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SLIMって結局何がスゴいの?JAXAベンチャーが日本一わかりやすく解説します

2024年1月20日、難局続きの日本に久々の明るいニュースとして駆け巡った、JAXAの「小型月着陸実証機(SLIM)の月面着陸成功」のニュース。更に1ヶ月後には「ほぼ不可能」と言われていた休眠状態からの復活を果たし、宇宙界隈を驚かせました。

とはいえ、宇宙と無関係の場所に行くと「そういえばニュースで見た」「あれってつまり何がスゴいの?」などなど、その偉業にピンと来ない人も少なくありません。

そこで今回の記事では、宇宙を愛する天地人エンジニアがSLIMの偉業を解説。記事の後半では、SLIM観測が更に楽しくなる「天地人コンパス MOON」の使い方をご紹介しますので、宇宙好きの方も是非「天地人コンパスMOON」を触って遊んでみてください!

株式会社天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

話を聞いたメンバー

庄 晋太郎(しょう しんたろう):衛星画像解析エンジニア
京都大学で非破壊検査技術を専攻した後、新卒で自動車メーカーに就職。宇宙が好きすぎて天地人へ転職。エンジニアとして光学・SAR・気象衛星など様々な衛星データの解析に関わる。

蓙谷 香乃(ござたに かの):広報
上智大学でフランス語を専攻後、メディア企業へ就職。天地人に入社したばかりで宇宙の知識はほぼゼロ。


38万km先の月に、誤差55mで着陸。そして、マイナス100度の夜から復活!


蓙谷:庄さん、今日はよろしくお願いします! さっそくですが、今回のSLIMの着陸のすごいポイントって何なんでしょう? 最近は、イーロン・マスク率いる「スペースX」をはじめとする民間企業も衛星やロケットをどんどん打ち上げてますし、技術の進歩のおかげでハードルが低くなっている印象だったんですが……。

庄:そのようなイメージを持っている人も少なくないかもしれないですが、月面着陸はまだまだ難易度が高いです。今回のSLIMのミッションを含めて、2013年以降11回の月面着陸ミッションが行われましたが、成功率はわずか45%です。

庄:そもそも、地球から月がどのくらい離れてるかはご存知ですか?

蓙谷:検討もつきません!

庄:途方もない距離で、なんと38万kmです。38万km離れた場所まで、約5ヶ月もの時間をかけて、燃料の補給もなく着陸するんです。

蓙谷:5ヶ月も飛びっぱなしなんですか?! 技術すごいですね…。

庄:そして、なんと言っても今回のSLIMがスゴいのは、着陸が「ピンポイント」だったところ。過去に旧ソ連、米国、中国、インドが達成してきた月面着陸は「降りやすいところに降りる」という運用で、目標地点から数キロ〜数十キロ離れた場所に着陸してきたんです。

蓙谷 : これまでは、航路設定のために目標地点は一応設けるものの、あくまで目印に過ぎず、着陸できれば万々歳。場所はあんまり気にしないというか、それどころじゃないって感じだったんですかね。

庄 : そんな感じです。しかし、今後、月や火星まで足を伸ばして研究成果を得るためには、「降りたいところに降りる」技術の確立が重要だったわけです。

蓙谷 : なるほど。火星移住計画なんかもよく聞くようになってますもんね。ただ着陸するだけでなく、着陸後の研究を見据えてポイントを選ばなければならないと。

庄 : そうした背景で、今回のミッションでは目標地点からの誤差はたったの55mという非常に高精度な着陸が成し遂げられました。

蓙谷:38万km先からやってきたモノが誤差55mで着陸するの、ヤバいですね……。やっとその凄まじさが理解できました!

