隈 健一

気象庁で数値予報開発に携わり、台風予報の精度向上に貢献。2019年に気象研究所長にて退…

隈 健一

気象庁で数値予報開発に携わり、台風予報の精度向上に貢献。2019年に気象研究所長にて退職。JSTのCOI-NEXTのもとでClimCORE(地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点)を東大先端研を拠点として推進中。「こども気象学」(新星出版社)監修。

最近の記事

朝日記事を私なりに解説:平成の夏、実はもっと暑かった 94~02年、アメダス「参考記録」分析

昨日の朝日新聞の朝刊の1面トップにこんな記事がありました。(有料記事なので途中までしかみられない方が少なくないかと思います)https://digital.asahi.com/articles/DA3S15953851.html 1面トップで見出しに「平成の夏、実はもっと暑かった 94~02年、アメダス「参考記録」分析」とあると、なんだ、今よりも平成の前半の方が暑かったのか、と誤解される方もいたかもしれません。 記事の中身には、当時はアメダスについては技術的な問題から1時

    • AI/MLと数値天気予報

      5/13のECMWFのFlorian Pappenburger予報部長のAI/ML予報の講演、そして、JpGU(日本地球惑星科学連合)2024大会の"Data-driven approaches for weather and hydrological predictions"セッションの発表を聞いて、AI/MLと気象予測について感じたことを記録しておきます。あくまでも個人的見解ですが、日本の将来にとっても重要な技術ですので、若いみなさんのこれからの研究のヒントや動機付けに

      • 磁気嵐と地磁気観測

        地磁気の嵐により、低緯度でもオーロラが見えたということで世界でニュースになりました。日本でオーロラが見えるのはロマンを感じますが、一方では、情報通信の発達した現代、磁気嵐が社会に及ぼすリスクが心配であるのも確かです。こうした問題意識から、宇宙天気予報とも呼ばれる情報提供が進められるようになりました。 宇宙天気予報は、気象庁ではなく総務省所管の情報通信研究機構(NICT)の担当です。最初は、気象庁地磁気観測所のニュースが目立っていたのでちょっと気になっていましたが、真打ちのNI

        • 関東での降雪に伴う雷

          再解析データを使って過去の顕著現象事例を調査されている黒良さんが、2月5日の関東南部での雪が降る中での発雷についてnoteで分析されています。 https://note.com/rkurora/n/nfc1aa8152348?sub_rt=share_pb&fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR3UpzJoajfrekq8uhDg_LyvKI83_u4UWkBJmoJXAUJGgTNu9d5OnVPn-_Y_aem_AeFm6K452HFnrs2NM75ygv

        朝日記事を私なりに解説:平成の夏、実はもっと暑かった 94~02年、アメダス「参考記録」分析

          共創の場形成支援プログラム拠点連携シンポジウム2024

          東大先端研が拠点となっているClimCOREというプロジェクトと熊本県立大学が拠点となっている「緑の流域治水」というプロジェクトとの連携シンポジウムを6/20に熊本市で開催します。どなたでも参加できますし、現地参加(熊本県庁)とオンライン参加が可能です。現地参加される方については、11時からの熊本県庁の新防災センターの見学会への参加申し込みも可能です。 球磨川の水害からもう4年になろうとしています。気象庁では線状降水帯の予測精度を高めようとさまざまな取り組みを進めています。

          共創の場形成支援プログラム拠点連携シンポジウム2024

          台風第13号について

          台風第13号、台風から離れた地域で大雨の被害がかなり出てしまいました。福島県いわき市では床上浸水が1000棟を超えたようで、おそらく今年の水害としては、7月の秋田での大雨に次ぐ数字ではないかと思います。被災者のみなさまにはお見舞い申し上げます。 3年前に台風から遠く離れたところでの大雨についてnoteに投稿しているのですが、この1ヶ月で200人近くの方がご覧になられています。気象予報士さんなどが勉強のために読んでいただいているのであれば少しはお役に立ててよかったです。htt

          台風第13号について

          ビジネス教養としての気象学

          昨年、新星出版社からの「こども気象学」出版に監修者として関わりました。この本は、ありがたくも児童福祉文化財としての推薦も今年受けています。 こども向けの本でしたが、大人の読者にも喜んでいただけたような感触もあり、次は大人向けの本かな、と考えていました。その頃、日経BP社からビジネス向けの気象学の本を書いてみませんか、という声がかかり、意を決して書き始めた次第です。 これまでnoteにもいろいろと気象の話を書いてきましたので、これらも材料にしつつ、私の頭の中にあり社会の皆さん

          ビジネス教養としての気象学

          富士山頂の気温から見た今年の寒波

          今回の寒波、記録的と言われていますが、実際のデータで状況をみてみましょう。 まず、積雪の深さの平年比です。暖色系が平年より積雪が多いところ、寒色系が平年より積雪が少ないところとなります。記録的な寒波が来ているときには、全国的に平年より積雪が深くなることが多いのですが、今回は北日本や本州の内陸部など、平年より少ないところが結構あります。 昔から、現場の予報官によく言われていたことに、地上には裏切られるが、高層は嘘をつかない、というのがあります。日々の天気予報での経験からの格

