【短編小説】「ベッドシェア」あとがき
皆さんどうも、灰かぶりの猫です。
寝室を舞台に繰り広げられる世界的な物語と言えば、語り手のシェヘラザードが毎夜、自身の余命と引き換えに、シャフリヤール王に物語る『千夜一夜物語』ですね。
今回の小説『ベッドシェア』は、千夜には遥か遠く及びませんが、寝室のベッドを舞台に、名前のない「わたし」を語り手とした、幾夜かを物語としました。
――わたしが眠るベッドには、常に知らない誰かが眠っている。
よく考えたら、ホラーにも等しい、恐ろしい事この上ない設定ですが、「シェア」という価値観がこれだけ広まっている世の中では、決してあり得ない話ではないような気もします。
今回の登場人物は、語り手の「わたし」を含め、自分では思う通りにならない、いわば〝ままならなさ〟とでも言うものを、等しく抱え持っているようです。「わたし」が何かと厭う他者は、その最たるものですが、実は自分自身の中にも、ままならない部分はたくさんあります。
出自や持って生まれた容姿はもちろん、性格、病、才能、運、等々(もちろん例外もありますが)。中には、どうしても折り合いの付かないものもあり、時に自己嫌悪を呼び、絶望の淵に立たされることもあると思います。
ちなみに、免疫学には、自己と非自己という言葉が出てきますが、まさに自己(自分)と非自己(他者)の葛藤が現れるのが、今回の小説におけるベッドという特殊な場所でした。
最後に上記の葛藤について、最近読んだ本の中から示唆的な文章を見つけたので、ここで引用しておきます。
さて、世界が変化するとき、すなわち君の世界がこれまでの自分とは異質なものによって浸食されるとき、君と世界とは戦闘状態に入る。その際、世界は必ず悪として君の前に現れるだろう。世界が悪として現れるといっても、それは世界が本来的に悪であるからでも、君が本来的に善であるからでもない。理由はただ、世界が君と対立するかたちで立ち現れることによる。世界がどのようであろうとも、また君がどのようであろうとも、君の前で世界は悪として現れるほかない。
『群像』2024年3月号 吉川浩満「特別な一冊」より
なんだかここに、私たちが抱える〝ままならなさ〟の根源があるような気がします。
語り手の「わたし」は、今までずっと「悪」だと思っていた他者=世界に近づいたことで、ほんの少しだけでも、自身を変えることができたでしょうか。そうだと、良いですね。
さて、これまでに多くの方からのスキ、フォローを頂きました。正直、驚いています。ですが、今まで縁もゆかりもなかった一人一人に、とても小さな物語が届いていると思うと、作者としてこれほど嬉しいことはありません。まだまだ、つたないところがあると思いますが、これからも精進いたします。すでに次回作に取り組んでおりますので、またの機会に、お会いできることを楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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