質問062:イースタングリップとウエスタングリップのどっちがいい?
回答
▶「決めつける」必要はない
こればかりは、どちらがいいとご提案差し上げるのは、難しいのです。
あえて申し上げるならば、どちらでもよいし、どちらと決めつける必要もありません。
ご自身が保有しているイメージに基づくフォアハンドに馴染む握り方をベースに、その時々の状況に適したグリップを、そのつど反射的に微調整されるのがよろしいかと思います。
▶グリップは「決めた」のではなく「選ばれてきた」
もともとグリップというのは歴史上、自分で「決めてきたわけではない」背景があります。
環境に応じて、「選ばれてきた」。
それは、「グリップ名」を見れば、明らかです。
アメリカの「東部」で広まったグリップだから、「イースタン」です。
アメリカの東部、当初は芝のコートが一般的でしたが、やがて土のコートも増えるに従い選ばれた握り方に、「イースタン」と名づけられたのでした。
一方、アメリカの「西部」で普及した握り方だから、「ウエスタン」です。
アメリカの「西部劇」といえば、荒野を駆けるカウボーイでおなじみの乾燥した過酷な環境が舞台。
芝が育たないため、コートはカチカチの土(クレー)やコンクリート(ハード)が主流となります。
芝のコートに比べてバウンドが高く弾むため、高い打点に応じやすい握り方として、西部でポピュラーとなったから「ウエスタン」です。
そしてテニスが発祥したヨーロッパ大陸(コンチネンタル)では、バウンドが低く滑る芝のコートが主流。
大陸由来の低いボールに応じやすいグリップとして広まり、「コンチネンタル」と名づけられました。
山の上に住んでいるから「ヤマガミさん」、みたいな感じかもしれません。
そのようにグリップというのは、自分が握り方を「決めてきた」というよりも、環境に応じて「選ばれてきた」経緯があるのです。
▶サーフェスやプレースタイルに合っていれば「それでいい」
なのでご質問についてこのストーリーになぞらえれば、ご自身がプレーする環境(サーフェス)に合っていればよいという、身も蓋もない回答になるのですけれども、それとは別にご自身が志向するプレースタイルもあるでしょうから、ご提案差し上げるのは難しいのです。
一層、身も蓋もなくて、恐縮です。
もちろんグリップと、球種や球威、球速の相関は、ある程度あります。
とはいえ、スピン系はウエスタンじゃないと打てないとか、フラット系はイースタンじゃないと打てないというほどの、かしこまった縛りがあるわけでもありません。
▶フェデラーのグリップは「厚い」のか「薄い」のか?
現代テニスでは、ストロークは厚めのグリップが主流のせいか、それが「スタンダード」と、決めつけがちです。
しかしイースタンの軟投派で、抜群のコントロールを武器に、メチャクチャ強いというプレーヤーもいますよね。
ロジャー・フェデラーなどは、どちらかというと比較的薄めのセミウエスタンくらいで(これを薄めというか厚めというかは、人によるでしょうけれども)、そういうタイプのプレーヤーだったのではないかと顧みます。
▶現代は「ラケットの進化」がグリップの傾向性を決めている
一方ではラケットの進化も関わっていて、スピン系の強打に適性があるプレーヤーが、フレームの高剛性と軽量化に伴う高操作性を武器に、時代の流れに呼応する形で厚めのグリップをベースに使うプレースタイルが多くなっています。
ですから現代テニスではグリップについて、かつてテニス創世記に採用されていた環境(サーフェス)の特徴に依るのみならず、ラケットの進化にも、握り方の傾向性を牽引する要素があると言えます。
とはいえ、今後はまた、どうなるか分かりません。
時代は繰り返して、再びサーブ&ボレーが隆盛するとコンチネンタルが主流となるかもしれないし、まったく新しいタイプのプレースタイルが現れるかもしれません。
それに応じてグリップの傾向性も、変わるのは必然でしょう。
▶フォームも「選ばれた結果」にすぎない
今さら、まったく新しいタイプのプレースタイルなんて、出てくるでしょうか?