          富士山頂の気温から見た今年の寒波

          台風やハリケーン等で発生する高潮について(2018年台風第21号と2022年ハリケーンイアンを例に)

          1. はじめに台風やハリケーンやサイクロン等による(以下台風等と称します)による高潮災害は、きわめて強い勢力の低気圧が標高の低い沖積平野等で人が居住する地域に上陸することで発生します。これは大雨水害や地震、津波とくらべても頻度が低く、同じ地域であれば100年に1回以下であることが普通です。ですので、高潮災害の教訓を地域で語り継ぐことには限界もあり、海外を含めて他の地域で発生した高潮災害から学ぶ、ということも重要です。とは言え、バングラディシュやミャンマー等でサイクロンの高潮に

          台風やハリケーン等で発生する高潮について(2018年台風第21号と2022年ハリケーンイアンを例に)

          大雨と猛暑の共存とは

          1 はじめに今年の夏は梅雨明けして猛暑になったと思ったら、その後大雨が降ったりで、大雨と猛暑が共存する夏となっています。今週(8月8日現在)は、日本列島の中で、北日本では大雨、東、西日本では猛暑がしばらく続く予報です。猛暑と大雨との共存は、2018年の西日本豪雨時にもありましたし、2004年には、新潟・福島豪雨や福井豪雨といった日本海側の豪雨と同時現象で、関東などの猛暑がありました。 猛暑をもたらす気団に冷たい気団がぶつかることで、前線活動が活発になり大雨をもたらす、あるいは

          大雨と猛暑の共存とは

          モンスーントラフと台風

          1 はじめに今年、7月末日に台風第6号が発生して7月までの台風の発生数は6個、平年で7.9個なので、ここまでやや少なめに推移しているということになります。気象庁には1951年から月毎の台風の発生数の記録があり、https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/generation/generation.html、 それをグラフ化してみると図1のようになります。 棒グラフは発生月により色分けされていますが、全体の長さ

          モンスーントラフと台風

          こども気象学

          はじめに ここのところ、noteへの投稿ができていません。一つには本業の展開が進んできていて、そちらで忙しくなったというのがあるのですが、もう一つは、こども向け気象学の本の監修作業に休日は追われていた、というのがあります。新星出版社さんからの「こども気象学」という本が7月15日に発売予定となっています。 監修だというので、出来上がった原稿から専門家として文章を修正するくらいの作業かと甘くみていました。はい、実際甘かったのですが、逆に、一般の方々の気象への理解度を知る上で、勉

          こども気象学

          伊勢湾台風以降の主な気象災害

          1 はじめに 以前に、江戸時代以降の我が国の主な自然災害を筆者の独断と偏見で整理したものを伊勢湾台風までとそれ以降について「過去の自然災害から学ぶ」として書きました。。このうち、伊勢湾台風以降の気象災害について、もう一度整理し直してみました。「過去を識り、今を理解し、未来を共に創る」、という趣旨のプロジェクトを推進しているので、気象災害についてもう少し系統的に過去の災害を整理しておこうというのが第一の目的です。 気象庁からは「気象庁が名称を定めた気象・地震・火山現象一覧」が

          伊勢湾台風以降の主な気象災害

          藤田哲也博士と九州

          はじめに 福岡管区気象台から3月24日に「藤田哲也博士の講演動画の公開について」お知らせが出ています。次段落はそこからの引用です。 藤田哲也博士(1920~1998 年)は福岡県北九州市出身の著名な気象学者で、1953 年にアメリカに渡られた後、竜巻の強度に関する藤田スケール(F スケール)の考案やダウンバーストの発見などの業績で世界的に知られています。このほど、藤田哲也博士が 1993 年 12 月 9 日に福岡管区気象台にて職員向けに行われた講演の撮影映像が福岡管区気象

          藤田哲也博士と九州

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その3)  日本は世界一を目指せるのか

          1 はじめに  (その1)で米国、(その2)で欧州について、気象シミュレーションモデル開発の世界の最先端の状況を述べました。ここからは日本について述べることになりますが、自分も当事者の1人であり、どこまで客観的に記述できるかは保証の限りではないことをあらかじめお断りしておきます。なお、その1とその2では、ここで述べることの背景等に触れていますので、そちらを読まれていない方は一読されることをお勧めします。 2 私から見た日本の状況(前世紀を中心に)    1980年代に

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その3)  日本は世界一を目指せるのか

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その2)  なぜ欧州は気象シミュレーションで世界一となったのか?

          はじめにその1では、真鍋先生のノーベル賞が生まれた背景に加えて、それでも米国の気象シミュレーション技術が必ずしも世界一ではないことの背景を説明してみました。前回の説明には、欧州と比較してという部分も少なからずあり、今回は欧州がなぜ世界一となっているのか、という分析をすることで、さらに考察を深めることにします。 気象条件の違いと官民の関係米国と欧州と気象状況が異なることから、気象への向き合い方が違うというのがまずあります。米国には、ハリケーンがあり、トルネードがあり、猛吹雪を

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その2)  なぜ欧州は気象シミュレーションで世界一となったのか?