庄:この成功に大きく寄与している技術が「画像照合航法」と「​​航法誘導制御」です。このあたりはTenchijin Tech Blogで詳しく解説してるので、是非読んでみてください。

蓙谷:直近では、過酷な月の夜を越えた再起動も大きなニュースになっていましたね。月では昼夜の寒暖差が200度もあるなんて、初めて知りました。そんな過酷な環境からの復活なんて、超感動ですよ。

庄:宇宙の専門知識がない人にとって月は、何年も前に有人着陸しているし、探査も何度も行っているので、簡単に調査できるイメージが強いかもしれません。でも、今回のSLIMも目標はあくまで「ピンポイント着陸」であって、越夜のための設計はされていないんですよ。

蓙谷:冷静に考えて、寒暖差が200度あっても動く機械ってスゴすぎますよね。去年の夏、海辺でiPhoneがめちゃくちゃ発熱して、故障しかけたことを思い出しました。調べてみたらiPhoneの動作環境条件は0° ~ 35℃とのこと。普通の機械にとっては35℃の寒暖差すら大きな負荷なんだから、200℃の寒暖差なんてどれほど高度な技術が求められることか。

SLIMの偉業は、背景知識を入れないときちんと理解できないですね。庄さんのおかげでよくわかりました。ありがとうございます!

天地人コンパスMOONでSLIMが見た景色を眺めてみよう


蓙谷:さて、天地人で月と言えば、月の土地分析ができる土地評価エンジン「天地人コンパス MOON」ですね。MOONを使って、SLIMに関連する何かを見ることはできますか?

庄:SLIMの着陸目標地点「SHIOLIクレーター」の面積を計測したり、断面図を作成することができます。

天地人コンパス MOONの操作画面

まずは、画面左上の「Marker Tool」のボタンを押して、月の上の適当な位置にピンを立てます。ピンをクリックすると、Xでシェアするコマンドが出ます。そのボタンを押すと、X上で月の緯度経度を指定したURLが発行されます。

庄:二行目にある「lng=-12.791495092456785&lat=27.26648085306266」の部分に、自分が計測したい月の地点の緯度経度を入力すると、その地点を中心とした画面が開く仕様になっています。公表されているSLIMの着陸目標地点の緯度経度を入力した画面がこちらです。

SHIOLIクレーター

庄:場所さえ特定できれば、あとは左上のツールから面積を測ったり、高低差を比較したり、自分の興味に沿って色々なものを測定できます。

面積測定機能
断面図可視化機能

蓙谷:クレーターの深さが3,345mって可視化された途端に親近感が増しました(笑)。富士山程度かと思うと、スケールの大きさがよくわかりますね! SLIMの居場所さえわかれば、SLIMが記録した映像に写っている山や岩など、近辺にあるものも色々計測できて面白そう。

いつか天地人コンパスMOONで、宇宙機の軌道を可視化してみたい!


蓙谷:天地人コンパス MOON、初めて使ってみたけどすごく面白かったです。月をすごく身近に感じたし、ワクワクしました。色々なことに応用できそうですよね!

庄:そうですね。今回のSLIMミッションがきっかけで、宇宙船や人工衛星、探査機など、月へ着陸する物体の航路をMOONで再現できたら面白そうだと思いました。

蓙谷:面白そう! ゲームセンターとかでよく見る、スポーツカーとかバイクの運転シミュレーションの宇宙版って感じですかね。

庄:ただ単に宇宙を移動して楽しいだけでなく、MOONの強みは緯度経度を指定したりすることで「探査機が見た景色」をリアルに再現できる点だと思っています。

例えば、目標地点に近づきながら、ある地点で「着陸フェーズ開始」みたいなボタンを押すと、段々スピードが落ちていって。ほかにも移動しながら色々なミッションが体験できて、とか。「宇宙機はこうやって月までの旅をしています」みたいなストーリーを体験してもらえたら、特に子どもたちは宇宙に興味を持ってくれるんじゃないかと。

蓙谷:VRも組み合わせたりして、すごくリッチな体験にできそうですね! 夢が広がりました。


「天地人コンパス MOON」は、アカウント登録不要で誰でも気軽にご利用いただけます。ぜひSLIMと一緒に月面旅行気分を味わってみてください!


天地人ではエンジニアを積極採用中です!下記リンクより、是非お気軽にカジュアル面談をお申し込みください🙌

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