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【作品紹介】昇 鰻 / 行き先は鰻に聞いとくれ!

 いにしえより、勇壮で勢いの良さや雄々しい姿、武運長久を表す言葉として、昇龍(しょうりゅう・のぼりりゅう)・昇鯉(しょうり・のぼりこい)といった言葉が使われてきました。
 本作では、それらの例にあやかるべく、強かさしたたかさと生命力の象徴としてうなぎに出番を請うことにしました。
 それも、いつもの根付ではなくブローチとしてです。

行き先は鰻に聞いとくれ!

 とかく、ウナギ生命力は侮れません。
 それは皆さんもよくよくご存知のことと思います。古来より「精がつく食べ物」として知られていますよね。殊に、川の産物に限って言えば、スッポンと双璧を成す存在(食材?)だと言えるでしょう。

ウナギは古典落語の噺にも登場する

 そんな当たり前の話はともかく、本作でウナギが昇っているのは、空や雲の中(龍)でもなければ、鮮烈な滝の中(鯉)でもありません。
 それは一目瞭然「木」です。 
 作者にしてみれば「天然ウナギの生命力や強かさを表現するのに相応しい組合せとして木を選んだ … 。」などと言えば格好がつくのかもしれませんが、事実は少々異なります。

「素人鰻(鰻屋)」や「鰻の幇間」「後生鰻」が定番か

 「事実」なんて大仰な言葉を使いましたが、それは僕の悪い癖。
 結論から言えば、ウナギが木の上を這いずって上流へ泳いでいく場面を目撃したという実話に因るのです。

 とある日の夕刻。
 夕マズメの釣りを小一時間ほど楽しもうと向かった某川で、釣りを始めて直ぐに良型の岩魚いわなを釣り上げた僕は、酩酊のひと時を満喫した後に気持ちよく竿をたたみ、車を停めた場所まで歩き始めました。(魚はリリース)

本当に器用に そして懸命に昇っていったウナギ

 折しも、数日前に降った大雨の影響もあって、本流に流れ込む枝沢や水路の合流地点には、上流域から流れてきた大小様々な倒木が流れを塞ぐように横たわっていました。
 この増水が齎したもたらした夥しい残骸を目標に、日の暮れかかった河原を歩いていたのですが、その水路の合流地点に近づいていくうちに、木皮が荒々しく剥がれた流木の上で、何物かがウネウネと動いていることに気付きました。

 一瞬「ヘビ?!」と思いましたが、どうやら違います。
 興味がそそられたので、流木の方に歩みを進め、目を凝らして見てみると、その正体は、30㎝程のウナギでした。それも一匹だけではありません。2,3匹のウナギが、水路を塞ぐように倒れている流木の上を、川の上流を目指して七転八倒の態で昇ろうとしているのでした。 

目は水牛の角で象嵌 仕上げは ヤシャブシ(染)とイボタ蝋(磨)

 その様子を発見した僕の第一声は「わぁ!凄い!」。
 まるで子どものリアクションですね(苦笑)。でも、小さな命が躍動する姿って、本当に健気に見えてしまうのです。
 彼らは、餌の豊富な場所を探すために、あるいは産卵場所を確保するために、過酷な障壁をものともせずに上流域へ向けて悪戦苦闘を続けていると。
 この小さな命の滾りたぎりを目の当たりにして、僕は得も言われぬ愛おしさを覚えました。

 とまぁ、そんな場面から、本作 昇鰻しょうばん は生まれました 。


 かつて、落差の激しい滝を、ウナギの群れが遡上している映像をドキュメンタリー番組で見たことを思い起こしました。彼らは、あえて水勢の影響が少ない濡れた岩肌を選び、身をくねらせながら昇っていましたっけ … 。
 僕が出会った場面は、それとは同じ状況ではありませんでしたが、実際に自然環境の中で目にすると、想像以上のエネルギーを感じるものです。

 この尋常ならざるエネルギーが、ウナギを精のつく食べ物足らしめていることは言うまでもないでしょう。それに気付いた古代の人々の勇気と見識と味覚には驚かされるばかり。

ベースピンはビスとボンドで固定

 そんな情緒的な話はここまでとして … 。
 地球規模の気候変動のみならず、海や河川の環境も変わり、数多の生物がその生息域を減らしている現実が横たわっているわけで … 。

 殊に、ウナギに関しては、養殖に供するシラスウナギの捕獲減少に同調するように蒲焼の値段もまた跳ね上がっていき、いよいよもって市井の人々の口には入らなくなってしまったと … 。
 更に余計なことを綴れば、養殖ウナギの産地偽装や与えている餌の問題といったもまた、他の海産物と同様にウナギ(養殖ウナギ)が抱えている後ろ暗い問題であると言えるでしょう。
 もはや、僕の気持ちは悲観と遺憾が混然一体。

ブローチの木部のサイズ:長辺 54㎜ × 短辺 23㎜ × 高さ(厚)12㎜

 とまれ、自分で自分の首をしているのは人間ですから。
 僕自身は、蒲焼を食べれないことくらい我慢します。(無暗矢鱈に大枚を叩いでウナギを食べることが、ウナギ業界を良くするとは思えないし。)
 ただ、死ぬ前に「とびきり旨い蒲焼」を食べたいですね。それが叶うように、川の環境を静かに見守っていきたいと考えています。

 と言った具合に、またもや「作品紹介」らしくない「作品紹介」になってしまいました。本当に御免なさい。もし、興味を持っていただけたなら、ネットショップ creema の方も遊びに行ってみて下さいませ。

日本中の川が「鰻が帰ってこれる川」であって欲しい

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