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テニス上達メモ089.フォーム解説は「間違いない」から騙される


▶「NGありき」に慣れ切ると麻痺してしまう


テニススクールのレッスンでも、雑誌の技術モノでも、YouTubeのレッスン動画でも、打ち方やフォームに関する「NG例」というのが、よく紹介されます。
 
「こういうフォームはよくあるNG例ですから気をつけましょう」
 
「だから、こういう正しいフォームに改めましょう」という流れ
です。
 
もう慣れきっているから、それが情報を発信する側も受信する側も、当たり前のようなふしがある。
 
とはいえ私は、首を傾げたくなる例が少なくありません。
 

▶フォーム解説は「間違えようがない」


いえ、フォーム矯正後のOK例は、それを「意識」するかどうかは別にして、100歩譲ってまだ分かる。
 
例えば「ロジャー・フェデラーの動画や連続写真を見ると、こうなっています」と解説する。
 
それは、「そうなっている」見た目の形をなぞらえる説明だから、フォーム解説は「間違えようがない」のです。
 
「フェデラーはヒジからラケットを引いています」
 
「フェデラーはインサイドアウトでスイングしています」
 
「フェデラーは腰の高さにフォロースルーしています」
 
現象面を指摘するのは後づけですから、間違えようがないのです。
 
「はい、そうなっています」
としか答えようがありません。
 
だから、騙されます。
 

▶「切り抜き」問題発生


ただそれらを、当のフェデラーがプレー中に本当に「意識してやっているのか」という前提条件が疑わしいのです。
 
ヒジから引き、インサイドアウトで振り出し、腰の高さに振り切っているフォームを、意識しているのかどうか?
 
それは、相手からの返球や、自分から狙うコースなどによってバリエーションはないのかどうか?
 
そのフォームは1試合の中で何百回も打たれたフォアハンドのうちの、1回だけを取り上げた「切り抜き」ではないだろうか?
 
ほかのすべてのフェデラーのフォアがそうなっているわけではありません。
 

▶自分で確かめればすぐ分かる

 
「あなたの歩行動作は、左足で地面を蹴ると同時に右手を振り出し、その反対に、右足が前に出るのと同時に、左手を振り出しています」
 
第三者にそう説明されたら「そうですね」としか言い返しようがありません。
 
それをあなたが「意識」して、左足で地面を蹴ると同時に右手を振り出しているのかという前提条件が、フォーム指導、フォーム解説では見過ごされています
 

▶そんな人いない


OK例は、百歩譲って分かると仮定しました。

さて問題は、NG例なのです。
 
OK例から外れたフォームをNGと定めます。
 
ただ、「そこまでおかしなやり方は誰もしていません」というお題が頻出するのです。
 
たとえば今パッと思いついたのが、「トスするボールはわしづかみにしないようにしましょう」。
 
ごもっともです
 
視聴者や読者は納得します。
  

▶そこまで無能ではない

 
とはいえそんな指摘はされなくても、リリースするボールをわしづかみにするプレーヤーが、一体どこにどれだけいるでしょうか?
 
砲丸のような重さのあるボールならまだしも、56.0~59.4グラムと卵ほどの重さのテニスボールを支えるために、本当にわしづかみする人がいるでしょうか?
 
トスするボールの持ち方を教わらなければできないほど、テニスプレーヤーは無能なのでしょうか?
 

▶フォームは「現れる」

 
さらに「逆NG例」もあります。
 
「ヒザが棒立ちになっています」
 
特に日本人は足を使わないと「横着」と決めつけがちです。
 
とはいえ、何度もご紹介しているこちらの動画。


棒立ちに見えるのは、私だけではないはずです。
 
それでも飛んでいくボールのスピードや安定性、スピン量は、一般的なアマチュアがヒザを使ったフォームで打つストロークに比べて、ハイクオリティでしょう。
 
ヒザが使われ出すスイングが見て取れるのは、打ち合うラリーの勢いが増してきた動画が後半に及んでから。
 
つまり必要に応じてフォームは「現れる」のです
 
こちらで述べたとおり、棒立ちになって表面的には動いていないように見えたとしても、スタティック(静的)に活動しています。
 
だとすると、棒立ちは必ずしもNGなわけではないにも関わらず、まるでダメであるかのように捏造された例と言えます。

▶モヤッとする


そして「矛盾NG例」もあります。
 
「体が開きすぎです」のNG例と、「体を回して打ちましょう」のOK例。
 
開くか回すかの表現を変えただけで、横向きから前を向く動作としては「同じ」です。
 
もちろん初めから真正面を向いたままスイングしているのであればそうとも言えますが、指導の意図は一般的にそうではありません。
 
横向きから前を向く動作に関するアドバイスです。
 
体を回すと開きすぎと注意され、体を閉じると回転が使えていないと注意され……。
 
どこか、モヤッとします。
 

▶「原因」と「結果」の履き違え

 
どこまでが体の開きすぎで、どこまでが体の回転なのか。
 
簡略化して言うと、打ち急いだために体が回りすぎたのが開きすぎ。
 
逆に振り遅れたために体を開けなかったのが回転不足。
 
つまりそれらは、フォームのNGというよりも、打球タイミングがズレて現れた「結果」
 
ですから、フォームを正せば上手く打てる「原因」ではないのです。

▶意識するとこんがらがり、集中もできない「ダブルパンチ」

 
そしてトドメは運動連鎖です。
 
「下半身から上半身へと力を増幅させながら伝えていく」という指導。
 
分かるのです、頭では。
 
ですがここでは「足で地面を蹴ったら、ヒザ、腰へと力を伝え、上体をターンさせたら、そこから肩、ヒジ、手首へとスイングを加速させていく」という動作が、果たして意識してできるかどうかという、机上の論ではなくて、現実問題を取り上げます。
 