振り返れば伊達公子のライジングショットは、小柄で、フィジカルにアドバンテージを求めにくい日本人女子が、世界へ立ち向かうための、当時として画期的でニュータイプのプレースタイルだったと言えます。
そしてそのプレースタイルを実現するために、イースタンくらいの薄めのグリップが「選ばれた」。
フォームもそう。
上から下へループするタイプのサーキュラー型テイクバックが、現代テニスでは主流ですが、ライジングマスターである伊達にとっては、逆ループ(下から上へ戻してくるスイング軌道)のほうが、バウンドの上がり際を捉えるのに打球タイミングを計りやすかったのかもしれません。
つまりフォームだって、自分が意識して「決める」というよりも、プレースタイルに応じて「選ばれる」のですね。
▶結局「フォームは関係ない」
念のため付言しておくと、それは「伊達さんが」、という話であって、決して逆ループするテイクバックのフォームが「ライジングとして正しい」などと、言いたいわけではありません。
それが証拠にその後、マルチナ・ヒンギスは上から下へループするタイプのテイクバックで、ライジングショットを巧みに操りました。
しかもそのグリップも、伊達と違って厚かった。
ですから結局のところ、「フォームは関係ない」のです。
それと同じようにグリップについて、最初から「こうだ」と、決めつける必要もない。
イメージするプレースタイルに、自分にとってふさわしいグリップが現れるのを待っていれば、そのうち一定傾向の握り方が自然と定着してきます。
▶アルベルト・ベラサテギの「エクストリーム・ウエスタン」
とはいえかくいう私も、グリップについて散々悩んだクチで(苦笑)、爆速フォアだったアルベルト・ベラサテギ(1994年フレンチオープン男子シングルスのファイナリスト)のように、グリップが「ひっくり返った」時代もありました。
当時は「エクストリー厶・ウエスタン」などといって話題になりましたが、要するに厚くなりすぎた「コンチの手のひら返し」でしたね(笑)。
ベラサテギのグリップが「エクストリーム化」した背景には、彼自身が小柄であったこともあり、高いバウンドに対応するための必然だったと言えるかもしれません。
▶ブルゲラは「サーブ&ボレーヤー」だった
ちなみにベラサテギと決勝を競い、戦いを制したセルジ・ブルゲラは、「後ろで粘るだけのストローカー」などと揶揄もされましたが、ジュニア時代は生粋のサーブ&ボレーヤーだったというから、グリップだけでなくプレースタイルも、「自分はこうだ!」などと決めつける必要はなく、キャリアのなかで変わってよいといえます。
サーブ&ボレーヤーのブルゲラのままだったら、フレンチ制覇はなかったかもしれないし、ウインブルドン制覇があったかもしれない。
どちらもファンタジーチックな「たられば」の話ですけれども……。
▶グリップの「扁平型」と「丸型」について
またグリップについて当時の私といえば、その形状が自分には合わないと思い込み、グリップ加工したりするチューニングもやりました。
扁平型を丸型に近づけたりした。
でも今思えば、上手くプレーできない原因を、グリップのせいにしていただけなのです。
「強打はスピンをかけなければコートに収まらない!」
「だからグリップは厚くしなければならぬッ!」
そんな思い込みがあったのでしょう。
だけどだとしたら、ピート・サンプラスの「ピストル・フォア(ピストル・ショット)」が、コートにことごとく突き刺さった根拠を、見出せなくなるのです。
テニスを上手くプレーできない問題の本質は、まったく別のところにあり、それは、グリップの握り方でも、テイクバックの引き方でも、フォロースルーの振り抜き方でもなくて、打球タイミングであったり、イメージであったり、ボールの見方であったり、集中力であったりしたのです。
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