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富士山頂の気温から見た今年の寒波

今回の寒波、記録的と言われていますが、実際のデータで状況をみてみましょう。

まず、積雪の深さの平年比です。暖色系が平年より積雪が多いところ、寒色系が平年より積雪が少ないところとなります。記録的な寒波が来ているときには、全国的に平年より積雪が深くなることが多いのですが、今回は北日本や本州の内陸部など、平年より少ないところが結構あります。

2月1日現在の積雪の深さ(平年比) 気象庁HPより

昔から、現場の予報官によく言われていたことに、地上には裏切られるが、高層は嘘をつかない、というのがあります。日々の天気予報での経験からの格言ですが、温暖化関連でも、地上はヒートアイランドや観測環境の変化等地球温暖化以外の要因もありますが上空の気温は地球の基礎体温をしっかり伝えてくれます。上空の気温としては、代表的な観測としてラジオゾンデがありますが、今回は比較的長期間の記録がある富士山頂の気温を解析してみます。まず、1932年からの統計での歴代の最低気温のランキングです。
-38.0(1981/2/27)
-37.4(1981/2/26)
-37.3(1997/1/22)
-36.1(2023/1/25)
-35.6(1999/2/4)
-35.3(1936/1/31)
-35.2(1977/2/17)
-35.0(1943/1/17)
-34.9(1936/1/17)
-34.7(1984/2/7)

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=49&block_no=47639&year=&month=&day=&view=より

こちらを見ると、1月25日の最低気温は1932年からの統計で歴代4位です。1位と2位の記録は昭和56年豪雪のときの1日違いの記録ですので、寒波の記録としては歴代3位といってもよいかもしれません。この記録には有名な昭和38年豪雪(1953年)の寒波がベスト10にも入っていません。そこで、富士山の日々の最低気温を今年と1953年1月で比較してみました。平年値も合わせて表示です。38年豪雪時に比べて1月の最後の週だけは何日か気温の低い日があり、特に1月25日の最低気温は38豪雪時の1月の最低気温よりも低いのですが、その他はすべて38豪雪時が低くなっています。今年は1月中旬に平年値よりもかなり高い気温が続いていることもわかります。

1963年と2023年1月の富士山最低気温 データは気象庁HPより取得

次の図は、日本の各地域を平均した850hPa(上空約1500m付近)の気温の平年からの偏差です。縦の太線より左側は今年1月の実況で、そこから右側はアンサンブル予報となります。ここでは左側の実況だけをご覧ください。中旬の高温の方が平年との差が大きいことがわかります。今年の1月は気温の高い方も低い方も偏差が大きく、1ヶ月平均では平年並みになりそうです。昨年の夏もこのような時期がありました。

気象庁HP 2週間予報時系列より

このように1月中旬の高温の方が平年偏差としては記録的だったのですが、1月の下旬は、平年でももっとも気温が低い時期なので、そこに強い寒波が重なることで、年間記録的な低温を観測したという面もありそうです。もちろん、実際の気温も低いので、それに伴うさまざまなリスクも顕在化しました。

それにしても富士山頂の気温をグラフにしてみて、38年豪雪の持続的な寒波の居座りは改めて強い印象を持ちます。ドカ雪がなくても、毎日ある程度の降雪があり、かつ暖かい日がないので、雪が溶けることもなく、積雪がどんどん増えていきました。その結果、福井市で213cm、金沢市で181cm、富山市で186cmという都市部でもものすごい積雪になったということになります。

とはいえ、最近の短時間に集中的に降るゲリラ的な降雪でのさまざまな事故や交通機関への影響は大きいので、心の備えと共に、実況をよく確認して行動を判断されることが重要であることを改めて認識した今年の1月です。

実況と予測を合わせた1/29-2/2までの5日平均の500hPa天気図と偏差図 気象庁HPより

最後に、北半球の500hPa天気図を5日平均で見てみましょう。極東とアメリカ東部に大きな低圧部があり負偏差も大きくなっています。欧州にも弱い負偏差があり、東西波数2−3が卓越している様子がわかります。米国東海岸と日本に寒波が同時にやってくるよくあるパターンですね。
地球温暖化が進む中で、こんな記録的な寒波が来るのか、という疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょうが、まずは事実関係をここにお示ししました。温暖化が進むことで、平年からの偏差等の変動幅が大きくなるのかどうか、さまざまな研究がなされていることと思います。温暖化と夏の猛暑日の増加は、ベースとなる気温が上がることで説明しやすいのですが、温暖化と冬の寒波の関係は、まだまだ研究が必要かなと思います。

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