隈 健一

気象庁で数値予報開発に携わり、台風予報の精度向上に貢献。2019年に気象研究所長にて退…

隈 健一

気象庁で数値予報開発に携わり、台風予報の精度向上に貢献。2019年に気象研究所長にて退職。JSTのCOI-NEXTのもとでClimCORE(地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点)を東大先端研を拠点として推進中。「こども気象学」(新星出版社)監修。

最近の記事

台風第13号について

台風第13号、台風から離れた地域で大雨の被害がかなり出てしまいました。福島県いわき市では床上浸水が1000棟を超えたようで、おそらく今年の水害としては、7月の秋田での大雨に次ぐ数字ではないかと思います。被災者のみなさまにはお見舞い申し上げます。 3年前に台風から遠く離れたところでの大雨についてnoteに投稿しているのですが、この1ヶ月で200人近くの方がご覧になられています。気象予報士さんなどが勉強のために読んでいただいているのであれば少しはお役に立ててよかったです。htt

    • ビジネス教養としての気象学

      昨年、新星出版社からの「こども気象学」出版に監修者として関わりました。この本は、ありがたくも児童福祉文化財としての推薦も今年受けています。 こども向けの本でしたが、大人の読者にも喜んでいただけたような感触もあり、次は大人向けの本かな、と考えていました。その頃、日経BP社からビジネス向けの気象学の本を書いてみませんか、という声がかかり、意を決して書き始めた次第です。 これまでnoteにもいろいろと気象の話を書いてきましたので、これらも材料にしつつ、私の頭の中にあり社会の皆さん

      • 富士山頂の気温から見た今年の寒波

        今回の寒波、記録的と言われていますが、実際のデータで状況をみてみましょう。 まず、積雪の深さの平年比です。暖色系が平年より積雪が多いところ、寒色系が平年より積雪が少ないところとなります。記録的な寒波が来ているときには、全国的に平年より積雪が深くなることが多いのですが、今回は北日本や本州の内陸部など、平年より少ないところが結構あります。 昔から、現場の予報官によく言われていたことに、地上には裏切られるが、高層は嘘をつかない、というのがあります。日々の天気予報での経験からの格

        • 台風やハリケーン等で発生する高潮について(2018年台風第21号と2022年ハリケーンイアンを例に)

          1. はじめに台風やハリケーンやサイクロン等による(以下台風等と称します)による高潮災害は、きわめて強い勢力の低気圧が標高の低い沖積平野等で人が居住する地域に上陸することで発生します。これは大雨水害や地震、津波とくらべても頻度が低く、同じ地域であれば100年に1回以下であることが普通です。ですので、高潮災害の教訓を地域で語り継ぐことには限界もあり、海外を含めて他の地域で発生した高潮災害から学ぶ、ということも重要です。とは言え、バングラディシュやミャンマー等でサイクロンの高潮に

        台風第13号について

          大雨と猛暑の共存とは

          1 はじめに今年の夏は梅雨明けして猛暑になったと思ったら、その後大雨が降ったりで、大雨と猛暑が共存する夏となっています。今週(8月8日現在)は、日本列島の中で、北日本では大雨、東、西日本では猛暑がしばらく続く予報です。猛暑と大雨との共存は、2018年の西日本豪雨時にもありましたし、2004年には、新潟・福島豪雨や福井豪雨といった日本海側の豪雨と同時現象で、関東などの猛暑がありました。 猛暑をもたらす気団に冷たい気団がぶつかることで、前線活動が活発になり大雨をもたらす、あるいは

          大雨と猛暑の共存とは

          モンスーントラフと台風

          1 はじめに今年、7月末日に台風第6号が発生して7月までの台風の発生数は6個、平年で7.9個なので、ここまでやや少なめに推移しているということになります。気象庁には1951年から月毎の台風の発生数の記録があり、https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/generation/generation.html、 それをグラフ化してみると図1のようになります。 棒グラフは発生月により色分けされていますが、全体の長さ

          モンスーントラフと台風

          こども気象学

          はじめに ここのところ、noteへの投稿ができていません。一つには本業の展開が進んできていて、そちらで忙しくなったというのがあるのですが、もう一つは、こども向け気象学の本の監修作業に休日は追われていた、というのがあります。新星出版社さんからの「こども気象学」という本が7月15日に発売予定となっています。 監修だというので、出来上がった原稿から専門家として文章を修正するくらいの作業かと甘くみていました。はい、実際甘かったのですが、逆に、一般の方々の気象への理解度を知る上で、勉

          こども気象学

          伊勢湾台風以降の主な気象災害

          1 はじめに 以前に、江戸時代以降の我が国の主な自然災害を筆者の独断と偏見で整理したものを伊勢湾台風までとそれ以降について「過去の自然災害から学ぶ」として書きました。。このうち、伊勢湾台風以降の気象災害について、もう一度整理し直してみました。「過去を識り、今を理解し、未来を共に創る」、という趣旨のプロジェクトを推進しているので、気象災害についてもう少し系統的に過去の災害を整理しておこうというのが第一の目的です。 気象庁からは「気象庁が名称を定めた気象・地震・火山現象一覧」が

