見出し画像

朝日記事を私なりに解説:平成の夏、実はもっと暑かった 94~02年、アメダス「参考記録」分析

昨日の朝日新聞の朝刊の1面トップにこんな記事がありました。(有料記事なので途中までしかみられない方が少なくないかと思います)https://digital.asahi.com/articles/DA3S15953851.html

1面トップで見出しに「平成の夏、実はもっと暑かった 94~02年、アメダス「参考記録」分析」とあると、なんだ、今よりも平成の前半の方が暑かったのか、と誤解される方もいたかもしれません。

記事の中身には、当時はアメダスについては技術的な問題から1時間ごとの気温の最高値を最高気温の公式記録としていました、独自の調査でアメダスの10秒ごとの気温データを解析して最高気温を求めてみたら、過去の最高気温がもっと高くなります。と説明があり、平成前半の夏は、気象庁の公式記録よりも(実はもっと)最高気温が高かったのですよ、という意味です。決して、当時は今よりも「実はもっと」暑かったという意味ではありません。

地上付近の気温は、日射や風等により、1時間の間でも細かく変動します。1時間毎の値よりも10秒毎の値の方が高い気温があるのは当然のことなのです。

観測史上1位といった記録が気温や風、降水などでしばしば報道されます。これはメディアとしても史上1位、というキーワードを使いたい、というのがあり、確かに防災上も危機感を伝えるという意味ではそれが有効なのですが、この記事からも示唆されるように、受け取る側としてはいくつか注意点があります。

まず言うまでもないことですが、観測を開始してからの記録なので、気象台の観測であれば、19世紀末から100年以上の記録がありますが、アメダスでは長くて1970年代から50年弱の記録しかありません。どれくらいの観測統計期間での順位なのか、それがその現象の特異性を知る上でも重要です。

さらに、この記事のとおり、観測手法、観測統計手法自体が時代と共に進化してきているので、機械的に過去の観測値と比較する際には注意が必要な場合があります。台風が来ると、最大瞬間風速が第一位の記録と報道されますが、アメダス地点での最大瞬間風速の観測は、2008年から順次開始なので、まだ観測の歴史は20年もありません。

過去の観測データを見る上での留意点は気象庁から下記に整理されています。

今回の最高気温についての留意点もここに記載があります。風速については、1924年まで使われていたロビンソン風速計が過大となっていたことから、それを補正しないと過去の記録として使えない、というのもありました。

今起きていることを社会に伝えるためには、過去の値と比べてどうなのか、ということはとても重要なのですが、それを支えるためにはさまざまな地味かつ継続的な取り組みが必要です。特に、観測というものはなるべく同じ品質、統計手法で長期間継続することが重要、ということもここでお伝えしておきます。以前に述べた地磁気観測と同様、とても地味な仕事なのですが、社会的には重要な仕事であることを理解いただければと思います。(地味であるが故に、予算を確保するのに苦労し続けている部分でもあります)

私自身、過去の観測データを使って最新の数値天気予報の仕組みで解析を行う再解析と呼ばれるプロジェクトに関わっています。

過去の気象を再現するためにとても有効は手法なのですが、観測データがなければ過去の日々の気象は解析できません。そして、タイムマシーンなどあれば別ですが、過去の気象を新たに観測することはできません。観測、という地味な仕事がいかに重要なのか、そして埋もれてしまった過去の観測データを復元すること(データレスキュー)が重要であること、をあらためて皆さんと認識共有することで締め括りたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?