの大黒柱であり続けてきたことがすぐにわかります。実際、彼が育てた後進たちは数知れず。Zoom越しではない、本物のDindonさんにやっと会えました。

右側手前がDindonさん、奥にテアター・クブールのメンバーたち

テアター・クブールは、毎晩20〜24時にトレーニングを行なっています。劇団員はもちろん、所属外からもプロのパフォーマーたちが集まってきます。彼らはコロナの影響で本番が激減したときも、誰かに見せる予定が全くなくても、ひたすらいつも通りに、トレーニングを継続してきたそうです。

墓地での活動は本当だった!

晴れた日の活動場所は、クブールの名の通り、墓地の中央にあるこちらの広場。しかし、雨が降った後は地面が濡れてしまうそうで、雨続きの滞在中、私たちはここでの野外パフォーマンスを体験することができませんでした。残念無念!でもその分、来年ここで行われる公演がますます楽しみです。

墓地の中にある広場。お墓に囲まれてパフォーマンスを行う彼らの姿を想像する。


スタジオに置いてある太鼓をDindonさんが叩き始めると、孫のGeniuちゃんがやってきて一緒に叩き出します。奥さんも、そして娘さんもDindonさんの演出する作品に出演しています。まるで家のような劇場、そして家族のような劇団です。

リズムを聴きつけてやってきた孫との合奏
写真:冨田 了平

あっという間に、劇場は音楽に包まれるのでした。


新作ワーク・イン・プログレスの披露

さらに、Dindonさんは、テラジアがインドネシアに初めて集まるこの機会に合わせて、テアター・クブールの新作パフォーマンスの一部を用意して待ってくれていました。

うめき声 吐息 スマートフォンのライトに照らし出される俳優たちの汗
写真:冨田 了平

詳細は、テラジア オンラインウィーク 2022 のプログラムの中でDindonさんから直接プレゼンテーションがありますので、ここではまだ、私は秘密にしておきます。


儀式と演劇

私がテアター・クブールの人々に出会って、何気ない会話の中から改めて尊敬の念を抱いたのは、彼らがさまざまな「儀式」について日常的な探求を行っていることでした。多くの島から成る多文化のインドネシアには、土着の信仰に基づく伝統的な儀式が無数に存在するそうです。テアター・クブールは、そういった精神性を基盤としたパフォーマンスを上演するために、様々な場所に赴くこともあるといいます。現代演劇の実践者たちが、「演ずる」という共通点によって儀式や儀礼の担い手を務めることは、少なくとも現在の日本の演劇シーンではほとんど見られないことです。

短い滞在期間でしたが、私はこのスタジオに3回通いました。こんなに近くに死がありながら、密度濃く、生きることとまっすぐに向き合う時間がここには流れていました。そして最後に訪れた9月7日。みんなとのしばしのお別れが名残惜しいような夜でした。

テアター・クブールのメンバーと、集まった観客たち
写真:冨田 了平

本リサーチはJSPS科研費JP 22K13002の助成を受けて行われました。

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