          伊勢湾台風以降の主な気象災害

          藤田哲也博士と九州

          はじめに 福岡管区気象台から3月24日に「藤田哲也博士の講演動画の公開について」お知らせが出ています。次段落はそこからの引用です。 藤田哲也博士(1920~1998 年)は福岡県北九州市出身の著名な気象学者で、1953 年にアメリカに渡られた後、竜巻の強度に関する藤田スケール(F スケール)の考案やダウンバーストの発見などの業績で世界的に知られています。このほど、藤田哲也博士が 1993 年 12 月 9 日に福岡管区気象台にて職員向けに行われた講演の撮影映像が福岡管区気象

          藤田哲也博士と九州

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その3)  日本は世界一を目指せるのか

          1 はじめに  (その1)で米国、(その2)で欧州について、気象シミュレーションモデル開発の世界の最先端の状況を述べました。ここからは日本について述べることになりますが、自分も当事者の1人であり、どこまで客観的に記述できるかは保証の限りではないことをあらかじめお断りしておきます。なお、その1とその2では、ここで述べることの背景等に触れていますので、そちらを読まれていない方は一読されることをお勧めします。 2 私から見た日本の状況(前世紀を中心に)    1980年代に

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その3)  日本は世界一を目指せるのか

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その2)  なぜ欧州は気象シミュレーションで世界一となったのか?

          はじめにその1では、真鍋先生のノーベル賞が生まれた背景に加えて、それでも米国の気象シミュレーション技術が必ずしも世界一ではないことの背景を説明してみました。前回の説明には、欧州と比較してという部分も少なからずあり、今回は欧州がなぜ世界一となっているのか、という分析をすることで、さらに考察を深めることにします。 気象条件の違いと官民の関係米国と欧州と気象状況が異なることから、気象への向き合い方が違うというのがまずあります。米国には、ハリケーンがあり、トルネードがあり、猛吹雪を

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その2)  なぜ欧州は気象シミュレーションで世界一となったのか?

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その1) 導入およびアメリカの状況

          はじめに真鍋先生のノーベル物理学賞の受賞をきっかけにスーパーコンピュータによる気象シミュレーションという存在が身近になったのではないでしょうか。一方、日本からの頭脳流出という切り口でも報道されています。以前にも述べたとおり、真鍋先生以外にも昭和30年代前後に日本から米国に渡った気象学者は少なくなく、世界の気象研究をリードしていた時代がありました。では、現在、アメリカが気象シミュレーション技術で世界一であるかというと、少なくとも数値天気予報の世界では欧州中期予報センター(ECM

          日本の気象シミュレーション技術の過去、現在、そして将来 (その1) 導入およびアメリカの状況

          朝ドラと大河ドラマから、気象業務の原点を考える

          はじめに「おかえりモネ」では、気象と水産業・船舶とのつながりがストーリーの中で描かれていますが、これらは気象サービスの原点でもあります。人類が天気図を書いて天気予報をはじめるきっかけはクリミア戦争のフランス軍艦の遭難事故でした。日本で気象観測をして天気図を書いて予報する、という業務が始まったのも暴風警報の発表のためであり、この暴風警報の主たる対象は船舶でした。初代、2代目の中央気象台長が、榎本軍のもと箱館戦争を戦い、そこで暴風被害を受けた元幕臣であったことは以前に書きました。

          朝ドラと大河ドラマから、気象業務の原点を考える

          梅雨末期がお盆に来た (検証)

          はじめに「お盆時期に梅雨末期」という標題で過去のお盆時期の悪天と例にとって、このようなことは過去にも何回かあり、2014年、2003年、さらには1993年というのがあり、このうち、2014年と1993年にはそれぞれ広島の土砂災害、鹿児島の8.6大水害といった顕著な豪雨災害が発生しているということも記述しました。やはり、今年も広範囲で大雨による災害が発生してしまいました。今年の8月中旬は結局、過去のこれらの年と比べてどうだったのか、ということを比較してみます。 今年の8月中旬

          梅雨末期がお盆に来た (検証)

          福徳岡ノ場火山の噴火と気象

          はじめに豪雨とコロナでほとんど報道されていませんが、福徳岡ノ場の海底火山噴火の規模がすごいです。日本の火山噴火でこれほどの規模のものは、最近ほとんどなかったように思います。火山の噴火自体は固体地球の現象ですが、噴火上空に放出された火山灰が風で流されて社会的な影響を与える、あるいはさらに長期間成層圏に火山灰がとどまって太陽放射を遮るなどで気候にも影響を及ぼす、といった形で気象とも深い関係があります。そんな観点も含めてまとめておきます。 火山灰の状況ひまわりの赤外画像ですが、黄

          福徳岡ノ場火山の噴火と気象

          お盆時期に梅雨末期

          はじめに変な夏です、と言っても、コロナやオリパラの話ではありません。今年の夏の天候が、ずっと変な状況で推移してきています。7月は、札幌で1877年の観測開始以来もっとも暑い7月になるなど、北海道を中心に北日本で記録的な暑さとなりました。せっかく涼しいはずの札幌に移したオリンピックのマラソンや競歩が過酷な暑さの中で行われたのは記憶に新しいでしょう。世界的にも、各地で猛暑で山火事が頻発したり、洪水とは無縁そうなドイツ、ベルギーで大洪水が発生したり、中国では1時間200ミリという信

          お盆時期に梅雨末期