100歩譲って「球出しならできる」としても(できませんけれども)、走らされる試合においてはそのようなことを一つひとつ意識しながらプレーすることなど、できない。
 
むしろ意識してやろうとすると、動作はこんがらがるし、運動連鎖を意識するとボールに集中できないから、打球タイミングも合わなくなるダブルパンチです。
 

▶納得すると、錯覚する

 
確かに言いたいことは分かります。
 
実際にプロのスイングを見てみても、下半身の大きな筋肉から始動して、体幹に力を伝え、スイングを加速させる流れになっています。
 
だから、視聴者や読者は納得します。
 
しかし「納得」してしまうと、「錯覚」しているとは気づけません
 
確かに「そうなっていた」としても、「そうしている」わけではないのです。
 
意識してできることではありません。
  

▶「する」意識をしなければ「なる」


一方では逆説的ですが、どんなに運動音痴を自称する人であっても程度の差こそあれ、普通にスイングすれば「足で地面を蹴る→ヒザ、腰へと力が伝わる→上体がターン→そこから肩、ヒジ、手首へとスイングが加速していく」という動きにはなるのです。
 
5歳の子でも「思い切って振ってみて」とスイングを促すと、運動の流れを説明するまでもなく、ちゃんと地面で足を押す反力を得て、腰をターンさせ、ラケットを加速させます。
 
決して腕だけを振るようなマネはしません
  

▶「私にはできない」否定的な視線が自己肯定感をくじく

 
なぜ話がこんなにチグハグになっているのかというと、常識的なテニスレッスンが想定するNG例が、一般に「あり得ない」からでしょう。
 
「そんなわしづかみにする人はいません」というNG例のフォームを提示するものだから、「正しくは指のつけ根の関節に乗せつつ、親指で支えます」というOK例のフォームが必要に思えてきます
 
すると、今までその人なりに乗せていた自然な位置から微妙にズレて、トスが安定しなくなる。
 
そして思うのです。
 
「プロやコーチが言っている通りにやっているつもりなのに、私にはできない」
 
自己否定的になり、自己肯定感がくじかれます。
 

▶では、「逆立ち」しながら打ってもいいのか?

 
ないNG例をあることにしてOK例へとこじつけるから、おかしな話になっています。
 
正しいフォームはない以上、NGのフォームもありません。
 
NGフォームはないというと、「では仮に、逆立ちしながら打ち返すようなメチャクチャなフォームでもいいのか?」という反論が聞こえてきます。
 
しかし、その言い分は成り立たないのです。
 
そのようなムチャクチャなフォームは、あえて「意識」しないと、そうはならないからです。

▶いつも正しいフォームで打てたらそれは「お遊戯会」


前へ打ち返すのに後ろを向きながらスイングする「股抜きショット」は、NGフォームではありません。

 
もちろん、前を向いた万全の態勢で打ち返せるのであればそうするけれど、それがいつもできるとしたら、それはもう「戦うテニス」というよりも、お膳立てされた舞台で披露する「お遊戯会」です。

その時はそうせざるを得なかった事情が、後方へギリギリ追いついてツーバウンドしかけた緊急対応時には、股から抜かなければならない事情が、プレーヤーには確かにあった。
 
事情はお構いなしに、「前を向いて打つのが正しいOKフォーム」をいつも強いると、股から抜く対応力は、決して培われません

▶「大前提」が違う


昨日、「ラケット同士を互いにぶつけ合うダブルスペアは下手なのではなく上手い」と説明する際、動画を載せようとして見つからなかったから断念したのですが、見ていたら、このスピード感とカオスです。


本当に、「ボレーは横向き」「ラケットヘッドは立てる」「足で運ぶ」などのフォームを、このスピード感とカオスのプレー中に選手たちは意識しているのでしょうか?
 
ストロークでは「足で地面を蹴ってヒザ、腰へと力を伝え、上体を回し、そこから肩、ヒジ、手首へとスイングを加速していく」などと、意識しているのでしょうか?
 
ほかにも注意すべき、レッスンや技術モノ、ユーチューブ動画でならったアドバイスは、山ほどあります。
 
テイクバックはサーキュラーさせて、ワキが開かないように注意しつつ、インサイドアウトで振り出すなどのスイングに関するフォームも、同時に意識しながらプレーしているのでしょうか?
 
プロはそれができるから、上手いのでしょうか?
 
いえ大前提として実は、「意識していないから」あのスピード感なのではないでしょうか?
 

▶マイナスにプラスを掛け合わせてもマイナス


度々お伝えしています。
 
マイナスにプラスを掛け合わせても、答えはマイナスにしかなりません。 

マイナス×プラス=マイナス
 
前提が違う「マイナス」には、「プラス」の何かを掛け合わせてもやはり結果はマイナスです。
 

 ▶「分かりやすい解説」ほど危ない理由


「このプロの解説は分かりやすい!」と、テニス実用書を担当する編集者が称える声を、実際に聞いたことがあります。
 
それはそうでしょう。
 
冒頭で紹介したとおり、フォーム解説は「間違えようがない」からです。
 
だからその実用書を読んだ生徒さんは納得します。
 
その結果導かれる方程式は下記のとおり。
 
大前提が違う(-)×分かりやすい解説(+)=大マイナス
 
その解説が分かりやすければ分かりやすいほど、生徒さんは錯覚して、下手になるマイナスの効果が発揮されます。
 
ご注意ください。

即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero