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春は遠き夢の果てに

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かつて存在したという、夢のように美しい梅林を求めて、美佳はその町を訪れる…。 花々に彩られた京都を舞台に織りなされる、不器用で優しい人々の物語。
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#小説

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(一)

  第一部 逢谷絶勝      一 「それはね、ほんまに、夢を見てるみたいに綺麗な風景や…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(二)

     二  さっきまで手を繋いでいたはずなのに、採集場に気を取られている少しの間に、…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(三)

     三  山城大谷駅を過ぎ、踏切りを渡って西方に進むと、ほどなく道沿いに木造の酒蔵…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(四)

     四  梅祭りの会場を後にし、軽くブレーキをかけながらエメラルドグリーンのママチ…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(五)

     五  3月18日金曜日。雲ひとつない蒼穹が頭上にひろがっている。  先週まで長…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(六)

     六  梅林の東際、昔の山際のルートを、梅祭り会場方面へ向かって南下する。  航…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(七)

     七  天満宮からは車に乗って移動。旧家が多い家並を抜けて、田んぼわきの小道を進み、公園横から竹やぶに分け入った辺りで車は止まる。 「いくつかルートはあるんですけれど、ここからが一番登りやすいんで」車を降りながら健吾が言う。 「昔の観光ルートとしては、今の梅祭りの会場辺りから、山づたいに天山に至る道もあったみたいなんですけどね」 「あ、お地蔵さま!」声を上げると、静枝が道端の小さな祠にてくてく歩み寄る。 「このお地蔵さま、覚えてます。ここいらの人は、お山に登る前にご

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(八)

     八  なだらかな斜面を歩いてゆく。  山の端に茂る樹木以外、視界のほとんどが梅…

春は遠き夢の果てに 逢谷絶勝(九)

     九  放心するように突っ立って、紅色の夕空を見るともなく見ている。大任を無事果…

春は遠き夢の果てに (一)

    第二部 春は遠き夢の果てに      一  疎水沿いに植えられた桜並木の下を、優…

春は遠き夢の果てに (二)

     二 「それにしてもさあ、ゆきぃ、いきなり人に飛びかかるクセ、たいがいにせんとあ…

春は遠き夢の果てに (三)

     三  木製のベンチに腰かけて、小川の流れを見るともなく見下ろしている。  少し…

春は遠き夢の果てに (四)

    四 「初めて逢った時のことな、こうも言うててん『ゆきちゃん、ちょうちょのおにいち…

春は遠き夢の果てに (五)

     五  すれ違い困難な道幅が続き、合っているのか不安になるくらい、長くて薄暗い峠道を抜けると、眼下に一気に展望が開けた。 「うわあ……。ここ、すごいねえ……」思わずひとりごちる健吾は、ビッツのスピードを落として景色を見遣る。  ほとんど一望できる盆地に田畑が広がり、点在する四十件ほどの民家の多くは萱葺き屋根のままであり、“日本の原風景”という言葉だけでは括れない痛いくらいの郷愁が、胸裡に満ちてくる。  眼を惹くのは、集落の中ほどを流れる川べりに植えられた桜並木で、淡