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LGBTとライフエンディングステージの課題 その多くは誰にも共通する課題だ

お墓や仏具、葬儀、信託、遺品整理など、ライフエンディングにかかわる産業展示会「第4回エンディング産業展」が8月22~24日の3日間、東京・江東区で開催された。毎回参加しているが、仏教教団ブースが増えるなど、「産業」の枠がとろけていくような印象。この展示会は、どこに向かおうとしているのだろう。それはそれとして、個人的に最も印象深かったのはセミナー「LGBTとライフエンディング」だった。

当事者らが登壇して語る内容は、重かった。婚姻できない同性カップルが、ライフエンディング段階で直面する問題としては、たとえば以下のようなことがあるという。
・パートナーへの医療行為に同意できない、カルテをみられない
・医療費控除のための医療費合算ができない
・借地借家権の承継ができない
・国民年金の死亡一時金が受け取れない
・パートナーの葬儀への参列を親族から拒否されるケースがある etc.

トランスジェンダーの場合だと、性別によって戒名をつけ分ける仏教戒名の問題もある。そもそもLGBTカップルは長続きすることが少ないそうで、高齢期を「おひとりさま」で迎えるケースが多い。そのうえ、社会的差別のために同一職場で継続的に安定した仕事をすることが難しく、非正規雇用が多くなり、老後の資産形成が難しい人が多いとのことだ。

聴きながら、思ったのは「これって、ほとんどが性的少数者に限った問題ではないな」だった。

まず、夫婦別姓などのために事実婚を選択する異性カップルが直面する課題と重なる点が多い。非正規雇用労働者は被雇用者人口の4割近くを占め、ごくごく当たり前の存在だ。高齢単身世帯は急増の一途を辿っている。つまるところ、近代家族が変容、機能低下するなかで、だれがどう個人のライフエンディングステージを支えるのかという、私の取材・研究テーマ、問題意識と全く合致するのだ。

当たり前のことなのだがつい見過ごしがちなのが、社会的マイノリティが直面する問題が解決されれば、それはおのずと誰にとってもハッピーな結果になるという事実だ。それは、ユニバーサルデザインが障がい者のためだけでなく誰にとってもメリットがあるのと全く同じこと。誰もが安心した老後を過ごして死を迎えられる社会を実現したいと思えば、「LGBTの老後の問題なんて自分には無関係」などととらえることが、どれほどの誤りであることか。

社会的少数者の権利がごく当たり前に尊重される社会は、すべての人たちの権利が尊重される社会だ。逆にいえば、少数者が生きにくい社会は、誰にとってもいつかは生きにくくなる社会でしかない。生きている限り、だれもが少数者になる可能性があるのだから(たとえば、高齢になって体の自由がきかなくなることは、障がいを有することと同じだろう。結婚して子どもがいても、子どもはいつか独立し、夫婦の一方が亡くなれば単身世帯になる。会社の倒産で突然、失業者や非正規労働者になることだってある。少数者の側にだれもがいとも簡単にポジションを移しうる)。

いま、家族の有無にかかわらず、ライフエンディングを支える制度自体はある程度整いつつある。公正証書遺言や成年後見制度、医療指示の公正証書、死後事務委任契約、信託制度など、現状ある制度を活用することでかなりの部分はカバーできる。だが、肝心なのはやはり「誰」がその担い手になるのかという点だ。

偶然だが、このセミナーの前に同じ場所で開催されたセミナーに登壇したNPO法人りすシステムが1993年に始めた生前契約は、契約家族という概念でエンディングステージを市民が支える。「誰が」という問いに応える取り組みだったといえる。

そもそも成年後見制度や死後事務委任契約など、りすシステムが25年間活動する中で獲得・普及させた諸制度は、間違いなくLGBTの老後を支える杖になる。それをLGBTならではの問題にどう適用していくか。誰にとっても使い勝手の良い、よりよいものにしていくか。新たな制度を生み出していくか。そして、「誰」が担い手となるのか。いずれも「多数者」の側との協働が必要な場面が多いことは間違いない。今回のセミナーの中心的問題意識とは、副題の「すべてのひとに知ってほしい」という言葉にある通り、誰にとっても大切な課題なんだという意識共有の必要性を訴えることだったのだと感じた。

もともと私がエンディングステージの問題に関心を持つきっかけは、お墓だった。30年ほど前、イエ制度の残滓としての家墓は、社会的マイノリティ―である女性の姿をくっきりと浮かび上がらせた。そんな、墓というフィルターを通してみる社会のありようが面白くてのめりこみ、そこから徐々に葬儀、生前の医療同意問題など「前」の方に関心が移り、ライフエンディングステージ全般に関心が届いた。社会的マイノリティが直面する問題は、必ず社会のひずみを浮き彫りにしている。昔のことを思い出しつつ、そんなことをあらためて感じることができたセミナーだった。

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