テニス上達メモ095.難しい言葉に満足する人たち
▶「ほな、ビッグバンてのは、なんや?」
Audibleで高速大量回転中の『きみのお金は誰のため』(田内学著・斉藤範子ナレーション・東洋経済新報社刊)第1章に、「難しい単語に満足する人たち」という見出しがあります。
「兌換紙幣」「不換紙幣」という言葉を知って、お金の歴史や仕組みについて理解した気になる。
ボスが唐突に、「宇宙はどうやってできたか、優斗くんは知ってるやろか?」と尋ねる。
優斗くんは「ビッグバンです」と答えた。
「ほな、ビッグバンてのは、なんや?」とボス。
今まで「大爆発?」とくらいにしか考えたことがなかった優斗くんは答えに詰まり、「何も分かっていなかった」自分を恥じた。
ボスは言う。
「難しい単語を覚えただけで理解した気になると、そこで学びが終わってしまう。そういう人たちが世の中にはぎょーさんおるわ」
▶「過剰流動性相場」という言葉に満足する
話を聞いていた投資銀行に勤める七海さんは、あえて難しい言葉を使うことがあるという。
客に舐められないように。
株価上昇の理由は「グローバルな過剰流動性相場」などと、わざと難しく言い回す。
それは「世界でお金が余っているから」と言っているだけなのだそう。
「難しい単語を覚えただけで、多くの大人は満足するのよ」と七海さん。
「過剰流動性相場」という言葉を覚えれば、株価上昇の理由を理解した気になるという。
ボスは言う。
「彼らは難しい単語が知恵の実とでも思っているんやろな」
▶「スピネーション」「ローディング」!?
……うーん、身につまされます。
テニスのレッスンも、私も含め指導者側は難しい言葉を使いたがり、生徒さん側はそれをありがたがる(煙たがる?)傾向です。
テニスのレッスンに限らず、「レガシーをワイズスペンディング」などの横文字を多用したり、日本語でも「写像」などとあえて聞き慣れない言葉を使って相手を言いくるめようとしたり……。
「サーキュラーテイクバック」とは、ラケットを上から丸く引くこと。
「プロネーション」とは、ヒジから先を外側へひねる。
「スピネーション」はその逆。
「キネティックチェーン」は、体の連動。
「ローディング」は、タメを作って体を回す。
言っているのは「世界でお金が余っている」と違わないような内容です。
▶「テニス上達の果実」はどこにある?
テニスに関する難しい言葉を覚えると、「できるようになる」などと錯覚しがちです。
ボスの言葉を借りると「知恵の実とでも思っている」。
「サーキュラーテイクバック」「プロネーション」「スピネーション」「キネティックチェーン」「ローディング」……。
まるでそれらが「テニス上達の果実」などと勘違いしがちではないでしょうか?
そしてもしかすると知ってか知らずか世の中のテニスコーチたちも、七海さんと同じように、生徒から「舐められない」ように、難しい言い回しを使っているのではないだろうか?
▶「ボールに集中」だけで上手くいくはずがない?
テニスの上達は、現実に対するイメージのズレがない前提さえ踏まえれば、あとは「ボールに集中」すれば達成されます。
そういうと、「たったそれだけ?」などと不安がられます。
不安だから、新しいテニス上達に関するメソッドを求めてさまよいます。
「コツのコツの、そのまたコツはないものか?」
キリがありません。
「インパクトでラケット面を垂直にする」
「垂直にするためには面を伏せてラケットを引く」
「面を伏せてラケットを引くにはサーキュラーテイクバック」
「サーキュラーする際にはワキを空けない」
「ワキを空けずにラケットを引くためには体を横向きに」
「横向きになるにはショルダーターンで……」
どこか分かったような気になり、「難しい言葉に満足する人たち」がテニスコートに少なくありません。
▶分かったような「フリ」をする
いえ、難しい言葉を「分かったような気になる」というよりも、「分かったようなフリをする」のかもしれません。
「それくらい分かっている」と。
「過剰流動性相場」という言葉を若い女が口にした。
分からなくても「分からない」といって聞き返せず、「なるほど」「そうだね」などと言いたくなるのは、プライドがうずくからだと思うのです。
▶畑にバボラの『エクセル』はない
これは笑い話として読んでほしいのですが、趣味で始めた畑仕事の初心者である私は「暴走シート」と聞いて、「どんだけぶっ飛ばすシートか?」と想像するも、正しくは「防草シート」。
雑草の繁殖を防ぐ畝(うね)の間に敷くシートのことでした。
「餃子ニンニク」と聞けば当たり前の組み合わせだろうと聞き流すと、正しくは「行者(ぎょうじゃ)ニンニク」。
※強壮特殊山菜。修験者が荒修行の際に食べて体力を維持し、スタミナをつけた由来にちなんでこの名が付けられたそうです。
また「マルチ」と聞けばもちろん「フィラメント」と二の句を継ぎたくなるけれど、畑にバボラのロングセラー『エクセル』はもちろんなくて、どうやら「多用途に使えるビニール」なのだとか……。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とはよく言ったもので、つい「分かったようなフリ」をしてしまいがちなのだと、身につまされた笑い話でした。
▶「月謝を返せ」
テニスの上達を志す上で、難しい言葉は必要ないし、それを聞いて「満足する人たち」になってしまわないようにする。
それを言って権威づけに使わないようにする。
ボスは言う。
「そういう人たちが世の中にはぎょーさんおるわ」
確かに勘違いしやすいところなのかもしれません。
複雑で難解な理論が、高等だとか、効き目があるように、感じられがちです。
「ボールに集中すればいい」とだけ伝えても、それでは満足しない人たちもたくさんいるでしょう。
それだけで90分のテニスレッスンが終わったら、「月謝を返せ」と迫りたくなる。
そこで「サーキュラー」「プロネーション」「スピネーション」「キネティックチェーン」「ローディング」などの説明を球出しに散りばめながら、残り89分を埋め合わせようとするのかもしれません。
▶ボールに集中するのが難しい?
また「難しい言葉で満足しない」「ボールに集中すればいいだけ」といっても、「簡単に言うけど、ボールに集中するのがそもそも難しいんだよ!」という反論も納得のいくところです。
確かに、テニスはボールに集中すれば簡単だとしても、ボールに集中するのが難しければ、テニスはやっぱり難しいという堂々巡りになってしまいます。
もちろん集中力はその名のとおり「力」ですから、一朝一夕でたくましくなるわけではありません。
こちらでもお伝えしているとおり「逸れては戻す」単純作業を、考える隙を与えず繰り返します。
とはいえこれも七海さんの「世の中にお金が余っている」という程度の説明で、単純作業の繰り返しでしかないのです。
▶「難しい言葉に満足する人たち」
つい私も、テクニカルタームを使ってしまいがちです。
要は、「ボールに集中すればいい」と伝えたいだけ。
そのための具体的なご提案です。
そうすれば体は本能に従い反応し、ボールをコントロールするための情報を記憶して、テニスができるようになります。
本能に従うとは、ボールが飛んで来たら思わず目で追い、手で捕ったり、遮ったり、避けたりする人間に備わる自然と出てくる反応。
テニスのプレーも、「それだけ」です。
ボスの声が聞こえてくる。
「難しい単語を覚えただけで理解した気になると、そこで学びが終わってしまう。そういう人たちが世の中にはぎょーさんおるわ」
難しい単語は、知恵の実ではありません。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
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