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家族が行う医療行為

 在宅療養では、点滴や痰吸引など、病院であれば医師や看護師が行う医療行為を、家族が行うケースもあります。

 私の経験では、医療行為に関しては積極的に「やりたい」というご家族と、「やりたくない」というご家族にはっきり分かれる傾向があります。やりたくないという家族は、手順を間違えるなどして何かあったら怖いという気持ちが働くようです。
 事実、医療行為には、誰でも行えるような比較的簡単なものもある一方、医療機器の操作手順などを覚えてもらわなければならないものもあります。介護者の判断力や認知機能が低下しているようなときは、そうした医療行為を担うのは難しくなります。
 家族が何をどこまで行うかという医療行為の内容・範囲は、医師とよく相談して決めるようにしましょう。
 相談の結果、家族が医療行為を行う場合、事前に医師や訪問看護師が家族に指導を行います。
 医療の専門知識がない人でも必要な行為を行えるように、パンフレットを渡すなどして、わかりやすく指導します。また医療機器の操作などは、慣れるまで看護師が横について教えることもできます。
 医療行為といっても、慣れてしまえばそれほど難しいことではありません。また家族による医療行為のミスで、重大な事故に至るようなケースは非常にまれです。異変があったときや緊急時の対応につぃても在宅医に確認しておいたうえで、取り組んでみてください。
 在宅医療で家族が行うことのある主な医療行為は、以下のようなものです。


褥瘡のケア-1日1回でもOK

 褥瘡の治療は医療行為の一つです。訪問看護を受けている人は、看護師が行く日は看護師が行いますが、看護師の訪問のない日は、家族が代わって治療をするケースが多くなっています。
 基本的な褥瘡の処置は、次のような手順になります。

・必要なものを準備し、手洗いをして手袋をつける
・褥瘡の傷口を洗浄する
・傷口に薬剤を塗布する
・被覆材(皮膚を覆うもの)で傷口を保護する

 在宅療養の現場でも褥瘡の治療を行いますが、家庭では1日1回でもOKです。処置の方法は、褥瘡のできた位置や傷の深さなどによっても変わるので、医師・看護師の指示に従って行いましょう。
 褥瘡の周りが赤く腫れている、熱を帯びている、浸出液が増えた、悪臭がする、褥瘡の痛みが強い、前身の発熱や意識障害がある、といった状態が見られたときは、すぐ医師に連絡してください。


点滴の管理-異変や、終了の連絡をする

 在宅療養では、点滴で患者さんに薬剤や栄養・水分等を投与することもよくあります。点滴には一定の時間がかかるため、その管理を家族にお願いすることがあります。
 点滴自体は、医師や看護師がセットします。家族にはポタポタと垂れる液が正常に落ちているか、止まったりしていないかという、見守りをしてもらいます。何か異変があれば、すぐにクリニックに連絡をしてください。
 点滴が終わったら医師に連絡してもらうか、医師の指示に従って点滴の針を抜き、傷口にガーゼを当てるといった処置を行います。
 また、がんの終末期などで、複数の点滴を行うような場合には、家族に点滴の付け替えなどを依頼することもあります。


在宅酸素療養-機器の確認や、チューブ洗浄などをする

 自宅に酸素濃縮装置を置き、そこからチューブを通って送られてくる酸素を吸引するのが、在宅酸素療養です。COPD(慢性閉塞性肺疾患)や心不全などで、慢性呼吸器不全がある人に行います。延長チューブを使えば食事や入浴なども普通に行え、携帯用の酸素ボンベを使用すれば吸入をしながら外出もできます。
 家族にしてほしいことは、酸素濃縮装置の設置環境や使い方の確認です。濃縮酸素装置は火気厳禁です。装置の半径2mにろうそく、ライター、コンロ、ストーブなどの下記を近づけないでください。
 また治療開始後は医師の指示した酸素流用で作動しているか、チューブが途中で折れたり、つなぎ目が緩んだりしていないか、チェックしましょう。鼻の下に当てる部分のカニューレは汚れがたまりやすくなります。ときどき水洗いをして衛生的に使用してください。


痰の吸引-手順やコツを医師・看護師に教えてもらう

 自力で痰(気道の道の分泌物、貯留物)を取り除けない人や、気管挿入・気管切開をしている人には、分泌物の吸引を行う必要があります。
 吸引は訪問看護師や、研修を受けた介護士が行うこともでいますが、ゴロゴロと異常な呼吸音がするとき、苦しそうな息遣いをしているときには、家族も吸引を行えると患者さんが早く楽になります。
 吸引には、専用の装置を使用します。
 吸引気に吸引用カテーテルを接続して電源を入れ、カテーテルの先を患者さんの口や鼻、気管に挿入し、分泌物を吸い取って取り除きます。
 痰の吸引は患者さんにとっては苦痛を伴うため、手際よく行う必要があります。また挿入前後のカテーテル消毒、使い終わったカテーテルやチューブの洗浄なども必要になります。
 家族が行う医療行為のなかでも操作が複雑になるので、医師・看護師からしっかり指導を受けて行いましょう。


胃ろうなどの経管栄養ー食事と同じように上体を起こして行う

 口から食物を食べられなくなったときに、胃などの消化管に直接、生命維持に必要な栄養を入れる方法が「経管栄養」です。
 経管栄養には、腹部と胃に穴をあけて胃に栄養を入れる「胃ろう」や、鼻から胃まで管を入れ、そこから栄養を注入する「経鼻経管栄養」があります。
 胃ろうの場合、1回400~600mlほどの栄養製剤を1日2、3回、投与します。投与のときには食事のときと同様、上体を起こして行います。栄養剤が逆流するのを防ぐため、終了後も1時間は横にならないようにしましょう。また胃ろうを増設した周囲の皮膚はただれやすいため、こまめに確認します。
 嘔吐や下痢が起きた、栄養剤が漏れる、胃ろうが抜けたといったときは、すぐにクリニックに連絡してください。


インスリン注射ー打ち方と注射器の管理の指導を受ける

 糖尿病でインスリン治療を行っている人は、家庭では本人が自己注射をするのが一般的ですが、認知機能が低下してきたような場合、本人に代わって家族が注射を行うことがあります。
 インスリン注射で大事なことは、医師から指示された時間やインスリン単位を守ることです。時間や単位を間違ってインスリンを必要以上に投与してしまうと、低血糖を起こし、意識を失うこともあるので注意が必要です。
 注射器の使い方はインスリン製剤によっても異なるので、医師・看護師から説明を受けてください。さらに操作に慣れるまでは、取扱説明書を手元において手順を確認しながら行いましょう。
 未使用のインスリン製剤の保管場所、使用済みの注射針の処理方法なども、医師、看護師または薬剤師に確認しておいてください。


人工肛門(ストーマ)管理ー臭い対策と皮膚のケアを

 人工肛門の管理は基本的には本人や看護師が行います。本人に代わって家族が行うときは、やはり看護師から指導を受けましょう。
 ケアのポイントは、臭い対策です。装具が密着しておらず、漏れが生じていたり、袋にたまった弁を捨てるときに捨て口の拭き取りが十分でないと、臭いの原因になります。それを防ぐためにも、一つひとつのケアの手順を確実に行うようにします。
 また夏場や運動時に汗をかくと、装具を付けた部分が蒸れて皮膚障害が起こりやすくなります。汗をかいたあとは早めに装具を交換する、汗を吸収する素材のカバーを付けるなどして、皮膚を保護しましょう。

引用:
『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