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授業エージェンシーで授業を省察する

2030年の教育

 OECDが発表した2030年に向けた学習枠組みにおいて、エージェンシーという概念が注目されている。エージェンシーとは、主体的に考え、行動して、問題解決に取り組み、責任をもって社会変革を実現しようとする能力や態度を指している。主体性や思考力、行動力など、切り分けられた個別の能力ではなく、自らよりよい社会を実現する主体者として必要な資質を総体として捉えたものである。このような資質はAIでは代替不可能だろう。
 エージェンシーには、一人一人に求められる生徒エージェンシーと、所属する集団、組織、コミュニティーなど、環境や関係性に求められる共同エージェンシーの二つがある。これら二つのエージェンシーを理解するためのポイントを4つにまとめている。

キーポイント

①     エージェンシーとは、自分の人生および周りの世界に対してよい方向 
 に影響を与える能力や意志を持つことを示している。
②    エージェンシーを最大限に発揮するために生徒は基礎的なスキルを身に
 つける必要がある。
③    生徒エージェンシーの概念は文化に応じて多様であり、また生涯にわた
 って発達していく。
④    共同エージェンシーとは、生徒が、共有された目標に向かって邁進でき
 るように支援する、保護者との、教師との、コミュニティとの、そして生 
 徒同士との、双方向的な互いに支え合う関係として定義される。

 これからの教育には、上記のようなエージェンシーの発達を効果的にもたらすような、学校、教室、授業の実現が求められる。

共同エージェンシーの段階

 OECDは、主体的かつ責任をもって社会変革に参加するような若者が育つ環境を9段階分け、共同エージェンシーの段階として示している。
⓪ 沈黙
①    操り
②    お飾り
③    形式主義・形だけの平等
④    若者に特定の役割が与えられ、伝えられるだけ
⑤    生徒からの意見を基に大人が導く
⑥    意思決定を大人・若者で共有しながら、大人が導く
⑦    若者が主導し、方向性を定める
⑧    若者が主導し、大人とともに意思決定を共有する

 OECDの報告には、それぞれの段階に具体的な説明が書き加えられているが、ここでは紹介しない。
 自分の学校(あるいは職員室)や学級、部活動、生徒会などに、共同エージェンシーの段階を当てはめてみるとおもしろい。「子どもの主体性を尊重して…」と口では言っていても、実際はほとんどの決定を教師がコントロールしていることが自覚できるだろう。
 共同エージェンシーの段階を、授業にも当てはめてみることができるはずだ。そこで、授業エージェンシーというものを考えてみた。試作段階なので、今後の修正もありうるが、現時点でのものを紹介したい。

授業エージェンシーの段階

0 沈黙

・教師は子どもが自ら学ぶ力を持っていることを信じていない。
・子どもは教師が知的発見を与えてくれることに期待していない。
・教師は子どもが黙って聞いていれば責任をお果たしたと考えている。
・子どもは黙って教師の話を聞くことで義務を果たしたと考えている。

1 操り・偽装

・教師は子どもに正解を答えさせるためだけに発問する。
・子どもは正解を答えることで教師の評価を得ようとする。
・子どもは教師の指示通りに行動することで学んでいるふりをする。

2 予定調和・ペーパーテスト優先

・    教師は発問によって多様な意見を引き出そうとしているように見えるが、結論は教師が既に予定しているものに過ぎない。
・    計画通りのゴールとペーパーテストの結果が授業の目的になっている。
・    子どもは新しい発見よりも、明示され、限定された知識を得ることに満足し、ペーパーテストの点だけが自分の学びの評価であると考えている。

3 見せかけの協同・見せかけの対話

・ペアやグループ活動などで協同的に学んでいるかのように見えているが、正解の確認、知っていることの共有、時間稼ぎのおしゃべりに過ぎない。
・活発に話し合っているように見えているが、誰か一人が説明したり意見をまとめたりし、それ以外の子どもは聞いているだけに過ぎない。

4 浅い知識にとどまる学び

・教師は知らないこと・分からないことに向かって協同的に学ばせようとしているが、結果的に浅い知識(技能)を獲得させる授業にとどまっている。
・子どもは学びがいのある学びに期待しているが、結果的に浅い知識(技能)の獲得で満足している。

5 発見的で学びがいのある学び

・教師は知的発見が生まれる授業をつくり出そうと、本物の対象と出会わせ、誰にとっても学びがいのある学びに挑戦している。
・子どもは上質な知的発見に学びがいを感じ、また教師に対してもそんな授業を期待している。

6 探究的で協同的な学び

・教師は予定調和の正解ではなく、未知に向かう探究に価値をおいて授業をデザインにしている。
・子どもは教師の与えた課題の解決に向かって夢中になり、粘り強く考え、他者と協同して探究的に学んでいる。
・グループなどでの他者との対話は、知っていることの確認や共有ではなく、未知に向かう探索的な言葉の交流になっている。

7 自ら探究する学び

・教師は子ども個々が問いを持つように働きかけ、その問いを他者との協同によって深く探究できるように授業をデザインしている。
・子どもは自分の問いを探究することを楽しみ、ゴールにたどり着くことよりも自ら問いを連続させていくことに価値を感じている。
・教師もまた子どもと一緒に考える共同探究者となっている。

8 ともに創る学び

・教師は、よりよい学びの創造を目指して子どもと意見を出し合い、授業をデザインしている。
・子どもは、教室・教科など様々な境界を越えて学ぼうとし、他者の援助を受けながら自らの学びを創造しようとしている、

 いかがだろうか。ここで示した授業エージェンシーの段階は、校種(または学年)、教科の特性によって変わることもあるだろう。それでも、自分の実践を振り返るきっかけを与えくれるはずだ。また、校内研修などで仲間と議論するための資料として活用することもできると思う。

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